女性アーティストが語る最先端タトゥーの世界 あこがれと偏見の中で揺れるポップカルチャー

日本におけるタトゥーの位置づけは極めて微妙だ。

安室奈美恵さん、稲葉浩志さん(B’Z)などの有名芸能人やサッカー選手が公然と自らのタトゥーをアピールする一方、公衆浴場、プール、ゴルフ場などでは“入墨お断り”の看板が貼りだされ、就労規定でタトゥー禁止をうたう職業も数多い。

 

大阪市の橋下市長の発言に起因するタトゥーバッシングも記憶に新しいところだ。あの時期、筆者はブログで「必要以上に騒いでタトゥーに関わっている一般人に迷惑」だと橋下市長を批判した経緯があったが、実際にまとまった知識があったり、身近にタトゥーカルチャーと接した上で批判している人は少ないのではないだろうかと感じた。昔ながらの“タトゥー=暴力団”という負のイメージを持つ人も多いだろう。しかし現代でも果たしてそれが適切なイメージと言えるのだろうか。いまタトゥーは”威嚇”“決意表明”“自己アピール”の手段として以外にも“ポップカルチャー”“芸術”としての側面も見直されてきている。現在最先端のタトゥー事情についてタトゥーアーティスト・画家として活躍するNANAOさん(24歳)にインタビューしてみた。

女性アーティストが語る最先端タトゥーの世界 あこがれと偏見の中で揺れるポップカルチャー

タトゥー立志篇

筆者:今回はインタビュー受けていただきありがとうございます。NANAOさんは若くして自分の作風を確立していますが、どんなきっかけでタトゥーの世界に入られたんですか?

NANAO:子供のころから漫画が好きだったんです。シティーハンターとか、女性がキレイに描かれている絵が好きで自分でもマネして描いてみたり。少し大きくなってからは水彩画のたまさんや水野純子さんにも興味を持ちました。自分が納得できる画風を追求して大判のクロッキー帳にひたすら絵を描きまくってたんですが、15、6歳の時にたまたま友達についていったライブハウスでとっても素敵なタトゥーを入れてる人に出会ったんです。聞いたら『アメリカン・トラディショナル』というジャンルのタトゥーだって。それを見てすっかり「わたしも彫り師になりたい!」って思い込んでしまって(笑)そのあと友達がタトゥーを入れてるところを見せてもらったり、タトゥーフラッシュ(下絵)を描き始めたり。

 

筆者:実際に自分の身体にタトゥーを入れたり人に彫ったりし始めたのはのはいつですか?

NANAO:私自身は18歳の時にファーストタトゥーを入れました。その時は人に彫ってもらったんですけど、すぐ自分でタトゥーマシンを買って自分の身体で練習を始めました。針のあつかいに自信がついてきたら友達にも彫ってあげたり、すこしづつ幅を広げていって、20歳くらいで“仕事”と呼べるようになったと思います。

女性アーティストが語る最先端タトゥーの世界 あこがれと偏見の中で揺れるポップカルチャー

筆者:友達や家族の反応はどうでしたか?

NANAO:友達はみんなヤンキーだったから、私が彫師はじめたことを知ると「私に彫って!」「俺も彫って!」みたいなノリで広がって(笑)仕事にしていく上ではとってもありがたい環境だったんだけど、親は大変でした。

筆者:やっぱり反対されましたか?

NANAO:はい。反対されるのわかってたんでファーストタトゥーは親には内緒で入れに行ったんですよ。でも帰ったらすぐバレて……父親からはしばきまわされるし母親には泣かれるし。

筆者:でも辞めなかったわけですね(笑)

NANAO:好奇心がとめられませんでした(笑)でも真剣にとりくんでいるところを見てくれてたのか、しばらくすると父親のほうが「ちょっと俺にも彫ってみてくれ」って言いはじめたりして。母親もタトゥーに偏見がある人だったんですけど、ある時「タトゥーっていくらくらいかかるの?」って聞いてきたんです。私が普通に料金を説明すると「じゃあお金はらうから、あなたの好きなデザインを私に彫ってちょうだい。そのお金でまた新しい機材買いよ」って(泣)ごめんなさい、思い出したら泣けてきました……

筆者:ご両親のすばらしい愛情ですよね。はじめは心配するから反対するけど、決意をみたらとことん応援するっていう。
NANAO:ありがとうございます(泣)

女性アーティストが語る最先端タトゥーの世界 あこがれと偏見の中で揺れるポップカルチャー

タトゥー業界の今昔

筆者:師匠と弟子、みたいな昔ながらのシステムがまだまだ残っているタトゥー業界ですが、NANAOさんは独学で始まり今に至るまで一個人という立場を貫いていますよね。タトゥーアーティストとして活動の幅を広げていく中で、苦労はありませんでしたか?

