『千日の瑠璃』124日目——私は退学だ。(丸山健二小説連載)
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私は退学だ。
これといって特に難点のない、ごく普通の高校生の、自己の都合による退学だ。むろん私は両親の許諾を得ており、家庭不和を招くような性質のものではない。校門を出た少年は、更に心胆を固めるべく、空へ向って握りこぶしをぐっと突き出し、二度、三度と跳び、叫ぶ。振り返った彼は、そこに浪費してしまった時間のごみの山を見る。そして、彼の行手には縷言するまでもない自由が光り輝いており、その強烈な眩さは、一時の便法にすぎないのかもしれない、早まったかもしれないという不安を見事に打ち消している。
従順でありながら、適度に優秀な労働者となる若人を選り択るための堅苦しい場、彼は己れの意志と決断で以てそこを飛び出したのだ。単に落ちこぼれただけなのか、もしくはその逆であるかについては、私にはまだ何とも言えない。ただひとつはっきりしているのは、これで間違いなく世界が彼のものになったということだ。もはや彼は、己れの分を尽くすことなど考える必要はまったくない。今の彼には、心を異郷に駆り立てる話を真に受けて屍を山野に晒す冒険へ旅立つことだって、やろうと思えばやれるのだ。しかし、彼にはまほろ町を出て行く気はさらさらない。
それから彼は、重い病によって解き放たれている、誰よりも自由な少年とすれ違う。
「おまえなんかといっしょにされてたまるか」と彼は言う。すると少年は、にやっと笑う。
(2・1・水)
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