孫正義氏の評伝『あんぽん』に盗用を発見~佐野眞一氏の「パクリ疑惑」に迫る(第9回)
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『あんぽん』というタイトルの悪意
「週刊ポスト」で「化城の人」連載が始まる前、佐野眞一氏は同誌で「あんぽん」という大型連載を執筆していた(第1部は2011年1月7日号から3月25日号まで。第2部は2011年7月29日号から9月23日号まで掲載)。
この連載は『あんぽん』(小学館、2012年刊行)として単行本化され、10万部を超えるベストセラーになっている。
『あんぽん』とは、ソフトバンク社長・孫正義氏が幼少のころ呼ばれていた蔑称である。
在日韓国人としての旧姓「安本」の読み替えであり、「あんぽんたん」というニュアンスも含んでいる。
「あんぽん」という韓国風の発音が、自分の出自を隠して生きてきた孫の自尊心を深く傷つけた。(『あんぽん』16ページ)
と綴っているにもかかわらず、孫氏が不快に感じる蔑称をメインタイトルに据えるセンスは佐野氏流だ。
ガジェット通信特別取材班は、佐野氏のベストセラー『あんぽん』についても盗用の疑いがあるか調査を始め、巻末に掲げられていた以下の参考文献と、『あんぽん』本体を仔細に読み比べてみることにした。
・松原耕二『勝者もなく、敗者もなく』(幻冬舎、2000年9月刊行)
・孫泰蔵『孫家の遺伝子』(角川書店、2002年8月刊行)
・児玉博『幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来』(日経BP、2005年6月刊行)
・大下英治『孫正義 世界20億人覇権の野望』(KKベストセラーズ、2009年5月刊行)
・孫正義・佐々木俊尚『決闘ネット「光の道」革命』(文春新書、2010年10月刊行)
・井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』(実業之日本社文庫、2010年12月刊行)
・菊池雅志『孫正義が語らないソフトバンクの深層』(光文社、2010年12月刊行)
『あんぽん』と参考文献を読み比べながらページを繰っていくうちに、ガジェット通信特別取材班は看過できない点に気づいた。
松原耕二『勝者もなく、敗者もなく』からパクったと思われる部分が『あんぽん』に記されているのだ。
ちなみに松原耕二氏とは、TBS「NEWS23クロス」でメインキャスターを務めていたこともあるジャーナリストである。
それだけではない。
大下英治『孫正義 世界20億人覇権の野望』と井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』については、「参考文献を見ながら取材先をリストアップし、両者の取材をトレースしただけではないか」と疑念をもつ箇所がいくつも見つかった。
取材相手が丸かぶりなうえ、相手から取ったコメントまで似通っているのだ。
大宅壮一ノンフィクション賞の選考委員・深田祐介氏はかつて、佐野眞一『紙の中の黙示録』が自分の著作『新東洋事情』の取材先をことごとくトレースして描いていることに激怒し、『紙の中の黙示録』は大宅賞受賞を逃した(この件が尾を引いたのか、佐野氏は4回も連続で大宅賞受賞を逃している)。
※詳しくは本連載第5回をご覧いただきたい。
立花隆氏、柳田邦男氏も呆れた……佐野眞一氏の「パクリ疑惑」に迫る(第5回)[リンク]
TBS松原耕二氏の著書からのパクリ疑惑をご紹介する前に、「取材行為のトレースが疑われる部分」を6点にわたってご紹介しよう。少々長くなるが、以下おつきあいいただきたい。
疑惑その1
三上のクラスで、正義たちは通信ノートを交換していた。そのノートは八冊にもおよんだ。内容は多岐にわたっている。
(略)
正義は別の詩も書いている。この詩からは、小学校六年生の心情がまざまざと浮かび上がってくる。後年のホン・ルーとの友情やモーザー博士への信頼の情さえ、すでに萌芽として見られるのではないか。【以下、孫正義少年の詩「涙」を全文引用。ただし『あんぽん』とは句読点の使い方が何カ所も異なる。】
