33人の社員で、約3500人の現場スタッフに感謝と労いのメッセージを送る――「GOOD ACTION」アワード受賞・株式会社CaSy取締役CHRO 白坂ゆきさん

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33人の社員で、約3500人の現場スタッフに感謝と労いのメッセージを送る――「GOOD ACTION」アワード受賞・株式会社CaSy取締役CHRO 白坂ゆきさん

働くあなたが思いを持って動き出し、イキイキと働ける場を作っていく。そんな可能性を秘めたアクションに光をあて、応援する「GOOD ACTION」アワード(※)。リクナビNEXTが主催するこのアワードの過去の受賞者にインタビューをしていく本企画。第5回目となる今回は、2018年度の受賞者である、株式会社CaSy取締役CHRO 白坂ゆきさんです。

「GOOD ACTION」アワード受賞者インタビュー記事一覧はこちら ※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION」アワードは、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

▲株式会社CaSy 白坂ゆきさん

家事代行サービスを手掛けるCaSy。現場で働く約3500人ものキャスト(家事代行スタッフ)から日々送られる日報に対し、33人の本部社員全員で心を込めたメッセージを返信するという取り組みで「GOOD ACTION」アワードを受賞しました。現場へは直行直帰、1人で完結する仕事だからこそ「ありがとう」の言葉を伝え、本部とのコミュニケーションを深めることで、キャストの定着率を高めています。

取締役CHRO(最高人事責任者)の白坂ゆきさんに、「GOOD ACTION」アワード受賞の背景とその後の変化についてお聞きしました。

創業当初は社長が一人で全キャストに返信

――わずか33人の社員で、1日に数百件届くキャストの日報に目を通し、特記事項が書かれている日報を中心にメッセージを返信するというのは、なかなか大変なことだろうと思われます。なぜこのような取り組みを行おうと考えたのか、その背景を改めてお聞かせいただけますか?

白坂 当社は2014年の創業ですが、キャストの皆さまへのメッセージ返信は創業初期から行っていました。まだキャストさんが十数人というころ、社長の加茂がキャストさん一人ひとりの日報に目を通し、「今日もありがとう、お疲れさまでした」という思いを込めてメッセージを返信し、コミュニケーションを取っていたのです。

その後、会社が急速に成長する過程でありがたいことにキャストさんの人数もどんどん増え、社長だけでは抱えきれなくなったことから、新たに「カスタマーサクセス部門」を立ち上げました。この部門は、お客様やキャストさんとコミュニケーションを取り、「お客様に長く、たくさんお使いいただくにはどうすればいいか」、「キャストの皆さまに気持ちよく、クオリティ高く働いていただけるにはどうすればいいか」を考え、実行する部署になります。

――このカスタマーサクセス部門のスタッフが、社長に代わってメッセージ返信を担うようになったのですね。

白坂 初めは、そうです。しかしお客様の数、キャストさんの数とも加速度的に増えていく中で、カスタマーサクセス部門でもすぐに対応し切れなくなりました。また「どんな役割を持っている社員であっても全員がメッセージ返信を行い、より多くのキャストに向き合う」ということを大切にしたいという気持ちもありました。

ただ、「みんなでやりたい」という気持ちはあったものの、企業規模が大きくなるにつれ徐々に「返信は誰かがやってくれるだろう」という考えが広がっていきました。成長期の企業だけに皆が大量の業務を抱えていて、「カスタマーサクセス部門があるのだから、どうしても対応できないときは任せればいい」という雰囲気も、いつの間にかでき上がっていました。

そんなとき、カスタマーサクセス部門から「私たちがご飯を食べられるのは、キャストの皆さんが頑張ってくれているからですよね。何を大切にすべきか、もう一度考えませんか?」という疑問の声が上がったんです。

確かに、キャストさんの働きの象徴である日報とどう向き合うのか、会社として明確に決め切れていないのは問題です。改めて、キャストさんの日々の頑張りに対して心を込めて向き合い、社長も含めた全社員で感謝と労いの日報返信をすることを決めました。

ゲーム仕立てで全社員を巻きこみ、メッセージの重要性を実感してもらう

――どんなことを行ったのですか?

