【「本屋大賞2020」候補作紹介】『ムゲンのi』――眠り続ける奇病に医師が「霊能力」で挑む! 夢に入り込み患者を救う新感覚「医療ミステリー」

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【「本屋大賞2020」候補作紹介】『ムゲンのi』――眠り続ける奇病に医師が「霊能力」で挑む! 夢に入り込み患者を救う新感覚「医療ミステリー」

 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2020」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは知念実希人著『ムゲンのi』です。

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 2年連続で本屋大賞ノミネートとなる知念実希人さんは、実は小説家でありながら現役の医師。医師ならではの視点で描く作品は、医療ミステリーの旗手として人気を博しています。

 2019年本屋大賞ノミネートの『ひとつむぎの手』では、心臓外科を舞台にした医療ミステリー×ヒューマンドラマを描きました。今回は神経内科医の主人公が活躍。ファンタジー要素を強めた著者の新境地ともいえる1冊です。

 日本最大規模の神経精神研究所付属病院に勤める若き女医・識名愛衣(しきな・あい)は、難病患者を受け持っていました。病名は「特発性嗜眠症候群(とくはつせいしみんしょうこうぐん)」。通称「イレス」とも呼ばれるその病は、睡眠状態から昏睡状態に陥り目覚めることがなく、世界でもわずか400例しか報告されていない奇病でした。

 それにもかかわらず、日本で患者が4名発症。しかも、患者たちは「同じ日」に発症しており、東京西部エリア在住という奇妙な共通点を持っていました。識名は先輩の杉野華(すぎの・はな)とともに治療に挑むも、これが何を意味しているのか、答えを探すも手がかりすらつかめない状況。わかっている情報は、どうやら彼らが「生きているのが嫌になるぐらいつらいこと」を経験しているということでした。

 すでに40日間も眠り続けている患者たち。行き詰まった識名に手を差し伸べたのは、祖母でした。祖母は、病気を治す「不思議な力」を持つ沖縄の霊能力者「ユタ」です。つらい経験があるとマブイ(魂)が弱くなり、誰かに吸い込まれると眠ったままずっと起きないこと、その状態から回復するためには体にマブイを戻す魂の救済「マブイグミ」が必要だということを教えてくれます。

 医師である識名は迷信じみた話に疑いを持ちつつも、「イレス」と共通する症状だということに驚き、祖母からユタの力を授かることになります。それは、醒めない夢の世界「夢幻(むげん)の世界」に入り込める不思議な力でした。

 識名は患者の1人、片桐飛鳥(かたぎり・あすか)の夢の中に飛び込みます。そこで出会ったうさぎの耳を持った猫「ククル」とともに、患者の過去を追体験していきます。パイロットを目指していたものの、事故によって片目を失明した過去を持つ彼女を救うことができるのでしょうか。そして、浮かび上がる患者たちの共通点とは。

 一方同じころ、東京西部で通り魔による猟奇的連続殺人事件が発生。そのニュースを聞き、識名は23年前の「あの事件」がフラッシュバックし、自身のトラウマがよみがえります。識名は自身の過去にも向き合うことに……。

 上巻はファンタジー、下巻はミステリー色が強い本書。ファンタジーとミステリーがうまく融合し、違和感なく読み進められます。伏線の回収もお見事の一言。すべてがつながる衝撃のラストは必見です。物語の真相はもちろん、タイトルの意味、ラスト1ページの言葉を知ったとき、胸が熱くなることでしょう。

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