結末のない映画特集:「“それでもなぜ彼女は生き続けられるのか?”というのが僕の中のテーマであり、映画にとってのテーマでもあると思っていた」『ソワレ』 主演・村上虹郎 インタビュー




役者を目指して上京したものの、結果が出ないまま先の見えない日々を送っている青年と、父親から酷い暴力を受け、心に傷を負ってどこか諦めたように生きている若い女性。出会ったばかりの二人は互いのことをほとんど知らないまま、ある事件をきっかけに逃避行の旅を始める——。豊原功補、小泉今日子、外山文治監督らが立ち上げた映画製作会社、新世界合同会社の第1回プロデュース作品『ソワレ』が8月28日に全国で公開される。主演は唯一無二の存在感で世代を代表する村上虹郎と、オーディションで100人以上から選ばれた新星・芋生悠。海外からも注目される外山監督によるオリジナル脚本で描かれるのは、生きづらさを抱えた男女の苦しいほどにせつない物語だ。劇場公開を前に、作品毎に新たな魅力を放つ主演の村上に話を聞いた。


——村上さんが演じた翔太は役者としても一人の人間としても発展途上で、つかみどころが難しそうな役ですね。


村上虹郎「そうですね。まず職業が自分と同じ役者なので、その中でどういうキャラクターにするかを選ぶのが難しかったです。逆に知らない職業であればゼロから調べて、触れてみて、“ああ、なるほどな”と思った上でやってみるんですけど、今回は知っているからこそ、どこの目線でやろうかなと。もう一つは、おっしゃったように翔太はつかみどころがないというか…その人格形成があまりしっかりしていない中で、どう演じようかという難しさがありました」


——どのように役作りをしたのですか?


村上虹郎「外山監督から兄弟構成なども含むプロフィールのようなものをいただいたので、それを元に彼がどういう映画を好んでいるかとか、志みたいなものは何度もメールでやり取りしました。準備といえばそれくらいです。あとは衣装合わせに少し時間をかけました。彼が短パンを履くキャラだということを見つけるまでに時間がかかりました。最初はもっとわかりやすく、ちょっとおしゃれな、“スナップとかにも出ているけど俳優もやってるよ”みたいな感じだったんです。でも、もうちょっと泥臭い方がいいんじゃないかと思って。それであの短パンになりました」 





——外山文治監督とは2017年の『春なれや』以来、2度目のタッグですね。監督はなぜ翔太役を村上さんに託したのだと思いますか?


村上虹郎「撮影前の段階で“なぜ僕なんだろう?”という壁にぶち当たって、監督に相談したことがあるんです。時期的に、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』がまだ公開されていなかったのですが、あれは、ハリウッドスターが自分よりも知られていない役者やスタントマンを演じているわけじゃないですか。あの映画を観ていれば、“ああ、そうなんだ”と思えたのかもしれない(笑)。もちろん映画史において役者の役はいっぱいあると思うんですけど、僕はそういう作品をあまり観ていなかったので、それがどういうことなのかを自分の中で腑に落とすまでに時間がかかりました。もちろん僕も、これからやるべきことはたくさんあるんですけど、(翔太のように)まだドラマなどにも一切出ていないような、今一番リアルな人が演じるヒリヒリさというのも絶対にあるわけで。“なぜ僕なんだろう?”とは一回問いましたけど、“虹郎なんだよ”って。あまり理由は言わず、“信頼できるから”みたいな感じでした」


——タカラ役の芋生悠さんが、オーディションで初めて会ったときの村上さんについて、「目がすごく真っ直ぐで力強くて、そこに絶対に嘘がつけない時間があった」「一緒に演じるのがとても楽しかった」とおっしゃっていました。


村上虹郎「目については、お互い様ですというか、むしろそちらの方がという感じですけど(笑)。すでに出演が決まっている側としてオーディションに立ち会って、お芝居をご一緒させてもらったのは初めてだったので、僕自身もすごく楽しかったです」


——村上さんから見た芋生さんの第一印象はいかがでしたか?


村上虹郎「芋生さんが演じたタカラという女性は、自分の想いを自発的に吐露するようなキャラクターではないんです。そもそもタカラは社会の中で圧倒的弱者だと思うのですが、“それでもなぜ彼女は生き続けられるのか?”というのが僕の中のテーマであり、映画にとってのテーマでもあると思っていました。それに対する一つの答えが芋生さんだったということだと思います。それは何かというと、芋生さんの内発的なパワーが外にパーンと伝わってきた感覚があって。(初対面のときは)そういう印象だったかなと思います」





——プロデューサーを務めた豊原功補さんと小泉今日子さんから言われたことで、印象に残っていることはありますか?


