『千日の瑠璃』469日目——私は乾布摩擦だ。(丸山健二小説連載)
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私は乾布摩擦だ。
怜悧とはいえないまでも、まほろ町の子どもにしてはかなり優秀な双子の兄弟、かれらがつづける朝な朝なの乾布摩擦だ。暁天の白む頃、私はまだ少しも汚れていない純一無垢な血液を全身に行き渡らせる。そして、誣いられた事実や思わぬ災禍に満ち満ちた世に敢然と立ち向う勇気と、生き甲斐に直結する大きくて持続力のある目的と、その道への足の踏み入れ方をあらためて呼び起こし、骨っ節を頑丈なものにしてやるのだ。
負けず劣らずよく勉強するふたりは、僅か十歳にして早くも社会から脱落することを恐れている。私はこの兄弟を保身の術に長けたおとなに育てあげたい。天界の謎を解明するほどの稟性の才能を持ち合せていないこのふたりには、ともかくいつの日か人の上に立ってもらえばそれでいいのだ。かれらにあるのは、努力による権力への過剰な適応のみで、決してそれを上回るものではない。
私の立会い人となっている父親は、そんな息子にこう言う。並ひと通りの踏ん張りではとても部下を持てる地位に就けない、と。出世にどんな意味合いがあるのかまだ理解できないふたりは、言うことと行ないが裏腹な父親の言葉を頭から信じている。しかし、いずれ私は、父親がそうしたように、兄弟にも愛想尽かしをされるに違いない。湯気が立ち昇るほど火照ったかれらの体を、為ん術もない病に冒された少年がぴしゃっと叩いて行く。
(1・12・金)
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