手強い異存在との意思疎通と、未知の文明の調査
人気ミリタリーSFシリーズ《星系出雲の兵站》第二部の開幕篇。たんに地上の戦争を宇宙へと移植したアクションストーリーではなく、現実的な天文物理をふまえた条件と、SFならではの「異質な知性」に関わるアイデアが、この作品の大きな価値だ。そして表題に「兵站」とあるように、ハデな戦闘よりもそれを支える生産力、前線まで物資を届ける補給計画、戦時下の政治などに重点を置いて、いくつものエピソードが重ねられる。まことにシブいSFである。
この時代、地球での歴史は過去のものとなり、人類は五つの星系(出雲・八島・周防・瑞穂・壱岐)にわかれて居住をしている。人類コンソーシアムという連合組織はあるものの決して一枚岩ではなく、星系ごとに独自の産業・文化があり、星系をまたいだ貿易・外交のバランスもたえず動いている。そこへガイナスというエイリアンが攻めてくるが、この正体がまったくわからず、意思疎通もできぬままに戦争状態に突入してしまう。その顛末を描いたのが第一部『星系出雲の兵站』(全四巻)だった。
本書『星系出雲の兵站 -遠征- 1』は、大きくふたつのプロットが展開される。
ひとつは、対ガイナスの物語だ。人類コンソーシアムは、ガイナスを「蜘蛛の巣」(カーボンナノチューブのケーブルで結ばれた、いくつもの小惑星からなることからそう呼ばれる)に封じこめることに成功したが、この拠点を監視・警戒しつづけるには戦闘と変わらないコストがかかる。また、監視・警戒と並行し、ガイナスとの意思疎通の試みもつづいていた。ガイナスの正体は依然不明だが、人間のように個体ごとに知性があるのではないようだ(そもそも個体と呼びうる実体があるかもわからない)。
この任務の司令官、烏丸少将は大胆な作戦を思いつく。
「ここは巨大ロボットを投入する局面か」。
先述したように《星系出雲の兵站》はシブいSFなのだが、細かいところではこうしたネタを投入してくるのだ。もちろん、ただのネタに終わらずハードSFとしての根拠を備えているところが憎い。また、キャラクターも立っていて、たとえば烏丸少将は公家言葉で喋る(これにも背景設定がある)。このあたりの加減がじつに巧い。
さて、もうひとつのプロットは、人類未踏の敷島星系で発見された異星文明をめぐる物語だ。報告は二百年前に周防から送りだされた無人航路啓開船ノイエ・プラネットからもたらされた(人類はすでに超光速のAFD航法を実現していたが、到着地までの精確なデータが必要なため、まず通常航法の航路啓開船による探査がおこなわれる)。子細はわからない。もしかすると、敷島星系はガイナス文明の本拠地かもしれない。本格的な調査のため、AFD航法により敷島星系に機動要塞が建造される。資源の現地調達はしない。未知の相手を刺激しないためだ。ここでもまた、兵站(ロジスティック)が重要となる。
ガイナスとのコンタクトについてのプロットと、敷島星系の文明探査のプロット、このふたつがどう結びついていくのか、期待が高まるばかりだ。続巻が待ち遠しい!(第二巻は十一月刊行予定)。
(牧眞司)
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