「前例」という名の壁と戦い続け、“若手”が声をあげる場を作る――「GOOD ACTION」アワード受賞・建設コンサルタンツ協会 伊藤昌明さん
働くあなたが思いを持って動き出し、イキイキと働ける場を作っていく。そんな可能性を秘めたアクションに光をあて、応援する「GOOD ACTION」アワード(※)。リクナビNEXTが主催するこのアワードの過去の受賞者にインタビューをしていく本企画。第1回目となる今回は、2017年度の受賞者である、一般社団法人 建設コンサルタンツ協会の伊藤昌明さん(株式会社オリエンタルコンサルタンツ所属)です。 ※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION」アワードは、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。
▲一般社団法人 建設コンサルタンツ協会 伊藤昌明さん(株式会社オリエンタルコンサルタンツ所属)
会社員として働きながら、建設コンサルタント業界初の若手有志組織を設立した伊藤さんに、「GOOD ACTION」アワードに応募した経緯や受賞後の活動の変化についてお聞きしました。
きっかけは若手が声を挙げる場がないことへの違和感
――建設コンサルタンツ協会とは、どのような団体なのですか?
伊藤 橋や道路、トンネルといった土木関係の社会インフラの調査や計画、設計をしている会社が集まった協会です。主な発注者は役所関係ですね。おカタイ団体です。
――そこで若手中心の組織「業界展望を考える若手技術者の会」(以下、若手の会)を作られたわけですが、これは業界内で初めての試みだったそうですね。
伊藤 僕が手を挙げるまでなかったはずです。というのも、この協会は業界の課題解決に向け、発注者にいろいろな意見や要望を提案する団体です。だから50代から60代の経営層が集まって議論しているわけですが、僕が本社勤務になったときに会議に参加してみて、その光景にとても違和感を持ったんです。
――違和感、ですか。
伊藤 はい。建設コンサルタントの業界にはいろんな課題があります。深夜まで働くことが常態化してしまい、離職者が増える一方だとか、大規模な公共事業がどんどん減っている中で、事業の多角化をしていかないといけないとか、課題が山積しています。しかし、そういった将来のための議論をしているのは、現経営層の白髪交じりのおじさんたちばかりでした。業界の将来の話をしていかないといけないのに、それを担うはずの若手が議論に入る場がない。そこに強烈な違和感があったんです。
――その「若手」というのは、何歳くらいまでを指しているのでしょう?
伊藤 一応、僕らは45歳までとしています。40代で若手っていうぐらい年功序列的な業界なんです。
――伊藤さんが「若手の会」を設立したときは何歳だったんですか?
伊藤 設立が2015年4月で、僕は39歳でした。初めて「若手の会」を作りたいと協会に提言してから1年もかかりました。
――どうして時間がかかってしまったのでしょう?
伊藤 やっぱり「前例がない」ということが大きな理由でしたね。ほかにも「どんな意味があるのか」「業界の将来は上層部が考えることだ」「現場の仕事に集中しろ」とか、いろいろなことを言われました。それでもあきらめずに何度も嘆願書を出し続けて、ようやく始動することができました。
――そのときは伊藤さんがまったくの個人で嘆願されたんですか?
伊藤 そうです。僕自身が社外に若手のネットワークがなかった。同業他社となると競合になるわけで会社単位では簡単には声をかけられない。業界の活動というかたちをとることで、初めて堂々と行動できるわけです。だから、業界内の有志組織ということにこだわりました。きっと自分と同じような不満を持った若手は他社にもいっぱいいるだろうから、受け皿さえ作ってしまえば賛同してくれる人が現れるはずだ、という仮説だけで行動していましたね。
大きな反発を受けた「業界内のリアルな声」
――設立後の反響はいかがでしたか?
伊藤 僕の想像をはるかに超えてありました。だって、若手の会設立から2年後には、協会の各地方支部の全部に若手組織ができたんですよ。
――みんな心の中では現状に不満を持っていたのだけど、まさに「前例がない」から手を挙げられなかったんですね。そこで伊藤さんが声をあげたことで、「こういう活動をしてもいいんだ!」と広まった。
伊藤 まさにそうだと思います。
――それだけ反響のあった「若手の会」を設立したあと、どんなことに取り組んでいったのでしょうか?
伊藤 まずは「業界の30年後の将来ビジョン」を若手が作るということから始めました。出来上がったビジョンは、事業の多角化とか働き方改革とか、言っていること自体は協会の方針と大差はないんですよ。でも、たどり着いた結論が似たものであっても、自分たちで考え、自分たちの手で作ったというプロセスがあるからこそ、より業界の問題を自分ごと化できると思ったんです。
――それを発表した際の協会側の反響はいかがでしたか?
伊藤 ビジョン自体には特に異論はなかったです。ただ、その中には若手の仕事観アンケート調査の結果を載せたんですね。日々の仕事について若手1200人の声を集めたんですけど、業界の現状と自分たちの思い描く理想とに大きなギャップがあることを、ありのままストレートに表現したんです。それがリアルだからです。ですが、これはかなり反発を食らいました。
――反発ですか。
伊藤 「うちの会社の若手にはこんなことを言うやつはいない!」とか。実際にアンケートして1200人の声を集めているんですけどね。現実から目を背けてはいけないですよね。若手は、それだけ現状への不満を抱え、何とか業界を変えたいと思っているんです。ビジョンを作ることということは、そういった働く若手のリアルを見える化して業界に対して問題提起する意図もありました。
「GOOD ACTION」アワード受賞で業界の評価が一変
――そのビジョンを発表されたのはいつのことだったんですか?
