ヘミングウェイ、フィッツジェラルドが愛したパリの書店
書店と文化人は時に特別な関係を築くことがある。例えば芥川龍之介や梶井基次郎など多くの小説家に愛され多くの作品に登場した丸善書店や、谷崎潤一郎が店名を決めた春琴堂書店、近年では令和初の直木賞作家である大島真寿美が足繁く通っていた七五書店などが挙げられるだろう。
今回紹介する本のタイトルでもある『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』もその一つだ。
1919年にアメリカ人のシルヴィア・ビーチがパリで開店したシェイクスピア・アンド・カンパニイ書店は、アングロ・アメリカン文学とモダニズム文学の中心地となり、アーネスト・ヘミングウェイ、スコット・フィッツジェラルドなどの有名作家がこの書店で多くの時を過ごした。書店が破産の危機にひんした時、多くの作家が援助の手を差し伸べ、危機を脱したというエピソードからも、この書店がどれほど愛されていたかがわかるだろう。
本書は「文化人が集まるサロン」としての役割を担っていた書店で、どのようなドラマが繰り広げられていたのかを店主であるシルヴィア・ビーチ自身が語った回想録だ。世界的な作家たちの素顔、シルヴィアがジェイムス・ジョイスの名作『ユリシーズ』を出版するまでの苦闘など、20世紀文学の舞台裏が余すところなく記されている。
作家たちの交流の中から、時には彼らの作品と同じくらいドラマティックなことが起こることがある。文学の歴史に詳しい人はもちろん、そうでなくても一編のノンフィクション小説として楽しめるであろう1冊。
『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』
シルヴィア・ビーチ
河出書房新社
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