「“お前何人か殺してるだろ”ってよく言われる」―平山夢明さんインタビュー(1)

「“お前何人か殺してるだろ”ってよく言われる」―平山夢明さんインタビュー(1)

日本の冒険小説、ハードボイルド小説を語るうえで欠かせないのが故・大藪春彦氏です。『野獣死すべし』(講談社/刊)、『諜報局破壊班員』(徳間書店/刊)など、数々の名作を残した同氏の名は大藪春彦賞という文学賞として現在に残っています。

 その大藪春彦賞を今年受賞したのが平山夢明さん。

 今回はその平山さんに、受賞作『ダイナー』(日本冒険小説協会大賞とダブル受賞)について、また物語の作り方や小説を書き始めたきっかけなど、多岐にわたってお話を聞いてきました。

 注目のインタビュー、第1回です。

■「“お前何人か殺してるだろ”ってよく言われる」

―大藪春彦賞の受賞おめでとうございます。まずは受賞の感想をお聞かせいただけますか。

平山「純粋にありがたいですね。俺みたいな物書きって誰かが箔をつけてくれないと、面白いと思っていても面白いと言い出せない人が多いらしくて。この作品、どうかと思うけど面白い、みたいな人が多いからさ(笑) そういう人たちのことを考えると大藪先生の冠がついた賞をいただくことでどんだけ箔のついたことか。

それに大藪賞は樋口明雄さんや福澤のテツ(福澤徹三氏)、柴田哲孝さんとか、俺の知り合いとか仲間が獲ってるんだよね。仲間がドンドン獲っていくとなんだか気持がザワザワしてくるじゃない。そういう意味でもうれしかったね」

―受賞の知らせを受けた時は何をされていましたか?

平山「家で『男はつらいよ』を観ていたんだよ。そうしたら知らない番号から何回も着信があってさ。これはきっと良くないことだろうと(笑) 以前原稿が押してた時に、編集者が自分の携帯でかけると俺が出ないもんだから、仲間の編集の携帯を借りて催促の電話をかけてくるっていうトンチがあったもんだからそのままにしておいたんだよ。でも10回くらいかかってきたからさすがに心配になるじゃん。それで出たら『なんで出ないんですか!』と叱られてから『おめでとうございます』と。華のない話だけど(笑)」

―受賞作『ダイナー』について、着想のきっかけがありましたら教えていただけますか。

平山「最初に編集の斉藤さんと何かやろうという時は、『ダイナー』とは逆のアイデアばかり出していたんだよね。少年時代のわんぱく記みたいなものとか。ちょっと書いたりもしたんだけど、どうもしっくりこなかった。締切も近づいてくるしどうしようかなと思っていたら、不意に思いついたんだよね。

ただ、その前から今回書くものに関しては長編なので気をつけて書きたいというのがあったのよ。短編っていくら読後感が悪くても少しのことじゃん。読む時間にしても1時間くらいだし。でも長編だと読み終えるのに一週間かかることもある。そんなに時間をかけて読んでもらって読後感が悪かったりしたら、それはもう人によっては大迷惑なのかなという気がして、それは避けたいと思ったんだよね。

そこで、自分が書きたいことで、なおかつ人にも受け入れられる形って何だろうと考えてさ。たとえば温泉・食べ物・動物・子供とかさ(笑) そういうのがあるじゃない。そういうものを一緒くたにして頭の中で煮ていたら不意にこのアイデアが出てきたんだ」

―人が死ぬシーンや拷問のシーンなどが実にリアルで際立った印象を受けました。ああいったシーンは想像だけで書けるものなのでしょうか。

平山「想像だけじゃないよって言ったら捕まっちゃうよ(笑) でもよく言われますよ、“お前何人か殺してるだろ”とか。

ただ、そういうシーンを書いたことには理由があって、この小説の主人公はオオバカナコっていうんだけど、彼女を物語の最初の段階で一度絶望させないといけなかった。でも、絶望させるにはいろんな手段があるわけだよ。よくあるのは拷問や脅迫。これはある意味すごくスタンダードな手段。

問題はそれをシンボライズした形で書くのか、オリジナルで書くのかということで、俺の場合はオリジナルじゃないとつまらないのよ。どこかで見たことあるな、とか読んだことあるな、という描写が好きじゃないの。拷問にしても“こんなやり方があるんだ”と驚いてもらえるようにちょっとひねりたい」

―たしかに、本書で書かれている拷問のやり方は知らないものばかりでした。知っているのは「爪をはがす」くらいで…

平山「たとえば暴力集団の人たちっていうのは、ラーメン屋さんが常にラーメンのことを考えているように、「どうすれば人がおびえるか」とか「どうすれば相手が戦闘意欲を失うか」ということを24時間考えているわけ。その中には、俺たちが見聞きしないような情報も当然含まれているわけで、そういったことを丹念に想像するのが好きなのかもしれない。その部分に凝るのは俺の作家としてのタチかもしれない」

―先ほどおっしゃっていた、主人公を絶望させるという点ですが、この作品では徹底的にやっていますね。

平山「それくらいやらないと、小説って高い買い物だからさ。この本だってハードカバーで1,500円くらいするでしょう。やっぱり物語のなかで必要なことを描いているわけだから徹底的にやるよ。そうでないと読む人の時間が無駄にもなっちゃうからさ。そういうところは小説の読み味にもなるんじゃないかと思うな。

昔は悪い本が巷に溢れていて、ろくでもない本が多かったんだよ。読んだ人間を獰猛な気持ちにさせるような悪い本がたくさんあった。そういうのを書きたいね」

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