食堂物語:xiangyu「自分を育ててくれた食生活から、『とりあえず実験してみる』という精神や思考を学んだ」長野屋


文化服装学院を卒業後、2018年から音楽活動を始めたアーティストのxiangyu。
中毒性のあるサウンドや歌詞における様々な言語やオノマトペを効果的に使った独特の言葉遊び、また手製の衣装を身につけ、オーディエンスと一体化するライブパフォーマンスにいま多くの注目が集まっている。彼女の学生時代からの行きつけの定食屋である長野屋にて、長野屋の「お母さん」と共に思い出話から、食と創作の関係性、自身の創作活動、食品ロス問題まで話を聞いた。

――まず、今回の企画で長野屋さんを選んでいただいた理由を教えてください。

xiangyu 「新宿にある文化服装学院に通っていたので、学生時代からちょこちょこ友達と来ていました。それから卒業して一人暮らしを始めて寂しくなった時に、また学生時代の親友と来るようになったんです。新宿の文化って、関東出身の子よりも上京して一人暮らし始める子が多いから、そういう子たちが疲れて地元が恋しくなったら来てほしいなという思いもありますね。自分のおばあちゃんやお母さんが作ってくれるようなご飯も食べれるし、気取ってなくてすっと入ってくるようなあったかい雰囲気があるのがすごく好きなんです。友達と一緒に来て、閉店時間過ぎても、お母さんに新宿の歴史とかいろんな話をしてもらったこともあったなぁ」

お母さん「よくお友達と来てたよね〜。今日、アーティストが来るって言われてびっくりしちゃった(笑)。あれ、お裁縫の学校行ってなかった?」

xiangyu「(笑)。そうだよ。だけど今は音楽やってるの。前にみんなで写真撮ったよね!」

――いつも何を頼むんですか?

xiangyu 「鯖煮です!あと肉じゃがとナスの味噌炒め、五目煮もお願いします!」

お母さん「はーい」

――お母さん、このお店について少し教えてください。

お母さん「創業105年で私が四代目です。朝7時から夜11時まで、二交代制で365日店を開けています。先代から頑張ってやってるんですよ」

xiangyu「やばい!」

お母さん「お正月はどこの店も閉じてるけど、うちだけはやってるの。だから、明治神宮からお参りした後のお客さんにご飯を炊いたり、お雑煮作ってあげたりしてます。はい、鯖煮どうぞ」

xiangyu「いただきます! うーん、いつ食べても本当に美味しい」

おかあさん「つゆを足して、作ってるの。一回一回じゃないからね」

xiangyu「そっか! だからこんなに美味しいんだ。実家に帰りたくなってきた(笑)」

――(笑)。こういう気持ちにさせてくれるのが食堂の魅力ですよね。

xiangyu「まさにそうですね」





――創作についてお聞きしたいのですが、「食」から何かインスピレーションを受けることはありますか?

xiangyu「自分を育ててくれた食生活から、『とりあえず実験してみる』という精神や思考を学んだと思います。実は、うちのお父さんが調味料関係の仕事をしているので、少し特殊な食生活をしていたんですよ。例えば、お父さんが焼肉のタレを開発していた時期は、お皿の上に味のついていない豚肉が並べられてて、この肉に合う調味料は何かを探るのに付き合わされたり(笑)。小さい頃はやっぱり普通のハンバーグとかスパゲッティを食べたかったから、おばあちゃん家に避難してご飯を食べさせてもらってました(笑)」

――調味料関係ということは、お父さんは理系の方ですか?

xiangyu「そうです。東京農業大学で微生物研究していたみたいです。だから、よく連れてって行ってもらって研究室に入り浸ったってたりしました。お母さんも理工学部出身で、うちは理系一家なんです」

――だから、お母さんもお父さんのご飯の実験に協力的だったんですね。

xiangyu「そう。最初はお父さんに好き勝手にやらせてて、子どもたちがこれは普通のお家とご飯違うぞと気づいてから、お母さんが料理し始めて、そのなかで一番多く出てきたのが餃子だったから、餃子が好きになったんです。
あと、お母さんは、もともと裁縫と実験が好きで、実験は家で出来ないからって理工学部に行ったみたいです。でも、今はなぜか税理士やってるんですけど(笑)。とにかく学ぶことが好きみたい」