(井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』実業之日本社文庫、2010年刊行、115~117ページ)
【※引野小学校5・6年生時代の担任】三上【※喬】は快く家にあげてくれ、小学生時代の孫の思い出を語ってくれた。
(略)
三上はそう言って、一冊のノートをテーブルの上に広げた。(略)通信ノートと記されている。(略)孫が十二歳のときである。
そこに「涙」という孫の自作の詩が書きこまれていた。
〈君は、涙をながしたことが
あるかい。
「あなたは。」【以下、2ページ半にわたって孫正義少年の自作の詩が引用される】
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、68~71ページ)
疑惑その2
一年C組の担当になったのは、赴任して三年目の阿部逸郎である。二六歳。この年、はじめて自分のクラスを持った阿部に、安本正義は強烈な印象を残している。
もの静かで、いつも笑みをたたえた少年が、教員室に訪ねてきた。
「先生、学校をつくろうと思うのですが、協力していただけませんか?」
(略)
「カリキュラムも組んであります」
正義は、一枚の紙を見せた。
「そのためには、きちんとした先生が必要なんです。私は教員にはなれないので、先生に是非なっていただきたいのです」
正義は真剣である。
(略)
いきなり新入生からこんな話を切り出されたら、教師たるもの、どう返事をすればいいのか。
「よく考えておくよ」とだけ答えるのが精一杯だった。
のちになってわかったが、正義は校長にも同じことを相談している。
(井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』実業之日本社文庫、2010年刊行、132~133ページ)
城南中学三年生のとき、孫を担任した前出の河東には忘れられない思い出がある。久留米大附設高校に入学してから一ヶ月くらい経った頃、河東に孫から突然、電話がかかってきた。
「『先生、ちょっと話がある』って言うんです。で、呼び出された場所が、福岡市内のレストランでした。まあ、レストランに教師を呼びつける十五歳というのは、それだけでも珍しい(笑)」
河東が用件を尋ねると、孫はこう切りだした。
(略)
「実は僕は、いまから学習塾を経営したいと思っているんです。これが、僕が考えた塾のカリキュラムです。どう思いますか?」
(略)
孫はこんなことまで言った。
「僕はまだ高校生なので、経営の表に出ることはできません。そこで、先生に頼みがあります。先生、塾の責任者をやっていただけませんか?」
(略)
「私は半分呆れながら、孫君に言いましたよ。ちょっと待ってくれ、君はまだ高校生だ。何もそんなに急いで商売を始めることはなかろう、せめて高校を卒業してから考えたらどうか、と。
彼はその提案に『うーん』と考え込んでいましたが、私が乗ってこないので結局は諦めてくれました。でも、彼の作ったカリキュラムはなかなかしっかりしたものだと記憶しています」
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、80~81ページ)
疑惑その2で不可解なのは、孫少年がヘッドハンティングしようとした教師が違うことだ。『あんぽん』では河東氏であるのに対し、『志高く 孫正義正伝完全版』では阿部逸郎教師&校長とされている。
疑惑その3
正義は古賀たち友人と天神にあそびに出かけた。雨が降ってきたため、天神西通りの回転焼き屋に入った。正義はまんじゅうには手をつけず口を開いた。
「実は……」
友人たちの視線が集まった。
「いままで言えんやったばってん、言うとかないかんことのあるったい」
正義は真顔で言った。
「おれは、韓国人たい……」
(井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』実業之日本社文庫、2010年刊行、124~125ページ)
城南中学一年のときの同級生で、現在は福岡市内の小学校教師となっている古賀一夫も、孫が韓国籍であることは三年生になるまで知らなかったという。
