フリーランスになるなら「会社員のうちにやっておきたい」4つのこと
企業の雇用で働くのではなく、自らの得意な技術や能力を生かして、場所や時間にこだわらずに働くフリーランス。近年、社会情勢の変化に伴って副業を認める企業も増え、多様な働き方を選択できる時代になってきました。さらに労働人口の減少を背景に、会社員からフリーランスになってから、再び会社員へと戻ったり、会社員として働きつつフリーランスの仕事をしたりと、雇用形態のボーダレス化も進んでいます。
フリーランスという働き方への関心が高まっている今、会社員からフリーランスになるために知っておくべきことを、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事であり株式会社Waris (ワリス)共同代表である田中美和さんにお話を伺いました。
田中 美和(たなか みわ)
1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現 日経BP社)入社。編集記者として雑誌「日経ウーマン」を担当。取材・調査を通じて接してきた働く女性の声はのべ3万人以上。女性が生き生き働き続けるためのサポートを行うべく2012年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て、2013年多様な生き方・働き方を実現する人材エージェント株式会社Warisを創業し共同代表に。フリーランス女性と企業とのマッチングや離職女性の再就職支援に取り組む。フリーランス/複業/女性のキャリア/ダイバーシティ等をテーマに講演・執筆も。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(→)。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事。国家資格キャリアコンサルタント。2018年に出産し1児の母。
株式会社Waris
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
多様化するフリーランスの仕事
フリーランスの定義を①雇用者のない自営業主もしくは内職であり②実店舗をもたず③農林漁業(業種)従事者ではないとした場合、本業で独立して働く「本業フリーランサー」は就業者全体の4.8%の約300万人、副業として働く「副業フリーランサー」は2.2%の約140万人、合計440万人にのぼります。
出典:2018年 リクルートワークス研究所 調査(→)※「全国就業実態パネル調査」(2018)を用いて算出
そして近年のフリーランスの仕事内容についても多様化していると田中さんは言います。
「これまでフリーランスといえばデザイナーやライター、フォトグラファーなどの『クリエイティブ系』が中心でしたが、近年ではさらに、シェフやハウスキーパー、ベビーシッターなどの『職人系』。そして企業などの広報、マーケティング、人事、経理、財務を担う『ビジネス系』に分類できます。副業的に土日や終業後の時間に始めてみる人が増えています」。
気になるフリーランスの収入については
「『フリーランスはあまり稼げなさそう』と話される方がいらっしゃいますが、フリーランス白書2019の調査によると、フルタイムか、フルタイムに近い形で働く方の年収は200万円~400万円(26.6%)がボリュームゾーン。日本の会社員の平均年収が400万円台ですから、フリーランスが極端に稼げていないということはないと言えるでしょう。また職種×年収でみると、年収が高いのは、ビジネス系とITエンジニア系、士業の方たちです。主なクライアントが個人よりも法人であるほうが収入が高くなる傾向があります」。
フリーランスが自分でやること
フリーランスになると会社員の時と違って自分の責任でやることが増えます。具体的にみてみましょう。
仕事を獲得する
獲得方法―SNSやサービスも活用
多くの人が知りたいであろうフリーランスの仕事の獲得方法について、田中さんに教えていただきました。
「フリーランス白書2019では、『人脈・知人の紹介』が80.4%で最多。次いで『過去・現在の取引先』59.4%、『自分自身の広告宣伝活動』(Web・SNS・新聞・雑誌など)30.7%(複数回答)。前職でのつながりや知り合い経由での仕事が圧倒的に多くなっています。また、フリーランスや副業に特化したマッチングサービスも登場しており、同白書ではクラウドソーシングが13.6%、エージェントサービスも12.5%と、1割強になっています。マッチングサービスは本業、副業、週末ワーカー、それぞれに特化した内容もありますので、こうしたサービスを活用するのもひとつの手です」。
