キャリアプランを考える前に「乗り換えしやすいキャリア」と「乗り換えしにくいキャリア」の違いを知ろう
「終身雇用はもう守れないってホント?雇用のプロが語る未来予想図と企業のホンネ」というテーマで、終身雇用の未来について語ってくれた雇用ジャーナリストの海老原嗣生さん。未来のこととはいえ、じわじわと雇用環境が変わっていくとしたら、私たちはどうすればいいのでしょう。なかには、自分の将来のキャリアプランは大丈夫だろうか、と心配になる人もいるかもしれません。
この質問について、海老原さんは、こう答えます。「『終身雇用が必ずしも保障されない現代は、どこでも通用するキャリアを身につけるべきだ』いう人がいますが、僕はそうは思いません。それに、すべての企業や職種でそれができる訳ではありません。ただ、今後の働き方を考えたい人や転職を視野に入れている人には、まず、キャリアには乗り換えが効くものと効かないものがあることを知って欲しいと思います。その上で、キャリアの棚卸(たなおろし)をやってみることが、とても役に立ちます」と話します。
それにしても、乗り換えが効く・効かないって、何のことでしょう。さっそく海老原さんに、乗り換えが効くキャリアと効かないキャリアの違い、そして、それらを見極めるために有効な、キャリアの棚卸(たなおろし)の方法を教えていただきました。
終身雇用はもう守れないってホント? 雇用のプロが語る、未来予想図と企業のホンネ
プロフィール
海老原嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。 大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。近著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)のほか『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(小学館文庫)、『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)など著書多数。
仕事の能力は3タイプに分けられる。自分はどれにあてはまる?
仕事の種類は「OS」と「アプリケーション」の組み合わせで3タイプに分けられる
仕事に必要な能力は、大きくくくると、まずは「OS」と「アプリケーション」の2つに分けることができます。
OSとは、リーダーシップや分析力、決断力、論理性などいわゆる人間性。これはどの業界、どの職種でも役立てることができる力です。
一方、アプリケーションとは技能や業界の知識、人脈などの専門的なスキル。たとえば銀行マンの法人融資や与信管理の知識や経験などがこれにあたります。こちらは実際に企業の中で積み上げていくものですが、高度になればなるほど他の業界や業種では使えない、つまり“乗り換え”ができなくなるのが特徴です。
これを踏まえると、仕事は次の3つに分けられます。 アプリケーション重視型 OS重視型 (アプリケーションもOSも)バランス型
以下、1から3を順に説明します。
自分の業界や職種がどれに当てはまるのかを見極め、次に、今後は自分のどこを伸ばせば、よりよい成果が得られるのかを考えてみてください。
1. アプリケーション重視型
大手銀行、大手商社、大手メーカー、エンジニア、研究職などがこのタイプ。求められるスキルのレベルが高く、長い時間をかけてアプリケーションを積み上げて一人前になる仕事です。人材育成に時間がかかるので、終身雇用や年功序列などを守る企業が多いのも特徴。仕事の習熟度が高くなるほど役職や収入もどんどん上がりますが、半面、自社や同じ業界でしか通じない「知識の缶詰め」のようなキャリアになります。業界や職種を変えれば、それまで積み上げてきたアプリケーションは役に立たなくなるので、成果を上げるまでコツコツ頑張ることが大事です。
2. OS重視型
人材系ビジネス、外資や保険代理店、百貨店の外商などがこのタイプ。積極性や論理性、コミュニケーション力などで高いレベルの人間性を求められる半面、一人前になるために何年も何年もかかるというほどの高度なアプリケーションは求められていないことが多い仕事です。力のある人なら入社2年〜3年で頭角を現してトップを取ることも。実力主義で評価されるので、年次に関わらず若くても高い報酬を得られます。OSはどんな仕事でも役に立つので、ここで力を発揮する人はアプリケーションを載せ替えてより有利な企業や業界へ移ることも可能。若いうちから成功したい人や、高い収入を得たい人に向いています。
