金色が本当に美しすぎた『ツタンカーメン展』は見ておくべし
ガジェット通信では、2012年8月4日(土)から開催されている『ツタンカーメン展』を取材する機会が得られたので、今回そのレポートをお送りする。
取材当日は9月に入ったばかり。日差しは強いけれど夏休みが終わり、人足も緩やかになったころかな、と思いながらJR上野駅を降りて上野の森美術館へ向かったところ……まだまだ多くの人が列をなしていた。
関西では大盛況! そして東京では
スタッフの方に伺ったところ、この展示は先行して行われた関西でも大盛況だったそうだ。東京に来ても「(関西に)勝るとも劣らないほどの人気が連日続いている」とのことだった。
さて記者はというと、歴史に特別な思い入れがあるわけでもなく、正直に言うと世界史は苦手だったタイプ(すいません)。
でもそんな自分の個人的な感想として言うと、「『ツタンカーメン展』は一生のうち、一度は見ておいても損は無い」と言える内容だった。
場内での写真撮影は禁止だったので、許可を得られた図版用の写真を交えながらお伝えしよう。
3300年前ってどういうことなのだよ!
場内に入ると、まずは導入のムービーを閲覧することができる。
今回の展示物は、古代エジプト史における“絶頂期”とも言われる第18王朝時代のものを中心に構成されているらしい。
そして“少年王”ツタンカーメンはその第18王朝を治めた権威の象徴としても名高い。
ツタンカーメンが世を治めていたのは紀元前1355年ごろ。つまり今から3300年も前のモノが今回展示されていることになるのだが、正直ピンとこない。僕がギリギリイメージできそうな明治時代は1868年にスタート。つまりは140年ほど前の出来事。
日本史で最も長く続いたと言われる江戸時代スタートまでさかのぼると、およそ400年前。もうこの時点で十分に「大昔」なのだけれども、さらにその8倍もの時間が3300年前。文字通り想像を絶する。
そういったことを踏まえ、改めて展示物を見ると……「どうしてその時代のものが、この状態で残ってるんだよ!」とツッコミたくなるばかりのレベルなのだ。いい意味で。
とはいえ、予備知識が無いよりはあった方が断然楽しめるので、「音声ガイド」を借りることを強くおススメしたい(入口にて500円(税込)で貸出可能)。
「音声ガイド」により、展示品の背景やトリビアな情報がわかるので、作品の背景となった世界を満喫することができる。なお、ナレーションはフジテレビアナウンサーである松元真一郎アナ、西山喜久恵アナが担当している。
ツタンカーメンの立像がお出迎え
まず入場してすぐに置かれているのは、『ツタンカーメンの立像』。横と正面に象形文字が書かれているのも見ることが出来るようになっている。スタッフの方に「これ、なんて書いてあるんですか?」と聞いたら「左が王になった時の名前、右が幼少の時の名前ですよ」と親切に教えてくれた。
ここからしばらくは、新王朝時代をうかがい知るための「軟膏容器」やら「化粧用スプーン」や祭具、水差しといった生活感のあるアイテムが並ぶ。割と渋めの展示物だけれども、どれも味わい深い。
これらは、木に天然のアスファルト(瀝青:れきせい、というらしい)を塗ったり、あるいは硬い石や柔らかい石を削ったりして作ったものだったり、と手作り感満載(当たり前か)。文字にするとめちゃめちゃ民芸品っぽい印象なんだけれども、どれもこれも味があったり荘厳すぎたりと多種多様。
金箔を貼ったものも、もちろん多い。
『アメンヘテプ3世とティイ王妃の銘入りチェスト』(展示番号19番)は金の輝きと青色の織り成すコントラストが最高。取っ手に刻まれた花の模様が菊紋ぽく見えるのも趣き深い。
『アンク形祭具』(43番)や『アメンヘテプ2世の銘入りウアス杖形祭具』(42番)の青さは「どうやって作ったの?」と言いたくなるような深い色合いだ。
ちなみにこれらは「ファイアンス」という水晶(石英)の粉を固めた焼き物だったりする。
様々な展示物は歴史的にも非常に貴重なものばかりなのだが、来場した女性客からは「これカワイイよね」「こんなの欲しいー」といった声が聞こえた。カジュアルな感覚で3300年前の遺物を楽しんでいるのが印象的だった。
ちなみに記者のお気に入りは『泳ぐ少女を象(かたど)った化粧用スプーン(持ち手)』(7番)。絶妙な曲線美。こんなの欲しいー。
金色、スゲー!!
