『千日の瑠璃』285日目——私は拳銃だ。(丸山健二小説連載)

 

私は拳銃だ。

東南アジアの某国の人里遠く離れた某所で密造され、漁船によって密輸され、巡り巡ってまほろ町へ届いた、回転式の拳銃だ。三階建ての黒いビルに起き伏しする三人の男は、三挺の私を手に取ってしげしげと見つめる。信義に厚い男を夢見たり、不意打ちのための周到な計画を練ったり、返報を恐れて戦々兢々としたり、一夜にして寝返ったりするかれらにこそ、私はふさわしいといえる。

さんざん考えあぐねたかれらは、私を三百発の弾丸といっしょに、ちょっとやそっとでは発見されない、しかしいざというときには素早く取り出せて迅速に対処できる場所へしまいこむ。そして、万一入手経路を詰問されるような羽田に陥っても絶対に口を割らないでおこう、と誓い合う。だがしばらくして、分散して隠したほうが安全ではないかという意見が出され、一挺と百発が《三光鳥》へ移されることになる。

私を懐にねじこみ、白いスーツのポケットをいっぱいに膨らませた長身の青年は、途中で寄り道をする。湖畔にクルマを停め、人煙稀な山中で試し撃ちをする。銃声の大げさなこだまに肝を冷やした彼は、急いでそこを離れる。彼はクルマの窓から私を突き出し、体がのべつぐらぐら動いているために狙いがつけにくい少年に向って、引き金を何回も引く。もし弾丸がこめられていたら、少なくともその一発は難病を吹っ飛ばしていたに違いない。
(7・12・水)

丸山健二×ガジェット通信

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