――では、実験好きだったり、学ぶ姿勢はご両親からかなり影響を受けているんですね。

xiangyu「はい、自分の曲作りや人生観にも影響を与えていると思います。中学、高校の時、歴史の流れだとか生物のことはすごく好きだったけど、勉強だと思うと全然できなくて、成績は良くなかったんです。でも、両親が学校の成績よりかは自分が好きなことや興味のあることの知識を蓄えたらいいよ。『知識は自分を守ってくれるよ。』と言ってくれました。それで、自然環境のことや、地域社会のことを専門的に学びたいとも思っていたので大学も考えていましたが、それは自主的に学ぶ事にして、もう一つ興味のあった服の作り方はイマイチ自分で分からなかったから文化服装学院に行くことにしたんです」



――以前はアパレルに勤めていて、その後音楽活動をされていますが、創作の過程などにおいて異なる点はありますか。

xiangyu「音楽は自分で思ったことを作品にできるスピードがすごくはやい。服作りの時は、一人でやっていたということもあって、もっと時間がかかって、思い描いたときと形にできるときのタイムラグがとてもありました。でも、音楽では、関わってくれてる人が多いというのもあるんですけど、そのタイムラグが短縮されてる気がします」

――音楽活動を始めて、何か新たな気づきなどはありましたか。

xiangyu「言葉の組み合わせや順番、言い方次第で音の聞こえ方が全く違うことに、音楽を始めてから気づきました。少し順番を変えただけでもったりして聞こえたり、逆にスペード感が出たり。『プーパッポンカリー』の時もそうだけど、他の言語と日本語を組み合わせるとまた違って聞こえたりするのもすごく面白いです。
あと、言葉に対してのアンテナをより張るようになりましたね。今まで、普通に聞いていたラジオの音が全部立って聞こえるようになったし、小説も前よりも言葉の持つ力強さや作者が表現したい匂いがリアルに感じられるようになりました」

――特に日本語は音の響きが独特ですよね。食に関してもう少し聞かせていただきたいのですが、食品ロス問題に関心があるそうですね。

xiangyu「長いこと路上生活の方たちに関心があり、フィールドワークとして個人的に横浜の寿町というドヤ街に4年弱通っているんです。そこで、明日食べるものに困っている人と食品ロスの問題をうまく繋げられる取り組みがないのかと考え始めるようになりました。撮影などのケータリングで、毎回ご飯をたくさん用意してくださっているのを見て、もちろんありがたいんですけど、余ったものはどうするのかともよく考えます。だから、自分がご飯を食べるときは必ず食べれる分だけ頼むようにしているんです。一人一人が小さな意識を持ち続けたら、そういう問題はもっと解決していけると思うので」


 

――海外だと食べきれなかったご飯をテイクアウトできるお店も多いですよね。

xiangyu「たしかに。日本でもそういう取り組みをやっているお店は結構あるから、もっと広がればいいのなと思います。私がバイトしている飲食店でもテイクアウトのシステムを取り入れてるんですけど、それでも毎日かなりの食べ残しが出ます。頑張って料理してくれるキッチンの人のことを思うと、悲しい気持ちになりますね」

――背景にあるつくった人の顔が見えないという、想像力の欠如も問題の背景にあるのでしょうか。

xiangyu「想像力の欠如はいろんな物事に言えると思います。緊急事態宣言前の買い占めもそうだし、東日本大震災の時もそう感じました。こういう状況下でこそ、いろんな世代の人が政治的なことも含めて、気軽に議論しあえる世の中になっていけばいいなと思いますね。誰にも正解がわからないからこそ、そういう議論が必要だと思うんです。個人的には、自分が思う正義で、これからも表現し、発信していきたいと思っています」

――応援しています。今日はありがとうございました。

xiangyu「ありがとうございました。お母さん、ご馳走様でした!またすぐ来るね!」


 

長野屋食堂
新宿駅東南口を出て徒歩1分
営業時間 朝7時から夜11まで
定休日 なし
tel 03-3352-3927

 

xiangyu
2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。
読み方はシャンユー。 名前はVocalの本名が由来となっている。
Gqom(ゴム)をベースにした楽曲でミステリアスなミュージックビデオも公開中。昨年2019年、5月22日に初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。
本日6月5日、デジタルEP「きき」をリリース。8月25日には自身2度目となる自主企画イベント<香魚荘#02>を開催。

 

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■Spotify
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NeoL/ネオエル

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