「優秀なのに、なぜか提案が通らない」たったひとつの確かな理由とは?ーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。
『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものもあります。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「みんな新システムを開発したやつらが相当に苦労したことはわかっている。そう簡単に改善できないことも」
(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第5巻 キャリア42より)
龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。
井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。
「優秀なのに、上手くいかない」理由とは
井野が今度、担当することになった転職希望者・桂木悠也(かつらぎゆうや)。桂木は東大経済学部卒で、一流商社に勤めるエリートです。井野は、本人の希望に従ってコンサルタント会社の求人にエントリーし、桂木との面談をセッティングします。ところが、面接試験は不合格。
「優秀なはずなのになぜ?」と疑問に思った井野は、自社の営業担当に聞きに行きます。しかし、担当の答えは「何となく」というものでした。実のところ、井野には桂木が落ちた原因がわかっていました。本人の優秀さを鼻にかけるような態度が嫌厭されたのです。実際、桂木は今いる会社でも、上手くいっていませんでした。
ある日のこと。桂木は部長に向かって「今度、自社で開発したシステムは、新しいOSに対応できません。もっと、改善するように上に働きかけては?」と提案します。けれども、部長は「それについてレポートを作成するように」とだけ告げ、本気に取り合おうとしません。それを見た桂木は、1人「自分に権限を与えてくれれば、すべてを正しく改善するのに」と思い込むのでした。
世の中の多くのことは“グレー”である
そもそも、桂木には「人間のすることに完璧はない」という考え方がありません。たとえば、先ほどのシステムの話を例に取ると、確かに「最初から新しいOSに対応したシステムを導入したほうが、後々のことを考えれば効率がいい」、という意見はもっともです。しかしそうなると、「これまで使ってきたものはどうするのか?」という問題が出てきます。
「万一、これまで積み上げてきたものが、新しいシステムで使えなかった時は、それを放棄するのか?」「顧客にもそのシステムを販売していた場合のフォローをどうするのか?」「ようやく完成にこぎつけた人たちの努力は?」等々、会社で新しいことを始めようとすれば、一筋縄にはいきません。こうした、世の中に存在しているジレンマを色でたとえると、その多くが「グレー」であり、「白か」「黒か」の判別がつくことは、むしろ少ないのが実情です。
一例として民泊を例に挙げてみると、以前は法律自体がなかったので、グレーでした。とはいえ、民泊は便利で革新的なサービスですから、利用している人にとっては白で、同業の旅館業者などからすれば黒だったでしょう。このように、その対象をどう捉えるのかは、捉える側の考え方や立ち位置にもよっても変わってきます。
©三田紀房/コルク
怖いのは、背後から襲われること
どんな会社にも、至る所にグレーが存在します。要するに「全員一致で賛成する」ということは、なかなかありません。(それが良いかどうかは別として)たとえ多数決で決めたとしても、ある一定数の割合で「自分の意見が通らなかった」という人は必ずいます。ただでさえ、会社では多くの人が働いており、利害関係が複雑に絡み合っています。こうした環境で仕事をしている以上、思った通りにものごとが進むことのほうが、少ないのが現実です。中には、互いに足の引っ張り合いを始める者もいます。
これは、私がまだサラリーマンの平社員だった頃のことですが、社内でしばしば目にしたのが「外的要因を解消しようとして奮闘している人が、内的要因によって足元をすくわれる」という事例でした。たとえば、他社ブランドと激しいシェア争いを繰り広げている最中に、その中心人物が、社内政治に巻き込まれて降格されたり、左遷の憂き目に遭ったりする、というようなことがありました。
「有能な人であっても、味方に背中から打たれる」実例を見てきた私は、あるマイルールをつくり、今でもそれを実践しています。それは、「誰も損をしない提案をする」というものです。
誰かが損をする提案は、上手くいかない
1つ確かなのは、「誰かの犠牲の上になりたつ提案は、たいてい上手くいかない」ということです。新しい挑戦に向かい風はつきもの。反対派はむしろ歓迎すべきですが、誰かが損をする提案を長続きさせるのは困難です。
物語に戻ると、桂木の提案は「自分が正しいことを証明しようとしている」に過ぎません。一緒に働いている人たちのことが、まるで目に入っていない桂木。果たして彼は、無事に転職することができるのでしょうか?
マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第44回
俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。
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