『千日の瑠璃』204日目——私は墓地だ。(丸山健二小説連載)

 

私は墓地だ。

裏の崖が崩れて以来訪れる者がぱったりと絶え、埋葬された死者と共に忘れ去られようとしている、山の墓地だ。私は干天つづきのせいで乾いた田のようにひび割れ、石塔は残らず倒れてしまっている。そして今では、雨降りの晩になっても飛び交う人魂はなく、存在と無のはざまに棲息する物の怪の類いも寄りつかず、身の毛立つ話のひとつも生まれる余地はない。

きょうの午後、前々からの顔馴染みの少年がやってきた。どこかで何か厭な思いをしたらしく、彼は少し角張っていた。胸を痛めて萎れた者のように、何となく春愁を覚えた者のように、世一は私の上をほっつき歩いた。だが、しゃくりあげることはなかった。大きく波打つ体を持て余しながら四月の彼方を見やり、その眼を足もとに落としたとき、世一は人骨を一本発見した。墓穴から不様にはみ出している偉丈夫の大腿骨を拾った。

世一はそれを頭の上でぶんぶん振り回し、きっと天を睨み据えて何事か呟き、次第に風あしが速まるにつれて興奮し、言い募った。青々と輝く無辺際の宇宙そのものに激しく咬みつく彼の思弁は、正しくもあり、また、的外れでもあった。私は彼に言った。こんなものだ、と。どうせこんなものだ、と。すると彼は気色ばみ、ついで狼狽の色を見せ、伏目がちになり、まもなくその口調は酔って管を巻く父親とほとんど区別がつかなくなった。
(4・22・土)

丸山健二×ガジェット通信

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