NANAO:”師匠と弟子”みたいなのってあんまり好きじゃないんです。守ってくれる人がいないことを特に苦労とは思ってないけど、ネット上に公開した作品を知らない彫師に勝手にダメ出しされるなんてことはよくありましたね。でも私は自分の作品に絶対的な自信があったので「嫉妬してるのかな、可哀そうだな」って気になりませんでした。そうやって私のことを批判したり無視してた人たちも、タトゥーイベントで共演したり付き合いが始まったら急にチヤホヤしてきたりするし(笑)

筆者:お客さんはどんな人が多いですか?

NANAO:私の場合、若い女性が中心になります。自分の希望するデザインを持ってくる人もいるし、ネットとかで私の彫ったタトゥー、絵を見て来てくれる人も増えてきました。

筆者:お客さんの感想でうれしかったものはありますか?

NANAO:タトゥーを気分を上げるためのツールとして認識してもらえるのが一番うれしいんです。「自分に自信がついた」とか「チャームポイントができました」みたいに。美容院に行って、キレイな髪形にしてもらえた時みたいな喜びを感じてもらえたらなとこころがけています。

社会の中でのタトゥー “隠す文化”で終わりたくない

筆者:以前の橋下市長の問題の時に、雑誌などのメディアで「日本の刺青は隠す文化」「タトゥーはアウトローのもの」みたいな発言をして、タトゥーへのバッシングを容認する彫師もいました。NANAOさんは日本社会の中でのタトゥーをどのように認識していますか?

NANAO:”隠す文化”っていうのは古臭いと思います。私は『アメリカン・トラディショナル』という海外発祥の様式が好きなので余計にそう思うのかもしれないですけど。たとえば日本のディズニーランドではタトゥーをしていたら入場禁止なんです。でもアメリカだとディズニーランドの中にタトゥースタジオがあるし、オーストラリアでは路面店みたいな小さいタトゥースタジオがいっぱいあって、仕事の合間とかに気軽にタトゥーを入れて帰る人がたくさんいます。日本でももう少しタトゥーを開かれた文化にしていかなくちゃな、と思うんです。

筆者:タトゥーをしている個人のガラの悪さや、起こした犯罪を指摘してタトゥー全体を批判する人もいますよね。NANAOさんはこういった批判をどう受とめますか?

NANAO:社会の目が厳しいなんてことはわかりきっているんだから、タトゥーをしている人はその状況を改善するための努力をしてほしいと思いますね。他人を威嚇したり威圧するためにタトゥーを利用する人もいるけど、それではいつまでも社会に理解されないですよね。私はタトゥーをしている人は公共の場所で行儀よくふるまってほしいし、犯罪なんかもってのほかです。そして同時に、タトゥーが直接暴力団や犯罪に結びつくものじゃないってことを多くの人に知ってもらいたいです。

タトゥー その独特のアート世界

筆者:NANAOさんはタトゥーに対してどのようなアート性を感じているのでしょう?NANAO:普通の絵画は見る側と描く側に距離がありますよね。でもタトゥーは本人の身体に彫られるものだから距離がない。それにタトゥーは彫られた人間の生命とともにいつか滅びて消えてしまう。その点は他にない魅力だと思っています。

タトゥーアーティストとしての目標

筆者:NANAOさんの今後の目標、したいことを教えてください。

NANAO:ほんとにいろいろあるんです(笑)今現在は、ピアッシングとのコラボレーションも始めてるし、自分の作品集を本にして出版したいとも思っています。でもなにより大きな目標はルイ・ヴィトンのような認知度の高いブランドとコラボ作品が作れるような一流のアーティストになること。村上隆さんや草間彌生さんのように、昔ならマニアックとしか思われなかったジャンルのアーティストが世界で評価されるようになったことには大きな刺激をうけています。

女性アーティストが語る最先端タトゥーの世界 あこがれと偏見の中で揺れるポップカルチャー

NANAO http://ZODS.jp

大衆に定見がないためメディアに簡単に扇動され、珍奇の目を向けてしまうことはタトゥーに限った問題ではない。今現在、評価のわかれているタトゥーを「なんにも問題ないからみんな彫ったらいいですよ」とは言わない。しかし“なんとなく嫌”という不見識なスタンスが不必要にマイノリティを生み出すことは避けなければいけないのではないか。社会の中で共同生活していくうえで、対象を知ることによって解決される摩擦は数多い。この記事がその一助となることを願うばかりだ。

 

※作品画像はタトゥーアーティスト”NANAO”氏から提供されました。

 

※この記事はガジェ通ウェブライターの「中将タカノリ」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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