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「その人はどういうわけか、不思議なほど亡き姉に似ておりますの」三次元に絶望したら二次元へ! 理想の彼女によく似た“人形の娘”の真偽~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

その下心見切った! 人妻が案じた接近防止の“一計”

かつて結婚をお膳立てされたものの、結局は親友・匂宮の妻となった中の君。薫は今更ながら彼女への想いがつのり、先日は危ないところまで迫ってしまいます。そんな自分を頭では反省するものの、実際の行動はストーカー化。それもこれも、彼女の亡き姉、大君への断ち切れぬ愛執が為せる技です。

気持ちを持て余したある夕方、薫は再び中の君のもとを訪れました。中の君は「とても気分が悪くて」と女房づてに伝え、最も遠い縁側の席で応対するように指示します。

「具合の悪い時は、よく知らない僧侶などもそばへよるものでしょう。医者のように間近へお伺いすることはできないのですか。こんなよそよそしいご挨拶はまったく残念です」。

薫が文句を言うと、見知った女房たちは同情して、彼を御簾の中へ招じ入れます。すっかりストーカー化している薫ですが、表向きは親切な後見人という仮面をかぶっているのがいやらしい所です。

下心ミエミエのやり口に、中の君はますます嫌になりますが、こうまで女房が言うのを強いて拒むのもおかしいし、と、渋々少し出てきました。薫は例によって御簾の下から侵入しようと寄ってきます。

しかし前回と同じ轍は踏みたくない中の君。ここは一計を案じ、少将という女房に声をかけ「胸が痛むの。そばで少し押さえておいてほしいわ」。

薫はふたりきりでなくなってしまったのが悔しく「胸を抑えたら余計に苦しくなるでしょう。どうしてこうもずっと苦しいのでしょうね。人に聞いたら、気分が悪いのはしばらくの間で、その後はまた良くなると聞きましたよ」。

つわりの気分の悪さなら次第によくなるらしいのに、中の君が自分を避ける言い訳にいつまでも使っていると感じた薫は、ずいぶん大人げないじゃないかと言いたい様子。ほっといてくれ。

「胸はずっとこんな風ですわ。亡き姉上もそうでした。長く生きられない人がかかる病気とか、聞いたこともございます」

確かに大君は胸を病んで亡くなった。誰しも千年は生きられない。明日はどうなるかわからない無常の世。その不安と焦りが薫を掻き立て、中の君への愛のメッセージに代わります。といってもそばに女房がいますから、中の君だけにはそれとわかるような、回りくどい言い方です。

男が女に言葉を尽くしてなにか言う、暗に口説いているのは聞いてりゃわかりそうなもんですが、胸を押さえている少将の女房は、これを特に疑問にも思わず(今時珍しい、篤実なお方)とだけ思って聞いていたので、いろいろとセーフ(?)でした。カンのいい人だったら、即刻不倫を疑ったでしょう。

三次元に絶望したら二次元へ!彼が求める”理想の彼女”

話題は決まって大君のことです。「僕は子供の頃から、出家願望が非常に強かった。そのせいなのか、実際に結婚には至れなかったけれど、心の底から愛したあの方を失ってしまう結果になりました。御仏のお怒りに触れ、目指すべき道から外れてしまったのかもしれません。

少しでも心の慰めになればと、手近なところで癒やされようともしましたが、そんなことをしてもなんの甲斐もない、ということだけを知りました。

本当に心から愛せる人など、もうこの世にはいないと思い知った今、ただこうしてあなたとお話したりするだけで構いません。

色めかしい下心があっては問題でしょうが、私の変わった性格は世間の誰もが知っています。だからどうか、安心してこれからもお付き合いください」。怪しすぎる。これでも女房の少将は気づかないのか。

中の君は、身内でもないのに親身に後見人をしてくれている感謝の思いがあればこそ、こうして直に話もするのだと説きますが、内心は帰ろうとしない彼にヤキモキ。外はすっかり暗くなり、虫の声だけが響き渡ります。

薫は「それでも恋しさには限りがありますね。こんな自分を持て余して、どこか静かなところ、宇治のあたりにお堂でも立てて、そこへ大君に似た像か、絵でも描いてもらって、静かに手を合わせたいな……と」。

三次元に絶望したら二次元へ! もういっそ絵か、フィギュアを作ってそれを拝みたいと願う薫。ギリシャ神話にも、理想の恋人を彫像にしたピグマリオンというお話がありますが、現実がダメならそっちへ関心が向くのは古今東西同じなのでしょう。なろうことなら、作った像か絵が本物になってほしい! くらいの気持ちも同じです。

「人形(ひとがた)といいますと、禊(みそぎ)の時に穢れを移して川に流すものでしょう。それを姉に似せるというのは……。それに、お金目当ての絵師などに作られるのも……」。

「そうですよね。彫刻にしろ絵にしろ、僕の思う以上のものがどうしてできるだろう」。あれやこれやと大君のことを言い募る薫を見ているうち、中の君はふっとあることを思い出しました。