「ただ、うすうすそうじゃないかなとは思っていました。彼の家の表札に『李玉子』というお母さんの名前が書かれていましたからね。
彼が韓国籍であることをはっきりカミングアウトしたのは三年の冬頃だったと思います。仲の良い友人たちと天神に遊びに行ったときです。回転焼き(大判焼き)の店に入って、おしゃべりをしていたんです。高校に行ったら、みんなバラバラになってしまうなあ、寂しいなあ、というような話をしていたとき、突然、安本くんが話を遮るようにして、ぽつりと漏らしたんです。
『実は、僕は在日韓国人なんだ』って。
その言葉に、どう反応していいのか、みんな困ってしまった。というのは、そう告白したときの安本くんが、普段とは違ってものすごく真剣な表情をしていたからなんです。
それ以上、彼がどんな話をしたかは覚えていません」
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、77ページ)
疑惑その4
あるとき、【※父の三憲は】正義に言った。
「今度、デパートの近くに『山小屋』という名のレストランをつくろうと思うんだ」
「山小屋?」
「町の中に、丸太やらなにやらで山小屋風のレストランをつくるんだ。そうすれば、みんなの心がなごむだろう」
(略)
三憲は準備を進めるかたわら正義にさまざまなことを訊いた。
「値段はどうしようか」
「こういう形でコーヒーの無料券を配ろうと思うんだが、どうか」
小学生の正義は、自分の知恵をふり絞って答えを出した。
三憲は、正義が答えるたびに感心した。
「おお、それはいい。おまえはやっぱり天才だ」
実際は三憲が考えていたことだが、手柄は正義のものにした。それが三憲なりの教育だった。
(大下英治『孫正義 世界20億人覇権の野望』KKベストセラーズ、2009年刊行、23~24ページ)
「喫茶店にでもするかと思って、『山小屋』という店をつくったんです」
(略)
「家に帰って、正義に聞いたんです。『お前は天才やろ。何かいいアイディアはないか?』って。すると、生意気に『確かに、場所は悪いね』とかいうんですよ(笑)。それで、紙とボールペンを渡して、なんかアイディアをまとめろ、と言うと、二、三分考えてから、『コーヒー何杯飲んでも無料』と書いて、コーヒーのイラストまで描いたんです」
(略)
そのあと、三憲と小学生の正義の間で、こんなやりとりがあった。
「おおっ、そうか、タダで飲ませんばいかんか?」
「場所が悪かけんが、しょうがなかろう」
「赤字になるかも知らん」
「赤字が出るかも知れんね。でも、それしかない」
「そうか、そんならおまえが書いた通り、印刷するぞ」
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、144~145ページ)
大下英治氏の本では、喫茶店のコーヒーを無料にして客を集めるといったアイデアは父・三憲氏が出して孫少年を誘導していったことになっている。
『あんぽん』では、すべて孫少年が思いついたという筋書きだ。父・三憲氏の記憶があやふやである可能性もある。
いずれにせよ、まるで大下本の一部をトレースしたかのような書きっぷりだ。
疑惑その5
【※この前段で、成績が悪すぎるために森田塾への入塾を断られたエピソードが】
正義は母と森田塾に面接にいった。森田譲康(よしやす)館長は、しばらく正義の通知表を眺め、言った。
「こげん成績じゃお引き受けできまっせん。正義は友人の三木猛義の母、利子に相談を持ちかけた。
「おばさん、森田先生に頼んでもらえんやろうか」
利子は正義の真剣な面持ちを見て、この子のためにひと肌脱いでやろうと考えた。利子は、正義をともなって森田塾をふたたび訪ねた。
「息子の友人の安本君です。ものすご、よか子です。どうぞ、よろしゅうお願いします」
その熱意に負けた森田は、受け入れを承諾した。
(略)
のちに正義は利子に語っている。
「今日あるのは、三木君とおばさんのおかげです。三木君に出会っていなかったら、ぼくはどまぐれた【※「どまぐれた」に傍点】不良少年になっていたでしょう」
