7分間のお楽しみ。いずれ劣らぬ十一篇。

7分間のお楽しみ。いずれ劣らぬ十一篇。

 昨夏に刊行された『5分間SF』につづく、草上仁の短篇集。〈SFマガジン〉に1991年から2006年にかけて発表された十篇に、書き下ろしの一篇を加えた一冊だ。

 草上SFというと、独創的なアイデアとひねりのある(あるいは洒落た)結末が思い浮かぶ。それは間違いではないが、本書に収録された諸篇を読むと、アイデアと結末とを結ぶ物語展開—-起承転結で言えば「承」—-にたっぷりと余裕をとり、物語を楽しく膨らませていることがわかる。直線的なストーリーテリングばかりではなく、むしろ小さなエピソードを積み重ねる、話芸のセンスに秀でている。その話芸を書評で説明するのはヤボだし、魅力の一割も伝わらないので、実際に読んでくださいと言うしかない。

 アイデアの部分で、とくに印象に残った作品を簡単に紹介しておこう。

「キッチン・ローダー」は、IoT(家電などのモノとインターネットの融合)の発展形社会を描く。現状のIoTは「機械を操作する」仕組みだが、この作品では「人間が機械を乗っ取って身体化する」。いちいち考えなくとも自転車に乗れるように、機械を感覚的に扱うのだ。お茶の間サイバーパンク(ちっともパンクではないけど)とも言うべき雰囲気が面白い。

「この日のために」は、ロボットだけで社会が構成された世界で、ただ一体、特別な存在であるルーイが主人公。特別といっても高スペックや特化機能ではなく、むしろ逆だ。足を引きずって歩き、目はフォーカスが合わず、推論機能は遅延しがち。意地悪な連中はルーイをからかうが、両親(彼らもロボット)は「お前は神様に作られた天使」と言う。やがて、ルーイが神様に応える「その日」がやってくる。ルーイの存在意義と世界のなりたちが一挙に明かされるクライマックスが圧巻。

「免許停止」で語られるのは、暴走行為だけが生き甲斐だった男の顛末。彼は事故を起こして、その罰を受ける。しかし、クルマに乗るなというのではない。その逆で、クルマに乗っていなければならない。それが男に、たいへんな苦悩を与えることになる。これは、じゅうぶんに交通技術が発展した社会ゆえの悲喜劇なのだ。

「スリープ・モード」は、低刺激入眠傾斜剤、通称スマート・ドラッグをめぐるユーモアSF。ロバート・シェクリイを髣髴とさせる味わいがある。コンピュータなどの装置のスリープ・モードと同様、人間もあらかじめスリープ・ドラッグを服用しておくと、作業をしておらず退屈の状態が一定時間つづくと自動的に睡眠する。もちろん、ふつうの生活をするうえでこんなドラッグは不要だが、物語の舞台は惑星間航行をしている宇宙船内だ。できるだけリソースを節約しなけらればならず、それには人間の活動を必要最低限に抑えるのが有効なのだ。これまではそれで順調にいっていた。しかし、服用するドラッグの種類を間違えたため……。

 さて、つぎは『9分間SF』かな?

(牧眞司)

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