「人形(ひとがた)というお言葉で思い出したのですけど」急に近くににじり寄ってきた彼女に、薫は思いがけない喜びを感じ「それは?」。しかしその手は、御簾の下からしかと彼女の手を握っています。

中の君は(これだから困るのに)とウンザリしながら(なんとかこういった言動を止めていただいて、もとの穏やかな交友関係に戻りたいわ)と、邪険にもせず話をはじめました。

驚くほど生き写し! 突然現れた“人形の娘”の真偽

「ある人がこの夏、突然私を訊ねてきたのです。その人がどういうわけか、不思議なほど亡き姉に似ておりまして。

あなたは私が姉に似ていると仰いますが、古くからの女房はまるで似ていないと申します。ところがどうでしょう、その人は本当によく似ていらしたのですよ」。

薫はびっくりして、まるで夢ではないかと思いながら「そんな人がいたなんて、どうして今まで知らせてくれなかったんですか!?」

「私も今まで、そんな人がいるというのをまったく知らなかったのです。ずいぶん遠くに長年住んでいたそうで、上京して私を訊ねてきたのですから。でもその理由というのも、私はよく存じません。亡父にとっていい話ではありませんので」。

その様子から、薫は亡き八の宮に隠し子がいたことを察しました。つまり、その人は大君・中の君姉妹の異母妹ということになります。

「わからない点はそのままでも構いません。僕は、大君に似ている人がいるなら、遠い異国にだって探しに行きたいくらいです。お口にされた以上は最後まで聞かせて下さい」。

粘る薫に、中の君は具体的なことを避けつつも「軽々しいことですが、あなたが絵でも像でも、とまで仰るので、お気の毒になって思わずお話してしまいましたの。

……その人の母親も、娘の身の振り方に悩んでいたようですわ。あなたに姉の代わりと思っていただけるのであれば、この上ないお話でしょう。でもあまり期待されると、がっかりなさるかとも思いまして……」。

この話でいよいよ長っ尻になった薫の隙を見て、中の君は奥に引っ込み、薫は(当然のことだと思いつつも)なにもないまま帰宅。聞いた時は興奮したものの、冷静になると飛びつくような話とも思えない。

その人は父宮に認知されず、身分の低い生まれとして、今まで地方に長くいたような経歴らしい。当然、帝のお婿さんになろうかという薫とは不釣り合いな相手。愛人にするのは難しくないが、さてそれもどうだろう? というのが正直な所です。

中の君が自分の恋心を逸らすためにした作り話ではないか、と思うと恨めしい一方、自分の気持ちを理解し、恥をかかないように振る舞ってくれた点は嬉しく、薫の心は乱れます。もとより思い詰めるタイプなので、むしろどうやったら中の君と結ばれることができるのか、そちらの煩悩でいっぱいでした。

「そんな者は知らぬ」俗聖から隠し子が生まれた経緯

時ばかりが過ぎ、思い出がどんどんと遠ざかっていくような気がして、薫は宇治へ発ちました。すでに晩秋、あるのは荒々しい風と川音だけで、すっかり人影も絶えています。薫は弁の尼を呼び出し、大君の思い出や山荘の建て替えの話をした後、ついでに例の話を聞き合わせました。

「人づてに聞いた話ですが、まだ八の宮さまがこの宇治に移り住む前、京のお邸においでだった頃のことです。奥様が亡くなられて間もなく、中将の君という女房と密かに情を交わされたことがあったそうです」。

中将の君は奥方(大君・中の君の母)の姪にあたるため、女房といっても格上で、亡き妻の面影を彷彿とさせるものがあったのかもしれません。ちなみにこの弁とも縁続きですが、弁は遠く九州にいたので、親しく付き合うようなことはなかったのでした。

やがて中将の君は女の子を出産。しかし、八の宮は非情な態度を見せ、もう二度と中将の君と関係を持つことはなかったといいます。妻を失った寂しさに負けてしまった自分が許せなかったのかもしれませんが、無責任で慈愛の心もへったくれもないですね。

「結果、これに懲りた八の宮さまは本格的に仏道修行に専念され、居づらくなった中将の君はお勤めを辞めてしまいました。後に、その姫君を連れて陸奥守(東北地方の長官)の後妻に入ったとか。

しばらくして便りがあり、姫君も無事に育っていると伝えてきましたが、宮さまはそれを聞いて「そんな者は知らぬ。今後やり取りなどせぬように」と仰って。中将の君はあんまりだと嘆いたとか……」。

そのうち、彼女の夫が今度は常陸介(現在の茨城県の地方次官(事実上のトップ)に就任したため、今度はそちらへ。そのまま音信不通になりましたが、この春に再び上京し、中の君を訪ねて来たというのでした。

姫君は二十歳くらいでしょうか、とても愛らしくお育ちになったのがかえって不憫だと、手紙にまで書き綴っていたとか聞いております」。

薫はがぜん興味が湧いてきました。血筋からみても、それなら大君に結構似ているかもしれない! 「なにかの折にあちらから手紙が来たら、僕のことをそれとなく伝えてほしい」。弁は、一行が京にいるかわからないが、そのうち宇治に来るようだから、その時に請け負いました。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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