村上虹郎「基本的にお二人は多くを語らないというか、ほぼ語らないんです。演劇でご一緒した時もそうだったのですが、今回もお芝居について何かおっしゃることはまったくなかったです。でも衣装合わせのときに、靴については話しました。観ている人全員が靴に着目するわけではないですけど、どういう靴を履くかですごくキャラクターが出るし、演じている身としてはとても大事だったので。たとえば、僕が一番印象的なのは『バッファロー’66』の赤いブーツなんですけど……あれは本当にキザだしナルシズムが感じられるので、同じではないですけど(笑)。そこで一回ぶつかりました」


——どのようなお話をされたのですか?


村上虹郎「豊原さんは翔太にブーツを履かせたかったんです。でも僕は違うと思っていて。それに短パンとブーツが合わなかったんです。豊原さんは『そうかな?ブーツいいと思うんだよな。一回レッドウィングを履いてみようよ』という感じだったんですけど、『いや、俺はブーツじゃないと思うんですよね』って(笑)。それ以外では、あまり何か言われることはなかったです」


——先日の舞台挨拶では、撮影中に小泉さんが自ら車を運転してくださったというお話をされていましたね。


村上虹郎「そうなんです。でも後で聞いたら、『違うのよ、あれはね、助監督さんか誰かが車両部に私の名前を入れていたの』って。『“当日は車で現場に来られます?”って聞かれて、“行きますよ”って言ったら、“しめしめ”と名前を書かれていたんです』とおっしゃっていました(笑)」





——村上さんにとって、『ソワレ』はどのような作品になりましたか?


村上虹郎「もうすでに生まれてしまったものだから、必然ではあるんだと思います。でもやっぱり、この作品で主演をやらせていただくことの意味やありがたみは、僕の中で大きな糧になるのかなと思っています。実は次にやる映画『佐々木、イン、マイマイン』でも役者役なんです。『ソワレ』があったからこそ、もう少し早く解釈ができたところもあるんですよね」


——劇中の翔太は「人の記憶に残る人になりたい」と言っていました。村上さんご自身は、今後はどのような人、そして役者に成長していきたいですか?


村上虹郎「それは最初から変わらないです。僕にしかできない表現があって、その人にしかできない表現と、その人にしかできない仕事がある。決して甘いからという意味ではなく、作品によっては余白があって、役者次第みたいなところがあるホン(脚本)は多いと思うんです。そういうときに、“あの人であれば作品全体のベースがちょっと上がる”というか、そんな風に作品に対して貢献できればと思います」 



『ソワレ』
8月28日(金)よりテアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開
https://soiree-movie.jp
オレオレ詐欺の片棒を担ぐなどして日銭を稼ぎ、役者になる夢に向かいつつも鳴かず飛ばずの毎日を送る若者、岩松翔太(村上虹郎)。ある夏の日、生まれ故郷の海辺の町で演劇を教えることになった彼は、所属する劇団と共に、高齢者施設を訪れる。そして、その施設で働く女性、山下タカラ(芋生悠)と出逢う。何かを諦めたような彼女の表情には、父親からの想像を絶する暴力が影を落としていた。祭りの日、タカラのアパートで暴行を目撃した翔太は、衝動的に父親を刺してしまった彼女の手を引き、その場から走り出す。
咄嗟に電車に飛び乗ったふたり。こうして目的地のない逃避行が始まった_。


村上虹郎 芋生 悠
岡部たかし 康 すおん 塚原大助 花王おさむ 田川可奈美 
江口のりこ 石橋けい 山本浩司
監督・脚本 外山文治
プロデューサー:豊原功補 共同プロデューサー:前田和紀 アソシエイトプロデューサー:小泉今日子
制作プロダクション:新世界合同会社 制作協力:キリシマ1945 製作:2020ソワレフィルムパートナーズ
後援:和歌山県 協力:御坊日高映画プロジェクト 配給・宣伝:東京テアトル
2020年/日本/111分/5.1ch/シネスコ/カラー/デジタル/PG12+
(C) 2020ソワレフィルムパートナーズ


photography Yudai Kusano

hair&make-up Takahiro Hashimoto(SHIMA)
style Tadashi Mochizuki
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara


costume/WACKO MARIA/PARADISE TOKYO、LAD MUSICIAN/LAD MUSICIAN HARAJUKU、Paraboot / Paraboot AOYAMA

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NeoL/ネオエル

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