起業するにあたって気をつけなければいけないことを教えてください(中川淳一郎)

起業するにあたって気をつけなければいけないことを教えてください(中川淳一郎)

■相談:

友人と一緒に「起業しようぜ!」ということになりました。具体的に何をやるかといえば、企業のソーシャルメディアの活用を支援するようなサービスを提供します。現在コアメンバーは3人いて、あとはバイトを雇う予定です。起業するにあたって気をつけなければいけないことを教えて下さい。(ひかちゅー・25歳・IT・男)

■中川淳一郎の回答:

おっ、決めたか。頑張れよ。一番気を付けなければいけないのは固定費だ。3人のコアメンバーがいて、それなりに仕事が取れる、という目算があって起業するのだろうが、会社というものはいつ奈落の底に落とされるか分からない。3人規模の会社一番心がけなくてはいけないのは、無借金経営である。借金がある状態になると、カネが欲しいあまり、ロクでもない仕事に手を出したり、借金取りの対応に苦慮したり、無駄な利息を払うハメとなり、本業がおろそかになるからだ。で、ソーシャルメディアの活用を支援する会社であれば、正直、設備投資はいらないだろう。

だが、会社を作ってしまうと、舞い上がってしまい、西麻布とか青山とか妙に高い場所にオフィスを構え、備品もスウェーデンの家具とか、豪華にしちゃうものなんだよな。さらには「打ち合わせスペースが必要です」なんて言って、一部屋多い物件を借りてしまう。こうしたことをやるにあたっての理由づけは「お客さんも安心する」とか「こういった環境であればクリエイティビティも湧く」とか「金を稼ぐぞ! という覚悟を得るため」なんてもんがある。

起業するってのはそりゃあ鼻高々だろうよ。お前みたいに25歳の若さでも「社長」とか「共同CEO」とか名乗れるんだぜ。そして最初は資本金があるだろうから、それを使って上記のような投資をし、とりあえず形だけは立派な会社になるわけだ。

だが、本当に重要なのは何年にもわたってカネを稼ぎ続けられるかどうかなんだよね。オレは正直、ソーシャルメディアの活用なんてもんは、コンサルするものだとも思っていない。理由は、ありとあらゆる世界のDQNがソーシャルメディアを使いこなしているからだ。ソーシャルメディアがソーシャルたりえるのは、誰にでも使えるからなんだよな。今はクライアントだってソーシャルメディアに慣れていないから、コンサル的な人間を入れることもあるとは思うが、ふとした時に「つーか、これって自分でできねぇか?」なんて思った時はいきなり契約打ち切られるぞ。


【家賃にカネを使うくらいなら、「人」にカネを使え】

別にお前の気持ちをくじこうと思っているわけじゃない。会社ってものはいつ逆風が吹くか分からないんだよ。そんな時に慌てないようにするには、とにかく固定費を普段から下げておくことなんだ。たとえば、家賃のことを考えよう。上で挙げたような青山の物件であれば、40万円くらいするだろう。だが、家賃にカネかけるくらいだったら、外注先の費用に回した方がいいんだ。

正直、3人+バイトの4人であれば、山手線の外の10万円の部屋で十分。いや、むしろ、オフィスなんて持たず、各人が家でやればいい。なぜ、オフィスに40万円もかけるのがバカらしいかというと、飲食店のように立地が重要な業態以外では、家賃は何も生み出してくれないんだよ。だが、外注先に40万円かけたら、それは100万円に化けてくれるんだ。

いえいえ、クリエイティブな環境だからこそ、クリエイティブなことができるんです、なんてお前は言うかもしれないが、そんなこたぁない。それは儲かっている時に言えることで、いきなり最初からそれを言うのは違うぞ。どこで仕事をしようが、まともなヤツは結果を出す。

起業するということは、リスクも背負うわけだから、最初はいかにそれを最小限にするか、ということを考えた方がいい。そして、もう一つ考えるべきことは「いつ会社を畳むか」ということだ。オレなんて、今はそれしか考えていねぇぞ。オレの会社は大学の同級生と2人でやってるんだけど、そいつにはいつもこう言っている。


オレは気まぐれだからいつ会社を辞めるか分からん。アンタは一人でも生きていけるほどしたたかな人間だと思うが、その時はまぁ、なんとか人生頑張ってくれ。

彼女は「当たり前じゃん。私は驚いたりしないし大丈夫だよ」と言ってくれているが、これが起業にあたっては重要なんだ。調子が良くなることよりも、終わってしまった時のことを考えておいた方がいい。その時に借金があるかないかでは大違いだ。借金があると、再起を図るのもタイヘンだ。それに、外注先を含めた「人間」に対してカネを出しておけば、会社を畳んだ後も、その人たちから仕事をもらえるかもしれない。

オフィスや家具やPCにいくらカネを使おうが、それらは会社を畳んだ後のお前を助けてはくれない。せいぜいオークションで5分の1のカネで買い叩かれるくらいだろう。

というわけで、後ろ向きに聞こえたかもしれないが、仕事を受注するのは結構大変なことなんだ。借金をしてしまうと心もすさむし、借金を返すための仕事しかできなくなる。だから、最初は身軽にしておけよ。

文/中川淳一郎(編集者)

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