『千日の瑠璃』79日目——私はクリスマスツリーだ。(丸山健二小説連載)

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私はクリスマスツリーだ。

商魂のみがこめられて作られ、まほろ町の商店街にでんと据えられたクリスマスツリーだ。少なくとも大きさの点ではどこのものにも引けをとらない自信がある。雪の気配が立ち戻って山国が夜の帷に包まれると、私は電飾を点し、一斉に欲望の光を放つ。すると、私をひと目見たいと願う田舎者が、きゅっ、きゅっと雪道を踏み鳴らして集まってくる。どれも冗談を真に受ける愚鈍な顔だ。そんなかれらに、私は何の根拠もないひとかけの期待を持たせて帰す。

夜がとっぷり更けると、私のまわりには人っこひとりいなくなり、どこか遠くの方から、悲しそうに咳きあげる子どもの声と、経文を読誦する年寄りの声が届く。そしてその声が絶える頃、ひと組の親子が現われ、私の前で立ちどまる。父親は盲目のわが子のために、私のことを実物以上に美化して説明し、それから彼女を肩車にして爪立ち、銀紙製の鈴や星やヒイラギの葉に手を触れさせる。ところが、少女の心は何か別な想いで塞がっているらしく、私が入りこめる余地はまったくない。彼女が抱き締めたのは結局私などではなく、遅れてやってきた黄色い老犬だ。

その親子と犬が帰ったあと、心が見事なまでにもぬけの殻の、宗教的臭味のない少年が、美しい粉雪を引き連れて現われる。彼はやにわに手回しドリルを取り出すと、そいつで以て私のどてっ腹をぐりぐりと抉り始める。
(12・18・日)

丸山健二×ガジェット通信

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