エンゲージド・ブッディズムへの旅(前編)

エンゲージド・ブッディズムへの旅(前編)

 2011年10月末のインドの聖地ブッダガヤで、アジア各国から仏教徒が集まりエンゲージド・ブディズムに関する国際会議が開かれました。エンゲージド・ブディズムとは、社会に積極的に関わり貧困・自殺・教育など様々な問題に取り組む仏教徒の運動のこと。今回はこのINEB国際会議に日本から参加された井上広法さん(浄土宗光琳寺副住職)に、体験レポートを寄稿していただきました。

悠久の大地 インドへ

2011年10月末、バックパックを背負った僕は6度目のインドの大地を踏みしめていました。

今回のインドへの旅が決まったのは、湿った空気が肌にまとわりつく梅雨の頃でした。東日本大震災への僧侶の救援活動を報告するため、ブッダガヤで開かれるINEB国際会議に臨むこととなったのです。INEBについては詳しくは後述しますが、簡単に言えば仏教徒による社会活動の円滑化をサポートする国際ネットワークです。

 さて、デリーで飛行機を降りてインドへ入国してまず初めに驚いたのは空港の近代化でした。以前来たときは発展途上の雰囲気が色濃く、薄暗くて古ぼけた感じでした。ところが、数年後の今回、空港のあまりの変貌ぶりにインドの急成長を実感しました。入国審査所の壁一面には、インドの文化と近代アートが融合したようなオブジェがあり、空港内の売店の商品はきらびやかな照明にディスプレイされ、まるで別の国に来てしまったような錯覚に陥るほどでした。

 インドの急発展を示すかのような近代化された空港への驚きで現実感を少し失いながら、長時間のフライトの疲れも合わさってクラクラとタクシーに乗り込みました。しばらく車を走らせると運転手がなにやら怪しげな建物に連れて行こうとします。ホテルの予約センターのようです。どうやら、僕たちが泊まろうとしているホテルをキャンセルさせて別のホテルを予約させ、そこからのマージンを期待しているようです。しきりに「ニューホテル! アナザーホテル! グッドホテル!」と連呼しますが、「ノー!!」ときっぱりと断るとしぶしぶと当初予約したホテルに向かい始めました。

 インドでこんなことは日常茶飯事です。「やっぱりここはインドだった!」と妙な安堵がしてシートにもたれ掛かり、タクシーの汚れた車窓から雑踏のデリーを眺めていました。?

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聖地ブッダガヤ

 会議が開かれるブッダガヤは仏教の聖地中の聖地です。今から2500年ほど前の12月8日の明け方、このブッダガヤのある菩提樹の下で一人の青年修行者がこの世の真理を悟りました。そう、仏教の開祖であるお釈迦様が悟りを開いてブッダとなったのが、この地ブッダガヤなのです。デリーから直線距離で約900キロあります。

 デリーから約一時間半のフライトでブッダガヤ近くのガヤ空港に到着します。

 ブッダガヤには、いま多くの多国籍の寺院が建立されています。今回僕たちが宿泊先としてお世話になる日本寺もその1つですが、タイや中国、韓国、ベトナム、チベット、ブータンなどとても国際色豊かな地域です。それら多くの寺院の中心的存在になるのが、マハーボディーテンプル。日本名を大菩提寺と言います。お釈迦様が悟りを開いたときから数えて3代目の菩提樹が今も四方に枝を伸ばしています。

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 そして、その根元にはお釈迦様が悟った場所と言われる金剛宝座があります。以前、初めて来たときにはお参りの人は誰でも直接触れることができたのですが、残念ながら現在は石の柵で囲われて、見ることしかできなくなってしまっています。

 また、ここには拝観料を取る受付もなく、24時間自由に誰もが参拝することができるため、朝早くから夜遅くまで様々な国から訪れた人々の姿が絶えることがありません。参拝の仕方は、じっと座って瞑想する人もいれば、五体倒地をする人、あるいはこの周りをグルグル回る人など様々です。しかしどのようなスタイルでお参りをしていても全員が仏教徒。お釈迦様への想いは共通です。

INEB-The International Network of Engaged Buddhists-とは

 今回の会議を主催するINEBは、正式には”The International Network of Engaged Buddhists”と言います。直訳すると「エンゲージド・ブッディストたちの国際ネットワーク」となります。耳慣れない言葉かもしれませんが、エンゲージド・ブッディズムとは「社会参加仏教」・「社会参画仏教」・「社会をつくる仏教」・「闘う仏教」など、さまざまに翻訳されていますが、まだキチッとした日本語にはなっていません。

 しかし、ここ最近、多くの宗教者や一般の人々から注目を受けるようになり、一昨年には全日本仏教徒会議という国内最大規模の仏教徒会議でこの「社会参加仏教」がテーマとして取り上げられました。エンゲージド・ブッディズムは平和、エネルギー、環境、人種と社会的な課題に積極的に関わっていく仏教徒の動きを指しています。 

 仏教とは本来出家をして修行をするものですから、社会から離れていく傾向がありますが、それとは逆に社会問題に正面から向き合っていこうとするところが新しい仏教のムーブメントだと注目を受けているのです。

→後編へと続く

INEB国際フォーラムのお知らせ

 ここでお知らせがあります。

 来る11月10日に横浜市で本邦初のINEB国際フォーラムが開催されます。下記のリンクに詳細はありますが、今回のフォーラムではINEBの創設者であるスラック・シヴァラク氏を基調講演に迎え、INEB理事長のハルシャ・ナバラテナ氏、台湾臨床仏教研究所創立者の釋惠敏師、タイ・ブディカ仏教と社会ネットワークのパイサン・ヴィサロー師、前全日本仏教会事務総長の戸松義晴師、京都大学こころの未来研究センターの千石真理師をパネリストに迎えます。

 エンゲージド・ブッディズムについて生の声が聞ける貴重な機会です。関心のある方は、こちらのリンクよりお申し込み下さい。

○連載:仏教なう

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彼岸寺

ウェブサイト: http://www.higan.net/

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