自転車あおり運転容疑で「ひょっこり男」起訴。ウーバーイーツ配達員の事故など自転車トラブルの現状と罰則について

自転車あおり運転容疑で「ひょっこり男」起訴。ウーバーイーツ配達員の事故など自転車トラブルの現状と罰則について
コロナ禍で普及が進んだ食品デリバリーや自転車通勤。それに伴い、ウーバーイーツや出前館などの配達中の自転車が関わるトラブルが増えています。

また、自転車で車道を走行中、対向車線に突然はみ出すなどの危険行為を繰り返したとして、自転車によるあおり運転では初めて、「桶川のひょっこり男」が逮捕・起訴されました。他の車の走行を妨げる行為が、改正道路交通法で新たに規定された「妨害運転」として適用されたものです。

自転車によるトラブルでは、あおり運転同様、スマートフォンを見ながらの「ながら運転」なども、単純な迷惑行為に止まらない「危険性・悪質性の高いもの」という認識が広がっています。

車のように運転免許取得の必要がないだけに、手軽な交通手段とされてきた自転車ですが、警察による取り締まりの強化や、悪質行為への厳罰化を求める動きなども加速しそうです。

どのような行為が危険運転になり、罰則の対象となるのでしょうか。交通事故に詳しい弁護士の中村有作さんに聞きました。

車や歩行者の進路をふさぐ行為は全て自転車の「妨害運転」。あおり運転・ながら運転への処罰感情はさらに増大する懸念も。法令やマナーの確認、任意の自転車損害保険加入などが必要に

Q:2020年6月の改正道路交通法で、自転車の危険行為としてあおり運転にあたる「妨害運転」が追加されました。どのような行為が妨害運転となるのでしょう?
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自転車は法律上、軽車両になります。ですから本来は車道を走行しなければならず、車と同じように道路交通法に従わなければなりません。

ところが、自転車専用通行帯が少ないこともあり、自転車が歩道を通行することも日常的で、法律上も「例外的に」認められているなど、認識があいまいな部分も多く、どうしても自転車と歩行者、自転車と車のトラブルが頻繁に起きてしまうのです。

改正道路交通法では、「自転車の危険行為」として、歩道や車道・路側帯を通行する際の通行区分違反や安全義務違反のほか、信号無視、酒酔い運転など、従来の14項目に加えて、車と同様「あおり運転」にあたる「妨害運転」が、15番目の項目として追加されました。

【自転車の妨害運転】
①逆走して進路をふさぐ
②追い抜こうとする車両などの進路をふさぐような幅寄せ
③急な進路変更
④急ブレーキ
⑤執拗にベルを鳴らす
⑥車間距離を詰める
⑦無理な追い越し

このほかに警察庁は、重大な交通事故につながる極めて危険な行為であるとして、「ながらスマホ」についても言及し、注意喚起しています。

Q:実際にどのようなトラブルが起きていますか?
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警察庁の調査では、自転車が関連した死亡・重傷事故で最も多いのは車との事故で、約77%を占めます。そのうち、出会い頭の衝突が約56%と一番多く、安全確認が不十分であったり、一時停止の義務違反があったりと、自転車側の不注意によるものが少なくありません。

桶川市の「ひょっこり男」のケースは、「あわや大事故に」という悪質さが大きな話題になりましたが、故意ではなくても、重大な結果を引き起こした自転車関連事故が、過去にはいくつもあります。

兵庫県神戸市で2008年9月、神戸の小学生が60代女性と正面衝突、後遺障害が残り、2013年神戸地裁は、9500万円の賠償責任命令を下しました。

近年では、「ながらスマホ」が深刻な事態を招くことも。神奈川県川崎市で2017年12月、電動自転車を運転中の20歳の女子大生が77歳の女性に衝突、女性は転倒し死亡。スマートフォンと飲み物を両手に持ち、耳にイヤホンという危険運転により重過失致死の疑いで送検され、2018年8月に禁錮2年執行猶予4年の判決が下されました。
2019年6月には、兵庫県伊丹市で、信号のない交差点を、スマートフォンを見ながら自転車で走行中の女子高校生が70代の男性と衝突。男性は一時重体となり、意思疎通が困難に。その後女子高校生は重過失障害の疑いで書類送検されています。

Q:自転車のあおり運転を含む道交法違反を犯した場合、どのような罰則が科せられますか?
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改正道路交通法では、車のあおり運転に対する罰則が創設されました。違反行為については厳しい取り締まりの対象となり、厳罰化が進みました。

