Can’t live without Books : Interview with Cha Kyoung-hee from Goyo Bookshop(Seoul) /書店特集:コヨソサ_チャ・キョンヒ(韓国・ソウル)インタビュー/고요서사 차경희
韓国・ソウル、米軍基地の北側の解放区と呼ばれる欧米系のコミュニティーが存在するこの地域は良質なセレクトショップや書店が並び、感度の高い人々が集う。そこに居を構えるコヨソサは、オーナーのチャ・キョンヒによる書物への愛情を確かに感じられる韓国近代文学を中心とした品揃えやワークショップ、猫が立ち寄ってくる陽当たりの良い読書席のある静謐な造りが魅力の書店だ。編集者としてのキャリアを経て、書店を開いたチャ・キョンヒに、成り立ちから展望までを聞いた。
――書店を開こうと思ったきっかけは何でしたか。
チャ「書店を開く前は出版社の編集者として9年間くらい働いており、”出版界に携わっている私と仲間たちは最善を尽くして本を作っていましたが、だんだん本が紹介される機会が減っているような気がしました。 韓国ではメディアの影響力が減って、メディアよりもインターネットの書店や大型書店で紹介されることが重要になっており、広告費のない小さな出版社は本を紹介することが大変になっていきました。そんな中、友人に会うために、休暇でフランスのパリに発ったところ、そこで路地ごとに特色のある小さな書店があることを発見したのです。小さな書店が多くなれば、自然に様々な本が紹介されると考えて、新しいチャレンジをすることにしました」
――文学好きだと分かるとても素敵な店名ですが、由来は何ですか。
チャ「1940年代に詩人の朴仁煥(パク・インファン)がソウルで運営した本屋『マリソサ』から“敍事(ソサ)”という単語を取ってきました。”敍事”という単語は漢字を変えるとそれぞれ書店、本、昔の学者たちが勉強する所という意味になりnarrative(物語)の意味もあって小説中心の書店によく合う単語だと思いました。 そして、良い本を読んだ時に得られる”内面の静けさ(コヨ)”を思い出し、ソサの前に静けさ(コヨ)を付けたのです」
――米軍基地やイテウォンなど欧米系文化が根付いているこの地域でどうして韓国文学に特化したお店を開こうと思われたのでしょう。
チャ「イテウォンという地理的背景を考えたというより、住宅が集まった地域で書店を開きたいと思いました。偶然知った解放村という地域が、解放後に形成された古い村でもあり、文学作品の背景になったりで、興味深い所だと思いました。 50年以上住んでいる住民たちと若い芸術家たちが共存する街である点も面白かったです」
――客層はどうですか?
チャ「20~30代の女性がほとんどです。 男性の場合はそれより年齢層が少し高いですね。 文学や小さい書店が好きだったり、こういう書店に興味を持つ人たちが主に来てくださっています」
――この辺りには書店が増えていますが、書店同士のコミュニティはありますか。あるとしたら、そのコミュニティではどのようなことを共有されているのでしょうか。
チャ「運営初期には近くの書店と様々なプログラムを行ったりしましたが、それぞれ特色の異なる空間であったため、今は緩やかに繋がっています。 それぞれ自分の書店の仕事に集中していますが、地域プログラムがきっかけになって一緒に行うことになったりもします」
――夜遅くまでの営業形態にしているのはどうしてでしょう。
チャ「平日は21時、週末は19時30分まで運営しているのですが、 仕事が終わってからも訪ねて来られる書店になればいいなと思いました。様々なプログラムをやっていますので、それより遅くなる時もあります」
――韓国文学の中でも現代文学がメインで扱われている印象です。また、本の入荷に関する問い合わせを受けていないようですが、選書の基準は何ですか。
チャ「入荷の問い合わせを受けていたら、心が折れてしまう時があったんです。そこで本の資料だけを受け付けて、入荷に対する可否は答えないことに2019年から方針を変えました。 本の面白さと文章力を主に見て決めています」
――韓国文学では近年女性作家、クィアの作家の躍進が目立ちますが、そのような文芸の動きが書店の取り組みにも何か影響を与えていますか。
チャ「私も女性作家やクィア作家の作品を多く読むようになりましたし、自然にそういった本の紹介や関連のイベントが増えています。 それらを通じて、新しい読者が女性作家、クィア作家の作品にハマるという良い循環が起きていると見ています」
――韓国における書や文学はどのような存在で、どのような役割を持っていると思いますか。
チャ「私が答えるには難しい質問ですね。 個人的には、読書人口は減っていますが、韓国人の文学に対する熱は高いと思います。 作家を希望する人はだんだん増えているという気もします」