どまぐれとは、ひどいという意味である。
(井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』実業之日本社文庫、2010年刊行、123~124ページ)
正義は中学以来の同級生三木猛義の母、利子にも相談を持ちかけている。
「このあたりに塾を作りたいので、おばさん、物件を探していただけませんか?」
マーケットリサーチをして、周辺は団地が多く、採算が取れると踏んでいた。
「大学を卒業してからでも、遅くはなかでしょう」とたしなめた利子だったが、そのときの燃えるような少年の眼を忘れることはなかった。
(井上篤夫『志高く 孫正義正伝 完全版』実業之日本社文庫、2010年刊行、133~134ページ)
孫は早速、森田塾を訪ねたが、孫の成績表を一覧した担当者から返ってきたのは、やはり「この成績ではウチは無理だ」という答えだった。
「しかし、そこであきらめないのが孫君のすごいところです。クラスで一番成績のよかった級友のお母さんが森田塾の塾長と親しいと聞いて、早速手を打つんです。そう、そのお母さんになんとか森田塾に話をつけてくれないかと、頼み込むんです。大人顔負けの行動力というか、知恵です。要するにコネで入塾しようと思ったわけです」【※=城南中学3年のときの担任・河東の証言】
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、82ページ)
念のため、「森田塾になんとか話をつけてくれないか」と孫から頼まれたという主婦にも会った。その主婦は会うなり、その話は本当だと言った。
「安本君から『おばさん、頼みがある』という電話がありました。すぐに安本君とお母さんが家にやってきて、『何とか森田塾に入れるよう力を貸してください』と、母子で深く頭を下げるんです。あれには驚きました。
担任の河東先生に塾をやりたいと言ったという話ですか? 実は私のところにも『塾を経営したいから、不動産物件を探してほしい』って相談に来たことがありました。附設に入学した直後でしたね。『おばさん、掘り出し物の物件を見つけたら教えてください』って言うんで、『せめて高校を卒業してからにしなさい』ってたしなめましたけどね」
(略)
アメリカ留学から帰った孫からこう挨拶されたとき、その主婦は孫を見直したという。
「僕が今日あるのは、おばさん一家のおかげです。もしこの家と知り合っていなければ、僕はいまごろ不良少年になっていたでしょう」
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、82~83ページ)
疑惑その5の太字部分にご注目いただきたい。
佐野眞一氏は「三木君」のお母さんらしき人物に会って直接コメントを取ったらしい。
井上篤夫氏の著書では「三木君」と名前が出ているのに、『あんぽん』では「主婦」と匿名化されている。
さらに気になるのは、井上篤夫氏の著書では「三木君」のお母さんが「どまぐれた」という方言を使っているにもかかわらず、佐野氏の著書では標準語である点だ。
かねてから佐野氏は、ノンフィクション作家にとって「声帯模写」と「形態模写」こそが大事だと力説してきた。
僕の持論ですが、ノンフィクション作家は、声帯模写と形態模写が得意な人じゃないと、やっちゃいけない文芸です。(『現代プレミア ノンフィクションと教養』講談社、2009年刊行、13ページ/佐藤優氏、加藤陽子氏との鼎談より)
ノンフィクション作家になれるどうかの分かれ目の一つは、人の物真似ができるかどうかである。いま会った人間の形態模写をやってみる。朝からの出来事を音だけで表現してみる。こうした訓練を欠かさないことも大切である。(佐野眞一『目と耳と足を鍛える技術』ちくまプリマー新書、2008年刊行、160ページ)
三木君のお母さんがなぜ佐野氏の取材に匿名で応じたのかが不可解だし、方言を「声帯模写」しないところも気になる。「ひょっとして、佐野氏はこの女性に取材せず原稿を書いたのではないか?」とまで、つい妄想してしまう。
TBS松原耕二氏の著書からのパクリ疑惑