同じく、自転車のあおり運転についても摘発の対象となり、厳罰が科せられるようになります。

14歳以上の人が、3年間のうちに2回違反をした場合は、約3時間所要・受講料6000円の安全講習を受講する必要があり、受講しなかった場合は、5万円以下の罰金が科されます。

車の危険運転の場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金や免許取り消しなどのほか、「著しい交通の危険」を生じさせた場合に、5年以下の懲役または100万円以下の罰金となりますが、軽車両である自転車の場合も同様となります。また、相手にけがを負わせた場合は、重過失傷害罪などに問われたり、被害者から損害賠償を請求されたりするケースもあります。

車は運転免許証の取得が必要で、その際に法令についても学ぶ機会がありますが、自転車の場合はその必要がありません。ただ警察庁では、自転車の運転に関する交通ルールやマナーのうち特に重要なものとして、以下のような「自転車安全利用5則」をまとめ、注意を促しています。

【自転車安全利用5則】
①自転車は、車道が原則、歩道は例外
道路交通法上、自転車は軽車両と位置付けられており、車道通行が原則(自転車道がある場合は、自転車道を通行しなければならない)。
②車道では左側通行
自転車は、道路の左側に寄って通行しなければならない。
③歩道は歩行者優先
歩道を通行する場合は、車道寄りの部分を徐行し、歩行者の通行を妨げる場合は一時停止しなければならない。
④安全ルールを守る
飲酒運転、二人乗り、並進の禁止、夜間のライト点灯、交差点での信号遵守と一時停止、安全確認
⑤子どもはヘルメットを着用

Q:コロナ禍で増えたデリバリーの配達員による事故や、通勤や勤務中のトラブルなど、個人の責任だけに止まらないケースが増えていますが、雇用先などの責任も大きくなるのでしょうか?
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2018年6月、大阪市内でウーバーイーツの配達員の自転車に追突されてけがをした女性が、配達員と運営企業の日本法人「ウーバー・ジャパン」(東京)に約250万円の損害賠償を求めて提訴。個人事業主である配達員だけでなく、使用者としての賠償責任があるとしてウーバー・ジャパンに治療費などを求めています。

レジャーなどで自転車を運転中のトラブルは自己責任となりますが、通勤中や勤務中となると、労働法15条に基づいて、企業や雇用主にも「運行供用者責任」(自転車の管理と運転者に対する指導監視)」が生じる可能性があります。賠償義務の内容についても、業務上自転車乗務の指示があったかどうかなどで、変わる場合があります。

個人的な利用や業務上の使用などに関わらず、自転車で走行中のトラブルには、車と同様の責任が個人や企業に重くかかってきます。

自転車と歩行者の事故で民事裁判になった場合、40~50万円の賠償命令が出されるケースも。こうした事故のうち、歩行者が死亡または重傷となった場合、運転者が損害賠償責任保険などに加入していたというケースは6割程度。半数近くの人が、突然数十万円の罰金や賠償金の支払い義務を負うということになったわけです。

車のように運転免許や自賠責保険加入、車検などの義務がないからこそ、気軽に利用できる自転車ですが、自転車の性能が向上していることや、利用者が増えたことで、深刻化するトラブルに備え、損害保険の加入を呼びかける自治体も増えています。

しかし、まだ全国レベルとはいかず、「努力義務」の範囲を超えていないというのが現状です。

Q:これまで自転車の走行に関して、自動車ほど厳しい取り締まりがされてこなかったイメージですが、今後は違反の摘発なども厳しくなるのでしょうか?
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警察白書によると、自転車の違反行為の取り締まり件数は年々増加し、2019年は2万件を超えています。

自転車指導啓発重点地区に指定されている道路を重点的に、自転車運転者の信号無視や一時不停止などに対して指導警告を行うとともに、悪質・危険な交通違反に対しては検挙措置を講ずるなど、「厳正に対処する」としています。

特に近年は、車のあおり行為に関して、世の中の見方が厳しくなっていることを感じます。ドライブレコーダーの浸透で、危険行為の事実が証明しやすく、また拡散しやすくなっていることも一因になっているのかもしれません。

新型コロナの影響もあって、自転車通勤する人が増えているとのことです。最近は軽くて性能の良い自転車も多く、驚くほどスピードが出るものもありますので、十分な注意が必要です。

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