東日本大震災から9年。福島の「今」を体感する旅へ
3.11の東日本大震災以来、福島という土地のことを考える機会は多くなった。とはいえ、あれから9年のときが過ぎ、話題にのぼる機会も少なくなってきている。震災前に、サーフィンを趣味としている友人が、福島の海はものすごくきれいで、しかも混んでいないから穴場なのだと話していたのを聞いたことがある。写真で見て憧れていたあの海、あの場所は今、どうなっているのだろう。足を運んで自分の目で見たくなった。
上野駅
アクアマリンふくしまで環境について学ぶ
最初の目的地、「アクアマリンふくしま」(ふくしま海洋科学館)へは、JR上野駅からJRいわき駅行きの特急ひたちと路線バスで2時間ちょっと。特急ひたちは通勤客も多いのか満席だったけれど、水戸を過ぎると落ち着いた様子になった。いわき駅の3駅手前、泉駅で降り、駅のロッカーに荷物を預け、小名浜・江名方面の路線バスに乗り換えた。15分ほどで最寄りのバス停「イオンモールいわき小名浜」に着く。
バスを降りて海のほうに目をやると、ガラス張りの大きな建物が見えた。「アクアマリンふくしま」は、もともと来場者数が80万人近い東北地方で最大級の水族館だったけれど、東日本大震災で大きな被害を受けている。震災後約4カ月で営業を再開し、今は復興工事も完了しているそうだ。
水族館は好きだ。不思議な生き物を眺めながら、マニアックな解説を読むのは面白い。
はたして「アクアマリンふくしま」は、素晴らしい水族館だった。生き物が暮らす自然環境をまるごと再現しながら、地球の「過去・現在・未来」をコンセプトにした展示をしている。
「過去」をコンセプトにした展示「海・生命の進化」
「過去」をコンセプトにした展示では、カーブしたトンネルの入り口や、照明を落とした館内にワクワクしながら、ニホンカワウソの歴史について知り、美しいアンモナイトの化石やシーラカンスの標本を眺めることができる。
続いて、「現在」をコンセプトにした展示では、福島の川と沿岸から河口にかけての生態系が再現されており、黒潮の源流域である熱帯アジアの自然やサンゴ礁の水槽、親潮の源流であるオホーツク海の海獣・海鳥コーナーへと続く。
親潮の源流域に生息するトドも
名物である三角トンネルは、日本列島の南と北から流れてきて、福島県沖で出合う黒潮と親潮を象徴した2つの水槽から成っている。想像していた以上の迫力で、海の底にいるかのような感覚に陥る。
「アクアマリンふくしま」は、「海を通して『人と地球の未来』を考える」という理念のもと、スケールの大きな展示で世界的にも注目される「環境水族館」であり、学ぶことが多い。環境問題への意識を高めるための展示コーナーも充実していて、ところどころに配置された、館長である安部義孝さんの解説文を読むのも面白かった。
小名浜の街を一望できる展望タワーや、レストラン、子どもたちの自然体験の場もあるので、恋人や家族と出かけてもいいし、1人で訪れても半日はあっという間に過ぎてしまいそう。
ゼリーのイエ
旅先でしか食べられないおやつを求めて
水族館を出たあとは、歩いて20分ほどの場所にある「ゼリーのイエ」へ。
こちらのゼリー、人にもらったり、雑誌のお取り寄せテーマで取材をしたりと何度か食べたことがある。手作りのあたたかさと、目を惹くような色とりどりの層や、中にムースが入っているという完成度が素晴らしく、全国にファンが多い。オンラインショップもあるけれど、初めて訪れたお店は小さくて可愛らしく、嬉しくなった。
訪れた14時過ぎには既にほぼ売り切れていて、残っていた少しのゼリーを買い占めた。発泡スチロールの箱に入れてもらうと2時間ほどの保冷も可能とのこと。帰り際に購入してホテルの冷蔵庫に入れておけば、お土産にすることもできそう。レトロな水玉模様のビニール風呂敷で包んでくれるのも可愛い。
ゼリーをかたどったストラップも購入。乙女心をくすぐる愛らしさでお土産にぴったり。
「ゼリーのイエ」でタクシーを呼んでもらい、10分ほどの場所にある「cafe Uluru」へ向かった。
丘の上にある一軒家のカフェで、遠くに海を眺めながらお茶することができる。ヴィンテージの家具や照明を使った心地のよい空間で、人気メニューのワッフルをいただいた。
注文してから焼き上げるというワッフルは、外はカリッと中はふわっとした食感で、サーブされたときのボリューム感にひるんだものの、食べてみると軽やか。あっという間におなかの中に消えた。
今回いただいたのはラムレーズンワッフル。他にバーガーやアルコール類、平日はパスタやカレーなどのランチメニューもある。
「cafe Uluru」から徒歩20分ほどのバス停・小名川橋から泉駅に戻り、荷物を持って常磐線でいわき駅へ。いわき駅周辺は予想以上に都会的で、ファッションビルなども賑わっていた。この日は駅近くのホテルに宿泊。
