未知のウイルスとどう向き合う? イタリア人作家が科学的思考とともに綴ったエッセイ集

未知のウイルスとどう向き合う? イタリア人作家が科学的思考とともに綴ったエッセイ集

 世界中に爆発的な感染を引き起こした「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」。「コロナ前」「コロナ後」という言葉も生まれるほど、新型コロナが私たちの暮らしや経済、そして価値観に及ぼした影響は大きいと考えられます。

 世界中で深刻な状況が続くなか、イタリアは新型コロナによる死者数が3万人を超えるほど大きなダメージを受けました。そんな厳しい”コロナの時代”を生きるすべての人々に向けて、イタリアの作家が綴ったエッセイ集『コロナの時代の僕ら』が、すでに26カ国で緊急刊行され、各国で話題を呼んでいます。

 本書に収録されているエッセイは全部で27篇。トリノ大学大学院博士課程を修了した著者の数学的な思考が色濃く反映されています。

「必要な期間だけ我慢する覚悟がみんなにあれば、ついにはR0(注:基本再生産数。一人の感染者から生じうる二次感染者数)も臨界値の1を切り、流行も終息へと向かうはずだ。R0を下げることこそ、僕たちの我慢の数学的意義なのだ」(本書より)

「科学者であれば驚かないような現象が、それ以外の人々を軒並み怖がらせてしまうことはある。こうして感染者数の増加は『爆発的』とされ、本当は予測可能な現象にすぎないのに、新聞記事のタイトルは『懸念すべき』『劇的な』状況だと謳うようになる。まさにこの手の『何が普通か』という基準の歪曲が恐怖を生むのだ」(本書より)

 こうした理論や知識に基づく説明は、ともすればパニックに陥ってしまいそうな私たちに冷静な思考や判断力を与えてくれます。しかし悲しいことに、さまざまな情報が飛び交う現在の状況では、新型コロナをきっかけとした差別も発生しています。

 たとえば、著者の友人の妻である日本人女性がスーパーへ買い物に行った際、2、3人の男たちから「何もかもお前らのせいだ」「中国へ帰れ」と怒鳴られたという話が出てきます。これに対して著者はこう記します。

「恐怖は人々に奇妙なふるまいを取らせるものだ」(本書より)

「まったく新しい課題に完璧に対応することは誰にもできない。今、僕たちが直面している状況では、ありとあらゆる反応が予見される。(中略)その点を心に留めて置くだけで、普段よりも少しひとに優しくしよう、慎重になろうとすることができるはずだ」(本書より)

「今度の新型ウイルスの流行は、何もかも『お前ら』のせいではない。どうしても犯人の名を挙げろと言うのならば、すべて僕たちのせいだ」(本書より)

 現在、日本ではようやく新規感染者が減少してきたところです。しかし、新型コロナの第2波、第3波が訪れる可能性も推測されており、この先また新たな感染症が出現することもありえるでしょう。著者は「この大きな苦しみが無意味に過ぎ去ることを許してはいけない」と訴えかけます。

 私たちはなぜこんな状況に陥ってしまったのか、このあとどんなふうにやり直していけばよいのか。私たちに投げかけられた課題について、本書を読んで皆さんも考えてみてはいかがでしょうか。

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