さて、そんな中でも、目玉展示の一つである『チュウヤの人型棺』(107番)の圧倒的な威圧感・絢爛(けんらん)さは特筆もの。「コレです!コレ!」と言いたくなるほどの有名な作品なのだが、実物の存在感はもはや異常ともいえるレベル。
モールドの重厚感や金の“ピカピカ度合”を目の当たりにした記者の心臓は、理由抜きに高鳴った。象形文字でくるまれている棺は、まるで結界に守られているかのようでもある。
『チュウヤのカルトナージュ・マスク』(106番)もそうであるが、「死者のための装飾」であるこの金色は“埋葬”という非日常なのだなあ、としみじみと感じさせる。
また『子どもの木棺』(98番)、『子どものカルトナージュ・マスク』(99番)はその小ささに胸が締め付けられた。埋葬された子(胎児)は、DNA鑑定によりツタンカーメンの子であったことが判明しているという。
そのツタンカーメンが使ったという『ツタンカーメンの肘掛け椅子と足台』も小さい。こちらは子供時代のツタンカーメンのために作られたとされるサイズ。現代でいうところの4~5歳用くらいだった。
この展示の周りでは、全員が息を呑んだ
それまでは和気あいあいと感想を言い合いながら観覧していた人たちが多かったのだが、その展示スペースの周囲では、みなが迫力に押されて静かになっていた。
それが『ツタンカーメンの棺形カノポス容器』(101番)。ポスターやパンフレットの表紙にもなっているもう一つの“目玉”である。
造形がかなりしっかりしているため、写真ではスケール感がわかりづらいのだが、その大きさは意外に小さい。およそ40cmほどだろうか。小さいがゆえ、細かさが引き立つ。
またその何とも言えない表情は、追憶や望郷に似た複雑な感情を引き起こさせる。この大きさにして緻密な装飾は、荘厳さを空気として放っていた。よく見ると表情が非対称なのも、生々しさを感じさせる(ただしツタンカーメンの実際の容貌とは異なったらしいが)。
内臓(肝臓)の保管を目的とされたこの容器、材質は金、水晶、黒曜石、ガラスなど。内側には精細に彫られた象形文字も確認できる。
この展示は周囲を歩きながら360度、あらゆる角度からの閲覧が可能。記者も含めて何周もしている人が多く見られた。マジメな話、数十分見ていて飽きなかった。
この後にも、3300年間ツタンカーメンが棺の中で身に着けていた装飾品や、ツタンカーメンの頭部レプリカなどの展示が続く。
ちなみに頭部レプリカは実際に触ることもできる。少年王の頭部はおよそ20~25cmほどだろうか、とても小さく感じた。
一連の作品を見終えて感じたのは、金という材質の本来的な「強さ」。金を用いて、当時の権力というものを形にしたものが、今回の展示なのだな、と感じさせられた。
おみやげコーナーも個性的
『ツタンカーメン展』は、おみやげコーナーもかなり個性的だった。
会場と併設された「ミュージアムショップ」とその周囲のショップで売られているものとで、若干内容に違いがあるので、確認してみてほしい。
周囲のショップでは、輸入品中心に。ミュージアムショップでは本展のオフィシャルグッズを中心に販売している。
ポストカードやマグカップ、キーホルダーやストラップ、お菓子といったものから、キティちゃんやガチャピンとコラボしたものまでラインナップは多彩だ。
中でも人気は『ツタンカーメンメン』。しょう油、塩、みその3種類の味が取り揃えられている。
ツタンカーメンがよだれを垂らすパッケージ、正直「いいんかよ!」とツッコミを入れたくなる商品だが、店員さんによればなかなかの売れ行きだという。他にはツタンカーメンのお面などもおススメとのこと。
ちなみに『ツタンカーメン 黄金のラスク メープル味』には「※黄金のマスクではありません」と注釈する念の入れようだった……。
何を買ったらいいのか、迷う人には『ツタンカーメン展 図録』(2500円)を強くおススメしたい。
こちらは今回の展示における“唯一の公式図録”だけあって、全展示の高品質な写真や、1点1点の作品解説はもちろんのこと、時代考証や発掘現場における説明文、さらにはザヒ・ハワス博士による詳細な解説など、みっちりと詰まった一冊に仕上がっている。200ページ以上に及ぶボリュームもかなりお得感が高い。
『ツタンカーメン展 図録』は会場の「ミュージアムショップ」だけでなく、『産経ネットショップ』でも購入可能だ。これから見に行く人は、展示前に購入して“予習”するのもいいだろう。
ツタンカーメン展 公式図録・グッズ販売|産経ネットショップ
http://sp.sankeishop.jp/kingtut/ [リンク]
見られるうちに見とくべし!
先にも述べたように、今回の『ツタンカーメン展』は、歴史的知識が無い記者でも十分に楽しめる展示だった。作品の持つ力は説明抜きにスゴいので、多くの人におすすめできる内容だ(取材なのに大幅に予定時間をオーバーして見入ってしまったのは内緒だ……)。
『ツタンカーメン展』は、上野の森美術館にて12月9日(日)まで行われる予定。
関連リンク
『ツタンカーメン展』公式サイト
http://kingtut.jp [リンク]
Photographs © Sandro Vannini
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