3. バランス型
地方の中小企業や、専門商社、一般事務、ルートセールスなどがこのタイプ。OSは社会人として常識的であれば及第で、アプリケーションも「そこそこ」で通用する仕事です。知名度がなく新卒採用が難しいため、終身雇用や年功序列を守る企業が多いのも特徴。半面、大幅収入アップを望まなければ、ヨコへの転職もしやすい業界です。大手に比べれば給与は低水準ですが、転勤や長時間労働がない場合も多く、日本企業の中ではワークライフバランスが整っています。
「他社・他業界でも通用する部分・しない部分」に分ける
転職する・しないにかかわらず、自分が他社でどのくらい通用するのか、気になる人もいると思います。そこでお勧めしたいのが、キャリアの棚卸(たなおろし)です。方法は簡単。まず自分の会社や職種が上の1~3のどのタイプにあてはまるのかを考え、次に、自分の志向性や年齢軸をかけあわせてキャリア全体を捉えてみるのです。以下、その方法と、転職した場合・しない場合のシナリオとポイントを紹介します。
年齢や志向性を軸に、自分のOSやアプリケーションを捉え直す
A. ~25歳くらいまで
まず25歳ぐらいまでの「第二新卒」と呼ばれる人の場合は、アプリもまだあまり積まれていないので、3つのタイプのどれにあてまはる人であっても、転職を考える場合、業界と職種の両方が違っていても比較的容易に転職ができます。20代後半になると、業界か職種のどちらかが同じであれば転職はしやすいと考えられます。転職を考えていなくても、今の仕事のタイプを知って伸ばすべきところを自覚して、鍛えていくといいですね。
なお、会社に入ってから数年であっても、アプリ型の職種でアプリを積んできた人で、それを継続して積み上げていきたいなら、同業他社または今の業種に隣接する業界・領域など選ぶのも一つの方法かもしれません。
B. ~30代くらいまで
30歳を過ぎると、通常はアプリの部分がほぼ積み終わっていますから、転職するなら、業界も職務も一致していないと有利な転職は難しくなります。
特に「アプリケーション重視型」の仕事をしてきた30代の人は、アプリケーションが仕上がってしまっているので、転職を考えるなら、全く他の業界に移るよりは同業他社に転職先を探した方が自分の価値を減価せずに転身できます。ただしアプリケーション重視型の会社にいるけれど、OS部分の動力やバイタリティにすごく自信があるというのであれば、「OS重視型」の企業で勝負することもできるでしょう。
C. 40代以上
40代以上の転職の場合は、OSとしてのスペシャリティ(専門性)を装備していれば、武器になりうると思います。たとえば営業課長のスペシャリティとして、モチベーションアップが非常にうまいとか、プロセスマネージメントに長けているなど。それらのスキルはOSですから、どこに行っても通用するのです。このタイプであれば、他業界への転職も視野に入るでしょう。
一方、40代以上でスペシャリティに自信がない人が転職を希望する場合は、アプリケーションで売るしかありません。ただ自社から出ると「企業内特殊熟練」(その企業でしか通用しない知見、たとえば社内人脈や社内ルールに精通していること、など)が使えませんから、多くの場合、同業他社でも収入が1割減になります。でも企業内特殊熟練は通常1、2年でキャッチアップできるので、給与が戻るのも早いでしょう。一方で周辺業界に移った場合は、知的スキルの応用部分が通用しにくいため、さらに収入が減って2割くらいは減るかもしれません。でも、もし自分の業界が衰退しそうで、周辺業界は今後の成長が見込めそうというなら、そちらに賭けた方が10年後には逆転しているかもしれません。自分の会社の将来に不安がある、という場合なら同業他社に移る方法もあるでしょう。会社・業界の将来に不安がなく、仕事内容にも違和感がないのであれば、最もストレスが少ないのは、もちろん転職しないという選択肢になります。
このように、現在の仕事の内容(1~3)と年齢とのふたつの軸で分解して考える=棚卸してみると、現時点の自分の立ち位置が明確になり、今後のキャリア構築の方向性が見えてくるはずです。自分のキャリアを見つめ直すのに、ぜひ、参考にしてみてください。 文/鈴木恵美子
撮影/鈴木慶子
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