それでは、冒頭で触れた松原耕二『勝者もなく、敗者もなく』と佐野眞一『あんぽん』の類似箇所をご紹介しよう。
なお、孫正義少年が書いた「じゅく」という詩については、松原本と佐野本で表記が一部異なるため全文を引用した。
(右が松原本、左が佐野本)
取材の途中で、正義が書いたもうひとつの詩を目にした。
正義が、中学校一年生の時に書いた詩が、クラスの学級通信に載っていた。タイトルは「じゅく」。
ぼくのきらいな じゅく。
じゅくは悪まだ。
差別を生みだすじゅく。
エゴイズムを生みだすじゅく。
「お金」「お金」
うすれゆく友情。
金をはらって行くじゅく。
コンピューターにしてしまうじゅく。
今この世にどれだけ
ぼくらのためのじゅくがあるというのだ。
いつかきっと
正義の原爆がおちる時がくるぞ。
いつかきっと。
きっと。
その時こそ
ほろびるんだ。にせのじゅくが。
(中略)
塾の詩の中で正義が書いた「差別を生みだすじゅく」に「いつかきっと 正義の原爆がおちる時がくるぞ」というフレーズは、子供の持つストレートな過激さだけではない攻撃性すら感じさせた。
(中略)
さらにいえば、「正義(せいぎ)の原爆がおちる」は「正義(まさよし)の原爆を落としてやる」とも読むことができる。
(松原耕二『勝者もなく、敗者もなく』幻冬舎、2000年刊行、134〜136ページ)
城南中学一年のときにも、孫はこんな詩を学級通信に書いている。
題は「じゅく」である。この詩にも原爆が出てくる。〈ぼくのきらいな じゅく。
じゅくは 悪まだ。
差別を生みだすじゅく。
エゴイズムを生みだすじゅく。
「お金」「お金」
うすれゆく友情。
金をはらって行くじゅく。
コンピューターにしてしまうじゅく。
今 この世にどれだけ
ぼくらのためのじゅくがあるというのだ。
いつかきっと
正義の原ばくが落ちる時がくるぞ。
いつかきっと。
きっと。
その時こそ
ほろびるんだ。にせのじゅくが。〉この詩には「誰からも好かれる」「明るい」少年とは別人格としか思えない強い攻撃性が隠されている。
「正義の原ばくが落ちる」は、「正義(まさよし)の原ばくが落ちる」と読むこともできる。
(佐野眞一『あんぽん』小学館、2012年刊行、140~141ページ)
「正義(せいぎ)の原爆がおちる」を、敢えて「正義(まさよし)の原爆を落としてやる」と深読みする。
この読み方はTBS松原耕二氏の独自解釈であるにもかかわらず、『あんぽん』ではまるで佐野氏が初めて深読みしたかのような書きっぷりだ。
こういう場合、自分オリジナルの文章であるかのように地の文に組みこむのではなく、きちんとカギカッコでくくったうえで参照元を明示しなければフェアではない。
というよりも、こういう書き方はノンフィクションの世界で「盗用」「剽窃」と見なされる。
アンフェアな書き方の作品を10万部以上も売り抜ける作家には、それこそいずれ「正義の原爆が落ちる」ことになるかもしれない。
【追記】
思想家・清水幾多郎は『論文の書き方』(岩波新書)で次のように綴った。
引用句は、思想の所有権を明らかにするために用いることが多い。(略)所有権が広く知られていないで、黙っていれば、コッソリと自分の所有物に出来るような場合、(略)これは明らかにした方が道徳的であろう。(138ページ)
イタリアの哲学者ウンベルト・エコの著書『論文作法』(而立書房)からも、引用のルールについてご紹介しておこう。
引用は正確でなければならない。第一に、言葉をあるがままに転写しなくてはいけない。(略)第二に、テクストの一部を省略するなら、必ずそのことを明示しなければならない。(略)第三に、加筆をしてはいけない。(194ページ)
引用するということは裁判において証拠を持ち出すようなものだ。いつでも証拠を見つけることができ、それらが根拠のあることを立証できるようでなければならない。そのためには、引用は正確かつ几帳面でなければならないし、みんなに確認できるものでなければならない。(195ページ)
(2012年11月20日脱稿/連載第10回へ続く)
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