プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学(前編)

プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学

この記事は『LinkedIn navi』の『プロフェッショナルインタビュー』から寄稿いただきました。

プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学(前編)

日本を代表するインターネット企業・ヤフー株式会社。今春に発表された大改革人事で新社長に抜擢されたのが、44歳の宮坂学さんだ。スニーカーにTシャツ姿で軽やかに登場し「僕自身は、六本木よりも自然の中になじみがあるんです」と語る様子からは、親しみやすさと、気負いよりも新しい未来への期待感が伺えます。自身を“やんちゃ”と評する宮坂さん、誰もが気になるその人物像に迫ります。

プロフィール

宮坂 学(みやさか まなぶ)
1967年山口県防府市生まれ。同志社大学経済学部卒業。92年、株式会社ユー・ピー・ユーに入社。企業PRや創刊間もない『Esquire Magazine Japan』などの雑誌にも関わる。97年、創業2年目のヤフー株式会社入社。2002年メディア事業部長、以降『スポーツナビ』運営、ニューズウォッチ(現デジアナコミュニケーションズ)やオリコンDDなどの取締役を兼務、09年には執行役員コンシューマ事業統括本部長に就任。2012年6月より現職。

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第1章
「課題解決エンジン」としてヤフーができること。
そして、会社を変えるための社長の役割とは?

― 宮坂さんの社長就任は、大きな話題となっています。毎日が大きく変わられましたか?

そうですね、やはり忙しくなりましたし、趣味の山登りなどのアウトドアにはなかなか行けなくなりました(笑)。現在は、毎日8時から22〜23時くらいまで出社して、たまには週末も出社します。

― まずはヤフー社長としての新しい取り組みについてお教えください。

人と社会とを動かすためのライフエンジンであるとともに、「課題解決エンジン」であり続けることを会社のミッションとしました。課題とは、社会的なものから個人における本当にささやかなものまで……たとえば、お昼に何を食べようか、なぜ我が社のサイトに客がこないのか、といった課題をインターネットによって解決に導くこと。世の中の課題を解決しつくそう、すべての課題が解決できたら会社は解散してもいいというくらいの気持ちです。

それに今までパソコンでは答えを届けることができなかったものでも、スマートフォンを使うことによって、情報技術で解決できることが増えていると思っているのです。

― 会社が「課題解決エンジン」であり続ける、宮坂さんの役割はどこにあるとお考えですか?

会長の孫正義さんや前ヤフー社長の井上雅博さんからは、「変えろ」と言われました。

ヤフーは創業時に比べて大企業となりましたし、業績も右肩上がりです。私が言うのも何ですが井上さんは素晴らしい方ですし、なぜ改革を? と思われる方もいるかもしれません。ただ、井上さんにできないことは「変えること」でした。僕は「変える」ためにバトンを受け継いだということです。

そんな中で自分の役割を考えたときに、根っこでやるべきことは社員の情熱や才能を解き放つこと。これが社長としての一番の仕事です。

よく人間は2割の能力しか使ってないと言われていますが、その力を解き放つ。僕の重要な仕事は、人財が活躍できる舞台づくりをやることなんです。元々、課題解決が好きでヤフーを選んだ社員が多いので、その想いに応えるためにも、つねに新しいことにチャレンジしていくことも重要だと考えています。

プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学

― 大きな任を負い、重大な決断をすることに対してのプレッシャーはどうお感じでしょうか。どなたかに相談することもありますか?

誰かに相談するよりも、最終的には1人で決断しますね。

それに、モチベーションは人からはもらえないので、自分で上げるしかない。下がったときの対処法はわかっているんです。僕は、1人で自然の中に身を置くようにします。とくに、景色が何百年も変わっていないような空気の素晴らしい場所に行くと、リセットされます。

経営者は孤独です。相談できる相手はいないですから。ただ、1人でいることは昔から好きでした。

第2章
漁師に憧れた “やんちゃ”な少年は、
学生時代、ドロップアウトしそうになった!?

プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学

― 日本を代表するIT企業の若き社長となられたわけですが、その幼少時代を聞かせてください。

生まれは山口県防府市。実家は小料理店を経営し、姉がいました。野球やサッカーも好きだったのですが、目の前が海で、よくそのまま飛び込んで泳ぐようなやんちゃな子供でした(笑)。5月くらいから9月までは海で泳ぎ、ほとんど外で遊んでいましたね。田舎ですし、まだファミコンすらなかった時代です。学校の成績は悪くはなかったけれど、普通でした。

実は、小さい頃は漁師になりたかったんです。母親の実家が船大工で漁船を作っていましたし、海が身近で漁師に憧れていましたね。それに、魚釣りは大好きでした。

― 漁師とは驚きです。いつ頃から、今の職業にかかわるような進路を意識したのでしょうか。

今から思えば、本当に不思議な人生ですね。もともと自然が好きで、海や山、森が大好き。今の仕事とは遠いですから。

小中学生とあまり勉強しませんでしたから、地元の普通高校にギリギリ行けたくらいで、だめなら水産高校や農業高校で実技を学べばいいや、くらいな思いだったんですよ(笑)。高校は一応進学校だったので、それなりの勉強はしましたが、山岳部で山に夢中でした。

― では、大学入学が大きな決断だったのですか?

それが大学に入るのも、京都という場所への憧れもあって、それなら同志社かな……というノリでした(苦笑)。経済学部を選んだのも、あまり考えてはなかったですね。

ただ、最初の2年間は全く勉強していません。仕送りがなかったので、異常にお金がなくて。アルバイト漬けです。ちょうどバブルのまっただ中で景気がよく、なかでも水商売はお金になりましたから、バーテンダーをやっていました。実は3年時には休学して、店を出そうかと思ったんですよ、本当に。

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― そんな時代があったのですか! でも、お店は出さなかったのですよね?

当時、バイト先で可愛がってくれた先輩に、大学は出ろと言われたんです。その方は中卒だったんですが、その先輩の言葉には説得力を感じました。

結局、大学3年生で1年間休学しましたが、復学したあとは真面目に勉強しました。とはいえ、一般的な経済学ですが。まだマックも出てない頃で、パソコンにも触れてません。

そうはいっても、とにかく金がなくて暇なので、やることが本を読むことしかできない。そういう意味では、京都は学生に優しい街です。安い古書店が多く、本代として1日200円プラス食費で生きていける。本当にお金がないですから(笑)。

そしてその頃、89年頃になってシリコンバレーの話題を雑誌や本で見かけるようになり、興味がわいたんです。

― ドロップアウトしそうになった学生が、シリコンバレーの勃興やその周辺に興味をもつようになったんですね。

そもそも、周囲は金融機関や大手新聞社への就職を目標にするような学生ばかりでした。もちろん、興味がなかったわけではありません。ただ、アメリカのシリコンバレー周辺の話題はとても魅力的だったし、小林克也さんがDJだった番組『ベストヒットUSA』で観ていた、アメリカのカウンターカルチャーぽい空気には感化されました。紹介されていたライブなんて、U2が前座で、クラッシュなどが登場するんですよ! それも、どうやら、アップルコンピュータの経営者のポケットマネーでライブをやったと紹介されたり。

プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学

― めちゃくちゃカッコイイじゃないですか!

日本には、まだベンチャーそのものがなかった時代ですが、ユー・ピー・ユーを受けたんです。

― ユー・ピー・ユーはとても魅力的な会社だったようですね。

実際には、都銀や生保といった金融機関や、新聞社などのマスコミも受けました。『ウォール街』という映画に影響を受けたりで(苦笑)。迷いまくりました。

ただ当時、都銀や生保を受ける人は、頭のいい人が多かったですが、ユー・ピー・ユーは変わった人が多かったんですよ。これはとても魅力的でした。しかも、社員全員にマックが与えられていたんです。さらには当時、91年くらいでストックオプションが出るという。会社は、学生の就職関連事業や広告、出版業として『エスクァイア』や『IDジャパン』など先鋭的な雑誌を手がけていました。

ちなみに、掟ポルシェ※1は同期なんですよ(笑)。ほかにも、井上トシユキ※2さんなど、破天荒な人たちが多くいた、小さいながらもすごい会社でした。

※1 掟 ポルシェ…
バンド「ロマンポルシェ」ボーカル。サブカル系のライター、役者としても活躍。

※2 井上 トシユキ…
ライター、ジャーナリスト。株式会社ユー・ピー・ユー勤務後、フリーランスとしてネット黎明期からIT系分野で執筆を続ける。

プロフェッショナルインタビュー:宮坂 学(後編)に続く
https://getnews.jp/archives/250101

※この記事は『LinkedIn navi』の『プロフェッショナルインタビュー』から寄稿いただきました。

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