白坂 「1人あたり、1日3件以上の返信」を目標に掲げ、全員が日報に細やかに目を通し、特記事項が書かれている日報を中心に心を込めてメッセージ返信することを決めました。特に記載がない人に対しても、定型の感謝と労いの言葉を返す自動返信システムを開発。やり取りが少しでも楽しく、温かみのあるものになるよう、「CaSyスタンプ」を開発しメッセージに添えています。

――現場に直行直帰のキャストにとっては、孤独感がやわらぎ本部とのつながりを感じられる嬉しい施策ですが、本部社員を動かすのは大変だったのでは?

白坂 まずは全社員を巻きこみ、「全員で返信するのが当たり前」と腹落ちしてもらうことが重要。「忙しくて対応できない」「専門部署があるのだから、そこに任せればよい」などの声も一部にありましたが、社員を動かすために考えたのが、ゲーム感覚の仕掛けで皆を動かす方法です。

「日報返信インセンティブBINGO★」と題し、社内4つの部門と、役員・部門長5名の顔写真をビンゴ形式にして配置し、「全員が毎週15通の返信」という目標を四半期で追いかけていくという施策を実行。各部門・役員や部門長が目標を達成するとビンゴが開き、開いた本数によって傾斜をつけたインセンティブが与えられるという仕組みを作り、やる気を促しました。

――ゲームで皆を巻き込みつつ、日報返信を「当たり前化」したのですね。

白坂 その通りです。初めはゲーム感覚でも、続けるうちに社員皆が自らメッセージ返信の必要性を実感し、前向きに取り組んでくれるようになりました。キャストさんから、「〇〇さんのメッセージに元気づけられました。ありがとうございました」という名指しのメッセージが届いたり、ベテランのキャストさんから「創業時のCaSyに戻ったね」の声をいただいたりと、たくさんの反響があったのです。こちらが日報に真剣に向き合っていることがキャストさんに伝わると「アプリの機能をこう変えてほしい」「もっとこうしてくれたら働きやすい」など、今までなかなか具体的に把握できなかった意見や要望も上がってくるようになりました。

当社は創業時から、お客様に感謝され、笑顔になっていただくことを第一に考えてきました。それを最前線で担ってくれるのが、現場で働くキャストの皆さま。そしてキャストの皆さまにどのようなメンタリティで現場に出向いていただくかは、私たちの対応次第。…全社員がこの事実を改めて理解し、誰一人例外なく取り組むべきことと認識してくれていると思います。

日報返信を自発的にコツコツやってくれるように

――「GOOD ACTION」アワードを受賞して、何か変化はありましたでしょうか?

白坂 受賞に伴い、テレビなどで出させていただくようになって、それまでは多からず社内から上がることもあった「なんで日報返信しなければならないの」「我々は本当に忙しいのに…」という声は少しずつ聞かれなくなり、しっかりと返信してくれるようになりました。

社外から評価いただくことで、社内のメンバーの心が動いたり、“自分の会社はステキなことをやっているんだ”と再発見する機会になったと思います。社会的な評価をいただくことは自分たちがやっている取組みに対する自信や肯定感、モチベーション向上につながるのだと実感しました。

トレーニングでメッセージ返信の質を上げる

――「GOOD ACTION」アワード受賞から1年以上が経ちましたが、当時から何か変化したこと、新たに取り組んでいることなどはありますか?

白坂 新たに2つの取り組みを始めました。1つは、メッセージの質を上げるためのトレーニング。もう1つは、メッセージ返信を業績にダイレクトにつなげるための施策です。

前者は、「クレド(仕事の基準になる信条や価値観)トレーニング」というもの。略して「クレトレ」と呼び、当社で定めたキャストクレド「6つのギフト」に基づいたメッセージ返信をするためのトレーニングに、全社員で取り組んでいます。

――「6つのギフト」とは、どんなものですか?

白坂 「魅せるプロとして仕事を楽しむ」「ささやかな心遣いで、少し上の『ありがとう』を」など、キャストの皆さまにサービスを行う際に気を配ってほしいことを示した行動指針で、トップキャストと一緒に作り上げました。このキャストクレドを社員にも深く理解してもらい、それに基づいたメッセージ返信をすることで、キャストさんへのクレド浸透を図りCaSy品質の安定化にまでつなげたいと考えています。

例えば、「お部屋の汚れがひどく、時間ぎりぎりになってしまいました」という日報に対して、「大変でしたね、ご苦労様でした」と寄り添うだけでは、実はお客様のためにもキャストさんのためにもなりません。