いわき駅
東日本大震災について改めて考える
翌朝、いわき駅から常磐線で40分ほどの富岡駅へ。列車の本数も少ないため、朝の便はかなりの混雑だったけれど、富岡駅に到着する頃には乗客もかなり少なくなっていた。駅前から「東京電力廃炉資料館」までは歩いて15分ほど。
「東京電力廃炉資料館」では、地震が起きてから津波が襲来し、燃料の冷却が困難となりメルトダウンし、放射性物質を放出する事故に到るまでの経過を動画や図説でわかりやすく解説しているとともに、反省と教訓について展示されている。当時、ニュースで何度も観た映像や図解を眺めながら改めて恐ろしさに震えた。
自然災害は避けようがないけれど、放射能汚染さえなければ、今、復興できている地域はもっとあるかもしれないと思う。しかし、電気が豊富に使える便利さを当たり前としていたのは、ほかでもない私たちだ。反省し、教訓としなければいけないのは、自分の暮らし方に対しても、である。
資料館では、当時、事態の処理にあたっていた方々の証言を映像で見ることができる(展示「あの日、3.11から今」)。危険な放射線量のなかで、使命感ゆえに逃げずに処理にあたってくれていた人々。そして今、廃炉に向けて、英知を結集して努力を続けている人々。原子力発電の仕組みすら知らなかった自分は、学ばなければいけないことが多すぎる。
館内では、映像や模型、パネル等を用いて廃炉現場の現状も知ることができる。実際に現場で使用する防護服などの装備の展示もある。
常磐線の富岡駅からJR浪江駅までの区間は、東京電力福島第一原発事故の影響で未だに復旧されていない。2019年の春に全町避難指示が一部で解除された浪江へ向かうためには、列車代行バスを利用する。
途中、帰還困難区域を通過した。震災直後のままに荒れた店舗や家屋を見て、みぞおちのあたりが苦しくなる。突然、普通の暮らしを丸ごと取り上げられてしまった人々がいるということを、改めて知った。
※編集部注:常磐線(富岡駅~浪江駅間)は、2020年3月14日に運転を再開予定。
浪江焼麺太国アンテナショップ
浪江でソウルフードを食べ、コーヒーを飲む
富岡駅から常磐線・列車代行バスで約30分、浪江駅で下車し、歩いて「浪江焼麺太国(なみえやきそばたいこく)アンテナショップ」へ向かう。お店は、浪江町役場に隣接して、いくつかの飲食店やショップが並んでいるなかにある。
駅から10分ほどの道中は、解体予定の家屋が並んでいたけれど、アンテナショップが入居する仮設商店街「なみ・まち・まるしぇ」には音楽が流れ、店内は混雑し、活気があった。人々がこうして集まれる場所があるのは、どんなに心強いことだろう。
なみえ焼そばは、通常の約3倍もある太い中華麺と濃厚ソース、豚バラ肉とモヤシだけのシンプルな具が特徴。約60年前、労働者のために食べ応えと腹持ちをよくするために考案されたといわれていて、震災前は町内の約20店で提供されていたという浪江町のソウルフードだ。
ご当地グルメとして話題になりかけていた頃に震災が起き、「浪江焼麺太国」のテーマは「まちおこし」から「まちのこし」に変化した。浪江の町民たちにとっても、なみえ焼そばは故郷の味であり、困難を乗り越える活力となっているという。
開運成就を意味する九頭の馬が描かれた、地元の大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)の器で提供され、2種類のソースを使ったコクのある味付けに箸が進む。
再び浪江駅に戻り、駅前の「かふぇ もんぺるん」へ入った。
煮込みハンバーグやなみえ焼きそばといった日替わりランチのほか、ケーキやドリンクを提供している。店内は広々としていて、wi-fもあり電源も貸してくれるため、出張で訪れた人たちが、ここで時間調整をしていくことも多いという。経営しているのは、「一般社団法人 まちづくりなみえ」だ。 駅前にカフェがあることで浪江の街は活気づき、住人や訪れた人の憩いの場として大きな存在となっているに違いない。
こちらのコーヒーカップも、大堀相馬焼の伝統的なもので、「二重焼」という中身が冷めにくく、中身の熱さが手に伝わりづらい技法で作られている。
ふるさとを愛する心と、苦境にめげずにたくましく立ち上がる人がいる。辛い気持ちを抱えながらも、一歩ずつ前に進んでいる人たちのために私にできることはなんだろうかと考えつつ、代行バスと常磐線を乗り継いで帰った。
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上野駅
掲載情報は2020年3月10日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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