――なるほど。書店ではワークショップも行っているようですが内容はどのようなものがありますか。
チャ「小説の深い読み方について、詩や小説を書くワークショップ、散文の読み方などを主に行なっています。 軽い雰囲気の集まりと深く掘り下げる雰囲気の集まりを適切にミックスしようとしています」
――クラシックなお店の中に陽が当たる読書席があったのが印象的でした。書店の中に読書もできる空間を作られたのはどうしてですか。
チャ「小さいお店ですが、少しゆったりととどまっていただければと思い、読書席にこだわっています。 ちょっとだけでも窓際に座って気分を変えてほしいという心からです」
――本に似合うワインボトルがあったり、美しい糸を使った包装であったり、派手ではないけれど細かな工夫がされているところもリピーターを生んでいるポイントだと思います。お客様にはこの書店でどのような体験をしてほしいですか。
チャ「小説や詩などの各作品をソムリエが解釈し、ワインをマッチングして試飲するプログラムを開いた後、その瓶を保管しているんです。包装は白い紙と書店のロゴステッカー、糸だけを使っています。 クラシックでありながら華麗ではない雰囲気を追求しています。あまりトレンドを追わず、長く続く、リラックスした雰囲気になればいいと思います」
――訪ねてくれるお客さんに本のおすすめなどをしていますか。しているとしたら、そのお客さんにあった作家を見つけるためにどのようなコミュニケーションを取るのでしょうか。
チャ「オーナーである私が最も面白く読んだ本は何かという質問には、あまり答えません。 おすすめしてほしがるお客さんが好きな作家や、面白く読んだ作品を訊いて、好みに合う本を探すようにしています。 誰でも好きになれる本ってほとんどないと思うんですよ。 他人の好みに合わせて本を読んでみたいという試みもいいですが、その本についてもっと知りたくなり、理解してから選べば、上手く読書を終えることができると思います」
――そうおっしゃっているところに質問するのも申し訳ありませんが、チャさんが注目している作家、作品があればご紹介いただきたいです。
チャ「最近はイ・ジュランという作家の小説が好きです。 もし韓国語が読める方ならというポッドキャストを聞いて下さい。 私が企画と進行に参加しているのですが、文芸誌の小説作品を紹介する番組なので、いつでもおすすめの作家と作品を聞くことができますよ」
――韓国では日本以上にペーパーレス化が進み、出版業界が危機に瀕し、大型書店の存亡が危ぶまれるようになったことで逆に独立系書店が増加した印象です。今後の韓国の独立系書店の動きはどうなると予測されていますか。
チャ「どうでしょうかね。うちの書店の将来もよく分からない状態ではありますが、まずは持続的な安定を求めながら、その書店特有の個性やコンテンツを持つ書店が生き残るのではないかと思います。同じような書店が増えているという反応もあり、残念ではありますが、書店が増えているということは歓迎すべきことだと思います」
――経営者の立場で、書店を長く維持するために気をつかっていることは?
チャ「本以外は販売していないですので、良い本を根気強く紹介することが一番重要ですね。 書店の利潤を高めるために流通方法を改善しようという努力もしています」
――現在の目標、予定や企画していることを教えてください。
チャ「お店の本をもっと多様にするのが2020年の目標です。作家よりは読者の参加幅が大きいプログラムを作ってみたいですね。昨年は小説家たちに頼んで短い小説を朗読会で発表してもらうというイベントを行いましたが、その作品を集めて出版社から本を出してもらう計画があります。これから先のことは‘コヨソサのインスタグラム(@goyo_bookshop)’で見守ってください。 :-)」
photography Ryoko Kuwahara
text Sunkyung Ahn/Shoko Mimbuta/Ryoko Kuwahara
Goyo Bookshop 고요서사 서점
20-9, Yongsan 2(i)ga-dong, Yongsan-gu, Seoul, South Korea
Tel: +82 10-7262-4226
Opening hours:Monday-Thursday 14:00 to 21:00 • Friday-day 14:00 to 19:30 Closed on every other Tuesday
Website:https://blog.naver.com/goyo_bookshop
Instagram:https://www.instagram.com/goyo_bookshop/
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