値段設定―会社員時代の1.5倍~2倍の単価設定で
フリーランスになって初めてすることの一つが、自分自身が請け負う事業の単価設定。何を参考にして決めればいいのでしょうか。
「すでに同じような仕事を受注している方が周囲にいらっしゃるのであれば、その方のブログやホームページを見たり、直接聞いたりして単価を調べてみるのが一つの方法です。また、ウエブで受発注するクラウドソーシングでも、どれぐらいの単価なのか見当をつけることが可能です。別の視点では、どのぐらいの時間でいくら稼ぎたいのかで価格を決める考え方もあります。自分が月で稼ぎたい金額を稼働できる時間で割って単価を決めて働くというやり方です。労働時間をフルタイム並みの160時間にするのか、月100時間ぐらいの稼働ボリュームにするのか。それでも単価が変わります。会社員の時とほとんど同じぐらいの報酬が欲しいということであれば、自己負担の経費や各保険などを考慮し、会社員時代の1.5倍から2倍は稼ぐイメージが必要です」。
仕事を進める
スケジュール管理―「マイルール」と「バッファ(余裕)」
フリーランスは自分で仕事を決め、時間も場所も選んで取り組める一方で、複数タスクの管理から納期厳守など、自己管理と責任が求められます。スケジュール管理のコツについて田中さんは
「スケジュールに関して自分のルールを作ってそれに従って仕事をされている方は、仕事の満足度が高いことが多いようです。例えば、幼い子どもがいるから夕方4時以降に打ち合わせは入れない、睡眠はとりたいから夜10時以降はPCに触らないとか、ルールは人それぞれ。フリーランスになると公私が分けにくくなるので、マイルールはあった方がメリハリがつくんだと思います」。
納期が守れないかもしれない―。そんな緊急事態が起こらないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。
「急な対応や体調変化などにも備えて、仕事を請けるときに100%のキャパシティではなく80%ぐらいにするなどバッファ(余裕時間)を入れている人もいます。フリーランスなりたての頃は来た仕事は全て受けることもあるかもしれませんが、次第に『これ以上は受けられない』というラインを見極めていくのが良いでしょう」。
仕事に付随すること
バックオフィス作業―便利ツールの活用
フリーランスになると、経理や庶務、契約書や領収書の書類作成や確定申告など、バックオフィス業務も全て自分でやることになります。
「最近は、経理や会計サービスのfree(フリー)や、Money Forward(マネーフォワード)など便利なツールがあります。確定申告作業を請け負うサービスを検討されてもいいと思います」。
契約トラブルで多いのは、1.契約書を結ばない 2.報酬未払い 3.契約書に書かれている委託業務以外の業務を追加依頼される(追加報酬なし)―など。スムーズな契約や値段交渉について、エージェントを活用するのも一つの方法だと田中さんは言います。
スキルアップー新たな分野への挑戦
企業に属していれば、社員のスキルアップは企業の業績に直結しますので、積極的にスキルアップを行うところも多いですが、フリーランスになるとそうはいきません。
「フリーランスは自分でスキルアップの時間や予算を考えておかなければなりませんが、業務を通じて研修をする方法もあります。例えば、『経験がない領域ですが、仕事の幅を広げたいため、いつもの単価より安くても請けます』と交渉ができれば、新しい業種や職種、分野に挑戦しつつ、自己投資していくことができます。スキルアップやクオリティアップの意識が高い方、プロ意識の高い方は、講座やセミナーを受けたり、本を読んだりと常に自己投資されています」。
会社員のうちに準備しておいたほうがよいこと
1.職場はもちろん、さまざまな人脈を広げておこう
株式会社Warisが、フリーランスのメンタルヘルスについて調査したところ、会社員として勤続年数・勤務経験が長い人のほうが、人的なネットワークが豊富で「ストレスが低い」という結果になりました。フリーランスの仕事獲得ルートの多くが「人脈」ということと合わせて注目しておきたい点です。この結果について田中さんは
「会社員時代に社内の先輩や上司からビジネススキルやルールを学んだことはベースにありますが、仕事につながる人脈を築いたこと、困ったときに相談できる人がいることが孤独になりがちなフリーランスの不安を軽減しているのではと思います」。