クレドを踏まえた返信例は、こうです。 「ありがとうございます。汚れをできるだけきれいにして差し上げようと努力してくださったのですね。蓄積された汚れはどうしても1回ではきれいに落としきれないので、次回はぜひお客様にどこまでお望みなのかを確認してください。すべてのご要望にお応えするのが難しい場合は『もう1回ご利用いただければここまできれいにできますがいかがですか?』などとご提案いただければ、〇〇さんも楽になりますよ。次回試してみてくださいね」

この例のような状況の場合、あらかじめ期待値調整を行っておかないと、お客様もキャストさんも不幸です。「1回できれいにしてくれなかった」と思われるリスクを抱えながら全力で頑張るよりも、お客様に「何回かのうちの1回目」と思ってもらえれば、お客様と「今回はここまで、次回はここまできれいにしましょう」などと目線合わせができ、お客様の納得度も高まります。

キャストクレド「6つのギフト」の1つに、「未来に向けた約束とともに、充実のチェックアウトを」という項目があります。サービスを重ねるとお客様の暮らしがどんなに素敵に変化するか、まだ見ぬ未来を現場で語り合っていただくことが大切だと考えています。

「人の手で触れるべき部分」を重視し、温かなやり取りを追求したい

――なるほど。お客様とキャストが目線を合わせ、未来を語り合うことが、双方の満足度につながるということですね。では、もう1つの「メッセージ返信を業績にダイレクトにつなげるための施策」とはどんなものでしょうか?

白坂 キャスト希望の方には事前に研修を受けていただき、合格した方のみがキャストさんとして登録し仕事を請け負っていただいています。しかし、研修に合格したにもかかわらず、1回も現場に出ることなく、デビュー前に離脱してしまう方が一定程度いらっしゃいます。当社の業務は、いかに多くのキャストの皆さまにたくさん稼働いただけるかがカギ。そんな「0→1で離脱してしまう」方々の不安を和らげてまずは現場デビューしていただき、定着してもらうための施策に注力しています。

確かに初めは不安が大きいかもしれませんが、一度現場に入っていただければコツをつかみ、やりがいを感じていただけるはず。実際、1回仕事してくださった後は90%以上の方が継続して現場に入ってくださっています。せっかくCaSyでの仕事に興味を持ってくださったのですから、デビュー時の不安を少しでも和らげ、「0→1の壁」を突破してもらいたいと考えています。

――具体的には、どんな策を講じているのですか?

白坂 研修合格後、CaSyのエプロンをお渡しするセレモニーを行っています。そしてその後、アプリで仕事を探す方法を一人ひとりにご説明し、案件を一緒に検索。ご本人が「やってもいい」と思える案件が見つかったらその場で登録まで行っていただくことで、0→1のハードルを下げるようにしています。そして、1回目のお仕事が終わったら、数日間のうちにトレーナーが直接電話をして、感想を聞いたり相談を受けたりして不安を解消しています。

1回現場に入ってくだされば、その後のハードルはぐんと下がりますが、それでも初めの頃は不安や戸惑いがつきまとうもの。そこでデビューして間のないキャストさんの日報には優先的に、かつ手厚い返信を行い、フォローするようにもしています。

――キャスト全員の日報にメッセージ返信するものの、「優先的に丁寧にフォローすべき人」を見極めることでモチベーションを高め、離脱を防いでいるということですね。

白坂 当社はクラウドソーシング型での家事代行サービス。ITによるマッチング最適化によりお客様とキャストさんをつないでいます。だからこそ「人の手で触れるべき部分」は大切にしたいし、触れる以上は温かく人間味あふれたコミュニケーションを取りたいと考えています。

例えば、デビューしたての方への不安に優先的に寄り添うだけでなく、お客様から低評価をいただいてしまった直後、お客様由来でのキャンセルが相次いだ後など、ほかにも「人の手で触れるべき」シーンはあるはず。これまでに蓄積されたデータからそういう要フォローシーンを洗い出し、ケアを厚くすることがキャストさんの働くモチベーションにつながり、当社の事業成長にも直結すると考えています。

現在、力を貸してくださるキャストの皆さまの数は約7000人に増えました。一方で当社に寄せられるニーズも拡大し、お客様の数は7万人にも上っています。ITで利便性や生産性を牽引する部分、人の手で丁寧にあたたかく触れる部分をより明確化し、「触れ方」をブラッシュアップさせることで、お客様、キャストさん双方を笑顔にし続けたいですね。 ライター:伊藤理子 写真:刑部友康

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