伊藤 2017年ですね。いろんな意見を集めて、提言としてブラッシュアップしていく過程で、結局2年くらいかかりました。
――ちょうど「若手の会」が「GOOD ACTION 」アワードに応募された年ですね。そもそも、なぜエントリーすることに?
伊藤 きっかけは会のメンバーに、「こういう賞があるんだけど応募しないか」と勧められたことです。とはいえ、我々は具体的に改善率を示せるような活動ではないので、受賞は無理じゃないかという意見もありました。ただ、我々の活動を疑問視するような声もあったわけです。仮に業界外から受賞できたとしたら、そういう人たちに対して、活動が無駄じゃないんだと示すことができます。
――応募して良かったと思っている?
伊藤 そうですね。特に、今は問題提起から社会実装のステージに活動の軸を移し始めていて、業界外の人たちともいろんな接点をもとうとしています。ただ、その時に「建設コンサルタンツ協会です!」といっても、知名度がないので「なにそれ?」となるじゃないですか。そこで我々の活動を説明する際に、第3者からの評価があるということで、すごくお話がスムーズに進むようになりました。
――社会実装というと、具体的にどんなことをされているのでしょうか?
伊藤 社会実装というと、実際に会社を動かしていくってことになるのですが、そもそも業界の中の人たちだけで話していても、アイデアに限界があるんですね。それで先進的な働き方を実践されている他業種の企業と勉強会をさせていただいて、アイデアソンのようなかたちで、さまざまな事例を建設コンサルタント業界にどう適用していけるか議論するということをやったりしています。
私たちは議論したことをメンバーと共有しているのですが、そういうことを続けていたある日、「うちの会社でこんなアクションを提案したら、会社に採用されたよ」という書き込みがあったんです。すると、それを読んだ人たちが、「僕も」「私も」と次々に自社でアクションしていくという「アクションの連鎖現象」が起こりました。
――伊藤さんが「若手の会」を立ち上げてみたら、各地域まで一気に広まったのと同じことが起こったわけですね。
伊藤 まさにそうです。アクションのひとつひとつは小さなことですよ。でも、そうしたアクションを積み重ねていくことで、ちょっとずつ業界が変わろうとしている。この動きを「若手の会」の外にも広めるために、今は成功事例やアクションの内容を共有するプラットフォームとして、業界で働く人なら出入り自由のオンラインサロンも運営しています。
何よりも自分が楽しくなければ続かない
――2017年に「GOOD ACTION」アワードを受賞されてから後も、どんどん活動の幅を広げてらっしゃいますが、この先の展望は?
伊藤 もう4年続けてきて、活動のステージもかなり変わってきました。現時点では、社会実装にこだわって活動を進めています。でもそれって、最初からこうなると見えていたわけではないんですよ。設立したときはまさかこんなに大きな活動になるとは夢にも思ってなかったし、地方支部ができることすら想像もしてなかった。今のように熱量高いメンバーと熱量高く活動していけば、自ずとできることは増えていくので、あまり先のことは考えないようにしています。むしろ、先のことを考えすぎると何も動かなくなってしまうような気がしていますね。
――ありがとうございます。おそらく、伊藤さんと同じように業界や企業の将来に不安を抱え、声を挙げたいと思っている若手はたくさんいると思います。しかし、なかなか伊藤さんのようにアクションを起こせない。そういう人にアドバイスを送るとしたら、なんと伝えますか?
伊藤 めちゃくちゃ難しい質問ですね……。僕が言えるのは、どれだけ自分の思いが強いかってことじゃないかな。こうしたい、ああしたいと不満を言ったところで、実際に行動しないと現状は何も変わらないじゃないですか。でも一歩踏み出せば、そこには何かがある。そこに必要なのは覚悟しかないじゃないですか。結局、僕はこの活動にものすごく可処分精神、可処分時間を使っているわけで、そのくらい強い思いを持ってないと続かないですよ。
――「若手の会」で仕事をしているわけじゃないですからね。
伊藤 ええ。ただ、最初は「業界を良くしたい」と思って声を挙げたわけですけど、今の感覚はどちらかというと、「自分のため」って部分が強くなっている気がします。活動自体が面白いし、業界の外とつながりを持ったりすることが自分が成長につながっているし、さらに自分の本業にもちゃんと還ってきている。僕自身も「若手の会」で教えてもらったことを自分の会社で実践したりしているんですよ。
――それは「業界のため」という大義名分よりも、活動を自分ごと化したほうが思いは強くなるということでしょうか?
伊藤 そう思います。活動をしていくうちに、会社のため、業界のためという大義名分を全面に出すことがすごく偽善に思えてきちゃったんですね。やっぱり自分自身が楽しくないと続けられないし、自分の成長のためにならないと続けられない。その結果として、会社や業界にいかに還元できるかを考える。そこまで落とし込んで自分ごと化したほうが、熱量を保ち続けられると思います。あくまで主役は“自分”という感覚です。
――自分が楽しいかどうかという視点が重要、と?
伊藤 はい。今は会社から個へパワーシフトしている時代だとよく言われますけど、本当にそう思いますね。 ライター:小山田 裕哉 写真:平山 諭
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