日本の問題は下ではなく上にある
今回はoribeさんのブログ『Meine Sache ~マイネ・ザッヘ~』からご寄稿いただきました。
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日本の問題は下ではなく上にある
自分は日本人論は嫌いですが、日本とその他の国々に違いがあるのは確かだと思います。先日、社会学者の宮台真司先生がこんな風にインタビューに答えていました。
ヨーロッパやアメリカの人たちには、元々は貴族文化に由来する社交の伝統があります。知らない人たちの間で互いの尊厳を保ちつつ関係を深める作法です。だから、知り合いしか前提にできない日本人の大方がやるような、杜撰なアピールをしないんです。
三年前にアメリカの大学で連続講演をしたとき、日本の2ちゃんねるに似たサイトがあるものの全然広がらない理由を尋ねると、「逆にアメリカ人の我々から見ると、なんで2ちゃんねるにああいう書き込みができるのかわからない」と問い返されました。
「アメリカだと、匿名性に守られて居丈高に誹謗中傷すると、友達がいないか、頭が悪いか、性格がチキンか、どれかだというふうに思われるので、とてもじゃないが2ちゃんねるのような書き込みはできない」と言われました。本質的なコメントだと思いませんか。
「宮台真司インタビュー「自分はイケてるぞアピールからは腐臭がただよう…“見るに耐えない”コミュニケーション 」」 2012年11月02日 『マイナビニュース』
http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/am/2012/11/post-182.html
すると間髪入れず、今度はアニメ監督の押井守先生が似たようなコメントをしていました。
先日、ドワンゴの会長が言ってたけど「日本では最下層の人間が全部ネットにぶら下がってる。これが日本の特殊事情だ」って(笑)。だからネットが罵詈雑言の世界になっちゃう。恨みつらみばかりで人間性下劣な世界。こんなにひどいネット世界は日本だけだって。中国だろうがヨーロッパだろうがアメリカだろうが、ネットでこれだけ聞くに耐えない 言葉が氾濫してる世界は他にないんだって。なんでかというと、日本は最下層でもみんな、パソコンや携帯を持てるから。
…なまじインフラが整備されてるから、他の国だとネットにアクセスできないような最下層の人たちが 全部ネットにぶら下がっちゃった。で、全体のネットの文化程度を全部引き下げてるというさ(笑)。
「「優秀な中間管理職」が壊れていく必然」 2012年11月5日 『日経ビジネスオンライン』
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121031/238837/?P=4
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2人のコメントを読んで、なるほど日本の特殊性はここにあるのかと妙に納得してしまいました。匿名掲示板のことではありません。宮台先生の質問に答えたアメリカ人の意見はともかく、そんなものは洋の東西を問わずどこにでもあり繁栄しています。
2ちゃんねる/ふたばちゃんねるにインスパイアされた「4chan」は、ハッカー集団アノニマスを生んだ板としても有名ですが、毒気に溢れた流行発信地として世界に影響を及ぼしています。今やアメリカのネット風景に欠かせない「ミーム」を生んだのはここですし、「リックロール」のような妙な遊びはほとんどここから生まれています。その4chanをライバル視する「Reddit」は、「良い子のための4chan」ともいうべき存在で、最近では大統領も書き込みするほどの影響力を持ち、Redditで認められればアメリカで成功するとまで言われています。
アメリカだけではありません。ドイツには「ポーランドボール」を生んだ「Krautchan」、ロシアには「2chan」、フィンランドには「Ylilauta」と、2ちゃんねる/4chanと同系統の掲示板は世界各地にあり、それぞれに妖しい魅力を放っています。また欧米の場合、人気ニュースサイトが匿名掲示板の役割を兼ねており、アメリカの「The Huffington Post」や、イギリスの「Mail Online」では、1つの記事に1000を超えるコメントがつくのはザラです。
ポーランドボール(この作品にポーランドはでてきませんが…)
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/271795_1.jpg
では匿名コメントの内容はどうかというと、宮台先生の仰る「貴族文化に由来する社交の伝統」に根ざしているとはとても思えない、「恨みつらみばかりで人間性下劣な世界」です。例えば、この記事を書きつつ覗いたMail Onlineに、ニュージーランドの首相がベッカムの知性をバカにして批判されているという記事がありましたが、寄せられたコメントは次のようなものでした。
ベッカムは下着姿はいいけど口を開くとバカだろ。声も甲高いし。
今どきめずらしい率直な政治家だな。
問題なし。てかフットボーラーはみんな頭弱いんだけど。
真実を口にして責められるこんな世の中なんて。
ベッカムはサッカーはうまいけどそれだけの男。たかが球蹴りで稼ぎすぎなんだよ。首相は悪くない。イカれてるのは彼を責めるUKの方だろ。
こんなのは序の口です。次はドイツのKrautchan。板で写真を晒されて罵詈雑言を浴びせられ、自殺宣言したメキシコの女の子についてのやり取りです。
ライブチャットのメスが自殺して気分いいなー。
売春婦は死ね。
仲間の死はいつも寂しいぜ。クスン。
鼻の整形に失敗したのが痛かったな。あれじゃジャクソンだ。
1人で50人もガキを作るメキシカントは減らさないとな。
とうわけで、匿名掲示板は世界中で隆盛であり、その内容はお下劣で、この点において日本のネット文化はまるで特殊ではないのです。というか、むしろ日本の匿名掲示板はお坊ちゃまの集まりに見えてくるほどです。
では日本の特殊性はどこにあるかというと、宮台先生や押井先生やドワンゴの会長様のような方々があたり前のように存在するというところです。欧米では、彼らが口にするようなネット批判は頭の固い年寄りの専売特許で、サブカル界隈で活躍する人やネット企業の経営者の口から出てくるものではありません。
もし彼らのようなセリフを口にしたらどうなるか?確実につぶされます。それがネット企業の経営者なら、アノニマスに嫌がらせされたあげくサービスをボイコットされ、退陣するまで許してもらえないでしょう。サブカル界隈の人ならば、化石の烙印を押されて永遠に信用を失うでしょう。
でも日本ではそうなりません。彼らは余裕でその地位を維持し、転倒した日本人論を語り、日本人を萎縮させ続けます。これでは破壊的なイノベーションなど生まれるわけもありません。結局日本は権威主義的な国であり、問題はそこに尽きるのです。
執筆: この記事はoribeさんのブログ『Meine Sache ~マイネ・ザッヘ~』からご寄稿いただきました。
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