オードリー・タンの素顔に迫る! コロナ禍で活躍した「天才」の驚くべき経歴と優しい人柄

オードリー・タンの素顔に迫る! コロナ禍で活躍した「天才」の驚くべき経歴と優しい人柄

 2020年、新型コロナウイルスが世界中に蔓延するなか、マスクの在庫をリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」をいち早く開発して話題になった台湾のIT大臣・唐鳳(オードリー・タン)。日本でも一躍その名をとどろかせましたが、どのような人物なのか、どうやって台湾で最年少の閣僚となったのか、詳しく知る人はまだ少ないのではないでしょうか。

 気鋭の台湾人ジャーナリスト2人が、若き天才であるオードリー・タンの素顔に迫り、一冊の本にまとめたものが『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』です。

 タン氏の天才ぶりは幼少期のころから際立っていました。その様子は本書のEpisode2「天才児童」、Episode3「独学少年」で詳しく知ることができます。小学1年生で連立方程式を解き、小学4年生で6年生のクラスに飛び級、中学生になるころにはコンピュータのプログラミングに夢中になり、ハッカー(高い技術力や豊富な知識を持つプログラミングの達人)文化に傾倒していきます。

 このころ、自分に「天才」の肩書きを与え、学歴などの栄誉を押し付ける周囲に嫌気がさしていたタン氏は、インターネット界の天才たちと交流を深める中で、そこに自分の居場所を見つけるようになります。そして、「社会のルールに従って良い子としてふるまい、上を目指して人生の勝ち組になるか? それとも、社会の穴を突き止めるハッカーとなり、その穴を埋める何かを創造するのか?」(本書より)と自身に問いかけ、高校へ行かない選択をするのです。このようなわけで、180という非常に高いIQを持ちながらも、学歴は中卒となっています。

 中学卒業後、タン氏は10代で実業界へと足を踏み出します。IT企業「資訊人」など数々の会社に中枢として携わり、2012年ごろにはSocialtext、Apple、オックスフォード大学出版局の3社の顧問になるほどの実力を兼ね備えていました。1カ月の収入は2万米ドル(約200万円)にものぼったといいます。

 しかしここで、「リタイアして、生活の心配もないのであれば、『今こそ公共の利益のために身を投じるべきときだ、今後の時間をそのことに捧げよう』」(本書より)という考えに至るところが、タン氏の人となりを物語っています。それまでITの実務を担当する閣僚がいなかった台湾において、タン氏がその役目を担うことになったのは自然な流れといえるのかもしれません。

 このほか、24歳でカミングアウトしたトランスジェンダー女性、中国語や英語を使いこなして作詩をする詩人、政府の在り方に透明性を持たせようとする「保守的な無政府主義者」など、さまざまな顔を持つタン氏。本書の「はじめに」では、レオナルド・ダ・ヴィンチの「私は橋を作ることもできますし、たまたま絵を描くこともできます」という手紙の文面が引き合いに出されています。タン氏も同様に、複数の才能が融合した異色の人物であることに間違いはないでしょう。
 
 巻末にはタン氏におこなったインタビューや、特別付録「台湾 新型コロナウイルスとの戦い」を収録。非常に読みごたえのある一冊となっています。時代に選ばれた天才の素顔を、ぜひ本書で確かめてみてください。

(文・鷺ノ宮やよい)

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