『千日の瑠璃』233日目——私は友情だ。(丸山健二小説連載)

 

私は友情だ。

少年世一と籠の鳥オオルリのあいだに芽生えるべくして芽生えた、熱い友情だ。かれらはもはやただの飼い主と飼い鳥の間柄ではなく、また、単なる知り合いでもない。あるいは、鳥の立場に憧れる少年と人馴れしない野鳥の結びつきというのでもない。オオルリは、世一が指にのせて差し出すミル・ワームを呑みこむたびに、個我を没却するさえずりを繰り返す。その声を聞いた世一は、ともすれば鈍りがちな感官の働きを回復し、無為自然に生きる日々に自信を深めるのだ。

私がこのまま保たれたなら、そう遠くないうちに、両者が肺肝を開いて話すことさえ可能になるやもしれない。私は世一を限りなく大空へ近づけ、オオルリをどこまでも大地に近づける。私によって結ばれつつある両者の取るに足りない、だが掛け替えのないちんまりとした魂は、今、宇宙の摂理の隙聞をくぐり抜けて、青と緑、光と闇、陰と陽、秩序と混沌、条理と不条理、そうしたものに満ち満ちて、呪わしくも美しいこの天壌を自在に行き来することができる。けれども、当のかれらは、まだ私に気づいていない。つまり、互いに相手を失ったときの深刻さについてはまだ理解していないのだ。

きょうオオルリは、乱伐の結果荒れた遠くの山々と、まほろ町の片隅にある小さな集落で供応のために絞め殺される家禽を思って鳴き、世一は口笛でそのさえずりをなぞった。
(5・21・日)

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