男性が育児休暇を取りにくい雰囲気が職場にあります…【シゴト悩み相談室】

男性が育児休暇を取りにくい雰囲気が職場にあります…【シゴト悩み相談室】

キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます。今回は、育休取得に悩む男性からの相談です!

曽和利光さん

株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。

職場は育児休暇取得制度が取りにくい雰囲気

<相談内容>

CASE35:「せっかく男性の育児休暇取得制度ができたのに、上司や先輩が否定的で、取りづらい雰囲気があります…」(32歳・食品メーカー勤務)

我が社では今春から、男性の育児休暇制度が新設されました。申請すれば、男性でも最長半年間の育児休暇を取ることができます。

現在、妻が妊娠6カ月。年明けには第一子が生まれます。それに合わせて育休を取りたいと思っているのですが、まだ制度化されたばかりで前例がほとんどないうえ、職場に「取得しづらい雰囲気」があります。

男性の育休が制度化されると決まったころ、部内の飲み会があったのですが、その席で上司は「男が育休なんて取らなくていい。家庭のために働いて稼ぐのが男の本分だ」、先輩は「半年も休んだらキャリアに傷がつくし、仕事でも後れを取る。取得するやつの気が知れない」と…。そのときはまだ妻の妊娠がわかる前でしたが、「いつかは僕も取りたい」なんてとても言い出せない雰囲気でした。

「男性の育休義務化」の議論も起こっている今、上司や先輩の考え方は前近代的だとは思うのですが、実際仕事は忙しく、その間に休むことで迷惑がられないかという不安はあります。どうすればスムーズに育休を取れるでしょうか?(営業職)

制度化の旗振り役となった役員を探し、根回ししよう

上司も先輩も否定的な意見を持つ中で、スムーズに育休を取得するためには、「育休制度の設計に動いたキーパーソンを探す」のが先決だと思います。

現段階では、男性の育児休暇制度は法的に義務化されていません。にもかかわらず早々に男性の育休取得を制度化したということは、「会社として本腰を入れて取り組むべきこと」と判断し、経営陣の誰かが旗振り役になったのではないかと推察されます。その旗振り役の役員を探して、「根回し」をするのです。

勤務先の企業規模はわかりませんが、いち社員が役員に直接もの申すのは難しいケースが多いでしょうから、役員のもとで制度設計に携わった「現場担当者」がターゲット。そして「育児休暇を取得したいが、実は今の所属部署では取得しづらい雰囲気がある。どうすればいいか」と相談して巻きこみ、ともに作戦を練ってエスカレーションをお願いしてはいかがでしょうか。

例えば担当役員に、部長会などの席で「各部署とも、今期中に1人は男性の育児休暇取得実績を作ってほしい」と訴えてもらったり、「子育て中の社員、もしくは配偶者が出産予定の社員をリストアップして、取得意思を確認してほしい」と指示してもらったりする、など。会社としては制度化した以上、早く実績を作りたいはず。無理のないシナリオを作って現場担当者経由で上げてもらえば、担当役員も気持ちよく動いてくれるのではないでしょうか。

経営陣からそのような指示が下りてくれば、会社の本気度が伝わり、現場の意識も多少なりとも変わるでしょう。「お前のとこ来年、生まれる予定だったよな。実は部長からこんな指示が下りてきてさ…」なんて、逆に上司から取得を促されるようになるかもしれません。

育児と真剣に向き合えば学びは多く、キャリアにもプラス

先輩社員は「育休を取ったらキャリアに傷がつく」と思っているようですが、決してそんなことはありません。

私も子を持つ親として経験がありますが、育児で身につくスキルは実にさまざまあります。例えば、無駄を省き、やるべきことに資源を集中させ限られた時間内にミッションをこなす業務設計&効率化スキル、子どもをあやしながら掃除をしたり食事を作ったりするなど、さまざまなミッションを同時並行で進めるマルチタスクスキルなどです。

育児を「やらされ仕事」として捉え、目の前のことにただ追われるようでは身につくものは少ないかもしれませんが、育児においても明確な目標を設定し、それに向かって計画を立て、イレギュラー事項にも臨機応変に対応することで、仕事と同等の能力開発は十分に可能です。

また育児は、真剣に取り組めば取り組むほど「もっと周辺知識をつけなければ」と思える難易度の高いプロジェクトです。例えば、栄養学や運動学、発達心理学や幼児教育学など、どんどん興味の範囲が広がり、自身の視座も上がるはずです。

そして、育児で得られるスキルは、「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」の開発にもつながります。

コンセプチュアルスキルとは「本質を見抜く力」のことで、マネジメント層には必要不可欠なスキルと言われています。具体的には、あいまいで抽象的な事象を整理して論理的に向き合い、それらを総合的に判断して物事の本質を見極める力のことを指しますが、育児はまさに毎日何が起こるかわからない、こうすればいいという正解もない「あいまいな事象」の連続。「本質を見極めながら先に進む力」を養えるチャンスでもあります。

つまりは、育児休暇を取得したからといって、先輩社員が言うような「キャリアに傷がつく」「仕事についていけなくなる」なんてことはなく、育児もキャリアの一環と捉えて真剣に向き合えば、むしろビジネスパーソンとしてプラスになると判断できます。

「前例社員」が失敗をしでかした可能性も

ふと気になったのですが…。相談内容に「まだ制度化されたばかりで前例がほとんどない」とありますが、「ほとんど」ということは、もしかしたら1人ぐらいは前例があるのでしょうか?もし前例となった社員がいるならば、その人に育休取得のためのノウハウを聞くのが手っ取り早いと思います。

ただ注意したいのは、その人が「失敗例」になっているかもしれない、ということ。上司や先輩が男性の育休取得にそこまで否定的なのは、他部署での失敗例を見聞きしたから、という可能性もゼロではありません。引き継ぎをしないで休暇に入り、皆に迷惑をかけてしまった、育児に学ぶどころか「仕事の勘所」をすっかり忘れてしまい、復職後なかなか戦力化しなかった…などというケースは少なからずあるようです。

前例があるならば、その部署のメンバーに「〇〇さんが育児休暇を取ったことがあると聞いたけれど、どうだった?」とこっそりヒアリングして、いい評判が出てきたら本人に直接アプローチし、ノウハウを聞きましょう。そして、もし悪い評判しか出てこなかったら、その悪い点をつぶすための行動を取ることが、「スムーズに育休を取得するための対策」になります。

引き継ぎをせず周りが迷惑したのであれば、引き継ぎ資料を完ぺきに作り、営業先へのあいさつや後任への業務引き継ぎスケジュールを立てておく。職場復帰後に迷惑をかけたのであれば、休暇中の目標を設定して行動計画を立て、それを共有しながら「育児を自身のキャリアにつなげるよう努力する」と皆に宣言する、など。ここまで丁寧に準備を行えば、上司や先輩も応援してくれるのではないでしょうか。

「もう制度化されているのだから、育休取得は『権利』であるはず。ここまで根回し&下準備しなくても…」と思われるかもしれませんが、相談者は、勤務先における「男性の育休取得のフロンティア」となる存在。もしもあなたが権利ばかりを主張し、無理に取得を押し通してしまったら、ますます男性が育休を取りづらくなってしまいます。多少面倒に思うかもしれませんが、うまく根回しをして準備を整えながら、上司や先輩のような古い考えを持った人も納得させつつ前に進みましょう。

アドバイスまとめ

「男性育休のフロンティア」という自覚を持ち、

丁寧な根回し&準備で

周囲を納得させながら前に進もう。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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