テンパるグローバルブレイン
今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
テンパるグローバルブレイン
インターネットをグローバルブレインと呼んだ人がいた。ネットを通じた人間の振る舞いを、脳と脳細胞をメタファーとして考えるのは個人的にはわりと有益なモデルだと俺は思っている。
一つの細胞は脳全体が考えている事柄を知ることができない。同様にネットを通じて結びついている人間全体(つまり社会)がどういう方向に向かっているのかは個々の人間にはわからない。だから脳をメタファーとして想像するしかない。
それはおそらく飼い犬が主人の気持ちを想像するのと同じ程度のものだろう。主人である人間の思考そのものは分からない。ただなんとなく感覚として「機嫌が良い」とか「寂しがってる」とか感じられるだけだ。
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ネットの集合知と絡めて、これまで価値観の変革こそが大事だと述べてきた。価値観を適時転換していくことが、状況に適応することであり、「成長」「進歩」なのだと。
しかしそれでは逆に人間の脳はなぜこうまで既存の価値観に固執し、新たな価値観を拒むようにできているのか。そんなに価値観の転換が素晴らしいなら、そもそも人間の脳が同じように価値観の転換に柔軟にできているはずではないのか。
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人間の脳はニューロンの集合体だという。コンピュータの電子回路と同様に入力と出力があって、それぞれ興奮状態として伝達されるらしい。興奮しにくいニューロンは2つの入力が同時に興奮しないと自分も興奮しない。これはコンピュータのAND回路に相当する。「AかつB」だ。AとBが同時に成り立たないと、その出力はONにならない。
興奮しやすいニューロンは入力の1つでも興奮すると、自分も興奮してしまう。これはOR回路に相当する。「AまたはB」だ。AとBのどちらか一方でもONなら、その出力はONになる。
脳の中には相手のニューロンの興奮を抑止するニューロンもあるようだから、これでNOT回路が構成でき、コンピュータの基本論理回路がすべてそろう。
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コンピュータと脳が違う点はニューロンの興奮しやすさが動的に変化することだ。興奮しにくいニューロンが興奮しやすいニューロンになれば、AND回路がOR回路に化けてしまう。脳は動的に演算回路を組み替えているわけだ。しかしそれによってどのように思考しているのかは、解明できていない。
人間のもつ価値観というのは、脳細胞に例えるなら、この興奮しやすさなのだろう。価値観が変わるというのは興奮しやすさが変わるということ。つまり脳の回路が組み変わるということ。
それが一つ一つの脳細胞固有の特徴なのか、脳細胞の構成が生み出しているのかはわからない。組織の奥のほうに鎮座している偉い人は、下っ端に守られて外部の情報に疎くなる(変化しにくくなる)かもしれない。周りの脳細胞が一生懸命ガードしているわけだ。
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では逆に変化しやすくなりすぎてしまったらどうなるだろう。価値観というのは経験則であり、我々はそれに基づいて様々な判断をしている。いわばそれ自体が学習の成果なのだ。それが変わるということは、それまでの学習をリセットするということ。
価値観がコロコロ変わったら、おそらく学習する暇がなく、経験が蓄積されないだろう。それは人間でいえばテンパったとかパニクった状態なのではあるまいか。あまりにも非日常的な状況に置かれると、人間は自分でもなにをしているのかわからないことをやりだす。
日頃自分が使っている思考パターンが乱れ、妙なことを口走ってしまったり、普段では絶対選択しないような行動をする。おそらくこれが柔軟性が暴走した状態「100%柔軟な思考」の状態なのだろう…。次から次へと定着することなしに思考パターンが変化し、支離滅裂でもはや思考とは呼べない状態。赤ん坊の脳もこういう状態なのではなかろうか。
思考の柔軟性は大事だが、柔軟すぎると、こうなる。だから暴走しないように、人間は頭が固めに(価値観をおいそれとは変えないように)できているのだろう。
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人間の集合体であるグローバルブレインも同じ。なかなか社会の価値観は変わらない。価値観が非常に柔軟に(柔軟すぎるほど)変わる状態というのは、一種のパニック状態なのだろう。今までの行動規範が失われ、なにが正しいのかわからなくなる。3.11の頃の日本のインターネットはまさにそういう状態だった。
個人も集団(グローバルブレイン)も、そう簡単にしょっちゅうそういう状態になっては困るので、基本的に頭が固くできているのだろう。今の状態が進化の末に獲得したベストなバランスなのかもしれない。柔軟すぎもせず、かといって完全に硬直でもない。
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
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