会社員の頃に、同僚や上司だけでなく、趣味や地域のつながり、ボランティア活動など、さまざまな人とのつながりをもっておくことが、その後のフリーランスライフを豊かにしてくれることでしょう。
2.お金のことをちゃんと調べておこう
会社員と違ってフリーランスになった場合、何にどのくらいお金がかかるのかは、自分の仕事の価格設定の際にも必要になるため、知っておいたほうが良いでしょう。特に考慮したいのが「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」などの社会保険料。
「会社員の場合、健康保険料は会社が半額負担し、教育や研修、福利厚生費も会社が出してくれました。ところが、フリーランスになると、健康保険、国民年金などの社会保険料は自己負担になります。国民健康保険への切り替えが必要になる場合も。このほか、仕事に必要な機材やスキルアップの費用も自己負担になります。
また、独立してすぐに利益が出るとも限らないことと、事故や病気、出産などで休業せざるを得ない時期が発生するリスクを含めると、ある程度貯蓄してから会社を辞めた方がいいと思います。具体的には半年からできれば1年ぐらいは、何も収入がなくても大丈夫なぐらいの額を目安に貯蓄があれば安心です。またフリーランスになると住宅ローンが組みにくい場合があります」。
ちなみにフリーランス協会では、会員向けに「ベネフィットプラン」を提供しており、賠償責任補償(任意で所得補償)や人間ドックやスキルアップの割引があるそうです。
3.専門分野のスキルだけでなく企画からオペレーションまで経験しておこう
フリーランスは請負業務に対して報酬が発生するのが特徴。その際に専門性が必須となるのは間違いありません。そのほかにも会社員で学んでおくべきスキルはあるのでしょうか。
「できれば1パートの専門性に加えて、業務の企画・設計段階から、実際のオペレーションまでを通しで体験されているといいと思います。例えば人事の場合、採用計画作成から採用、広告出稿、人材会社とのリレーション構築まで、一連の流れ全体を含めて経験していると、一括で発注されやすくなり単価も高くなります。PRの場合も、リリースを書くだけでなく、責任者として広報戦略も経験されていると単価が上がりますね」。
4.売り込みができるよう準備しておこう
仕事獲得の第三位の広告宣伝活動。SNSなどでのセルフブランディングも、会社に在籍している時からできることの一つです。
「SNS(ツイッター、Facebook、noteなど)から仕事を得ているフリーランスが一定数いますので、やらない手はないと思います。仕事獲得ルートが多いことは重要ですし、複数のクライアントを持っているということは、万が一、あるクライアントからの発注が終了しても、継続した安定的な収入、精神的な安心感など、総合的なリスクヘッジにもなります」。
フリーランスを楽しめる素質とは?
最後に、フリーランスに向く人と向かない人はいるのか、田中さんにお伺いしました。
「以前、フリーランスの方々と話をしていたんですが、『フリーランスに向く人は、自分で自分を認めてあげられる人。誰かに褒めてもらいたいという人は向かない』という意見で一致しました。会社だと上司や先輩から褒められ、フィードバックもありますが、フリーランスはそれがありません。『私、頑張っている』と自分で自分を認められる人の方がフリーランスに向いているのでは。どちらが良い、悪い、ではなく、そういう傾向があるように思います」。
まとめ
数年前、Warisは慶応義塾大学大学院の前野隆司教授と共同で、「フリーランスの幸福度調査」「収入と稼働時間と幸福度の相関調査」を行った結果、報酬額と稼働時間の長さは幸福度と相関せず、報酬や稼働時間よりも「自分が本当になりたかった自分になれているか」という点が大きい結果になりました。その結果をふまえて、田中さんはこういいいます。
「『家族とゆっくり食事がとれる生活を送りたい』『〇〇の分野で社会に貢献したい』など、自分のライフスタイルや自己実現について、どうありたいのかをじっくり思い描いてみると良いでしょう。そのうえで、フリーランスとして独立するのが良いのか、会社員で働きつつ副業をするのが良いのか、会社員のままがいいのか、働き方を選択してみると良いと思います」。
インタビュー・文:野原 晄 撮影:平山 諭
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