『千日の瑠璃』246日目——私はオオルリだ。(丸山健二小説連載)
私はオオルリだ。
軒端に吊るされた籠のなかのオオルリに対して猛烈な攻撃を加える、野に生きるオオルリだ。まほろ町へ渡ってくるのに些か手間取った私は、もはや腕尽くで誰かの縄張りを奪うしかなかった。私はひと目でこの片丘が気に入ってしまった。しかしそいつはただ籠のなかに居練まっているばかりで、反撃に転じることはなかった。そのせいで私は疲れ、自慢の羽が数枚抜け落ち、近くの楓の枝にとまってひと息つかなくてはならなかった。
私の主張をずっと黙殺してきたそいつは、ほどなく事も無げにこう言った。「おれに構わず、どこかそのへんに巣をかけたらどうだ」と。だが私は、せっかくの申し出を即座に突っぱねた。籠の有無という形はどうであれ、同じ空間にオオルリが二羽同居することなど前代未聞だ、とそう言ってやった。私たちの画然たる意見の違いは、声高なさえずりとなって丘いっぱいに響いた。そいつは言った。「どうしてもというなら殺してみろ」と。私は言い返した。「自分で死ね」と。
私たちは双方共に一歩も譲らず、そのうちにようやく日没が迫り、結果的には私が身を引くことでけりがついた。人間の庇護のもとに育ち、番うことも子孫を残すこともなく、ただ生きて、ただ死んでゆくだけのそいつは、しまいにこう言った。鳥を超越した鳥なのだから仲間扱いされるのは迷惑千万だ、と。「仲間の面汚しめ」というのが私の精いっぱいの棄てぜりふだった。
(6・3・土)
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