「暗号通貨」はなぜ「仮想通貨」と呼ばれていたのか。(ファブリカコミュニケーションズ)

「暗号通貨」はなぜ「仮想通貨」と呼ばれていたのか。

今回は『ファブリカコミュニケーションズ』テックブログより大西秀典さんの記事からご寄稿いただきました。

「暗号通貨」はなぜ「仮想通貨」と呼ばれていたのか。(ファブリカコミュニケーションズ)

今まで「仮想通貨」と呼ばれていたものは、これから公的には「暗号資産」と呼ばれる様になります。

仮想通貨を「暗号資産」に改称する資金決済法などの改正法が31日午前、参院本会議で可決、成立した。

「仮想通貨、「暗号資産」に=改正資金決済法成立」
2019年05月31日『時事ドットコム』
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019053100158&g=pol

記事では「G20財務相・中央銀行総裁会議で、暗号資産の表現が使われるようになっていることを踏まえた」とありますが「仮想通貨」というキーワードが醸しているネガティブなニュアンスを正したいということにも幾らかの配慮があったのかもしれません。

私たちも日頃の会話では「仮想通貨」というキーワードを使ってきました。しかし実際この呼び方には違和感があります。「仮想(virtual)」というキーワードがどこから出てきたのか?ということです。
元々英語圏でCryptocurrency(暗号通貨)と呼ばれていたものであり、どこにも「仮想」というニュアンスがなく、またSUICAの様な電子マネーやPaypalの様な決済手段と比べて、Virtualな何かがあるわけでもありません。

この「仮想」という言葉で、人々がCryptocurrencyから受ける「胡散臭い」という印象がいくらか誇張されていたのではと思います。つまり、実際(actual)のお金があって、それと異なる仮想(virtual)の通貨だというと「本物の様に振る舞う虚構のもの」といったニュアンスが、いくらか付け足されていたのではないかと。

仮想通貨バブル

いわゆる仮想通貨バブルは2017年でしたが、同時期に日本で流行した本がありました。イスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリによる「サピエンス全史」です。この本で作者は「貨幣・国家・宗教」といった「虚構」を共有して信じることによって今の様な人の発達があると言う自身の論を展開しています。

確かに、本来「貨幣」というのはコンセプチュアル・アートみたいなもので、コインや紙幣という実体あるものは、コンセプトを推進するための小道具にすぎません。私たちが「お金」と聞いて想起される百円玉や一万円札といったフィジカルなお金は、貨幣の本体ではないのです。

これは結構面白い話で「現金通貨」が象徴的な意味しか持たない古いお金があります。ヤップ島(現在はミクロネシアに所属する島)の「フェイ(またはライ)」と呼ばれるものです。古いと言っても1930年ごろまではまだ作られていたということですので、100年前には使われていたものなんですね。
このお金は巨大な石でできていて、大きくて重いので持ち運べず、取引の際はそのお金を移動させるのではなく、その石の価値をベースに「掛け」で取引を行うということです。つまり価値のある石を家に置いておけばその価値の範囲内でモノが買えるという訳です。

本当の話かはわかりませんが、ヤップ島で一番の資産家の巨大なフェイは、それを船で運搬している最中に誤って海に沈めてしまったのですが、そもそも象徴としての役割しかありませんから、沈んでしまって、見ることも触ることもできないのにその価値を持ち続けたということでした。

フェイ

日本でも実物のフェイを見る&触れることができます。上記は日比谷公園のフェイです。大正13年に日本に寄贈されたもので当時の価格にして1000円の価値があったということです。

このフェイの扱われ方について考えていると、通貨とは価値を保持し、流通させる「系」が本体で、物体のお金はお飾りに過ぎないことがより実感できます。そして、この価値を保持したり、流通させるシステムの方をより純粋にブラッシュアップしていけば、それは最終的に暗号通貨になってしまうのではないでしょうか。その様な意味で暗号通貨を「仮想」通貨と呼ぶのは二重に違和感が出てくるのです。

さて話を戻していきますと、なぜそのようなピュアで実際的であるものが「仮想通貨」と呼ばれていたのかということを考えていたのでした。ある言葉が過去にどの様に使われていたか、社会にどの様に浸透していったのか?を遡ってみるのに良いサービスがあります。こちらのタイムマップという検索サービスです。

TIMEMAPは、デジタル地図で自由に拡大・縮小して空間情報を眺められるように、文書情報に対しても同じことができないかと考えて開発しました。3つの異なる検索結果を時系列で整理して1つの比較年表を作成し、検索結果の時間的な分布を相互に比較しながら、それを地図のように自在にズームイン・ズームアウトできるインターフェイスです。

『TIMEMAP』
https://timemap.info/

こちらで「仮想通貨」を調べてみて、なるほどということがわかりました。

タイムマップ

こちらタイムマップによる「仮想通貨」の記事分布です。ここからもわかる様に、このキーワードはBitcoinが生まれる(2009年)よりずっと早くからゲームやVRコミュニティの文脈で使われているのです。「Second Life」懐かしいですね。ゲーム内の通貨「L$(リンデンドル)」がリアルマネートレードされて一時ブームになっていました。
他にもガンホーやNHNなどゲーム会社の名前が並んでいます。もともとはつまりデジタルプライズと交換可能な閉じられた世界・コミュニティでの通貨のことをさして仮想通貨と呼ばれていたのではないでしょうか。

英語のWIKIでVirtual currencyを調べてみると…

WIKI

Virtual currency, or virtual money, is a type of unregulated, digital money, which is issued and usually controlled by its developers and used and accepted among the members of a specific virtual community.

「Virtual currency」『WIKIPEDIA』
https://en.wikipedia.org/wiki/Virtual_currency

「仮想通貨または仮想マネーは、規制されていない電子マネーの一種であり、通常は開発者によって発行されて管理され、特定の仮想コミュニティのメンバーの間で使われて、受け入れられます。」とあります。

これはL$やゲームコミュニティ、つまりオンラインの「仮想コミュニティ」で流通する通貨という意味合いでの「仮想通貨」のコンセプトにぴったりと合っています。(また「通常は開発者によって発行されて管理される」とある様に暗号通貨との違いも含められています。)
そして、この呼び名は外部からその仮想コミュニティを箱庭的に眺める視点で意味を為すものです。というのもそのコミュニティを推進している人たちは「これ仮想だよね」と考える意味が無いですから。

ここからは仮説ですが、Bitcoinの黎明期、それは側からは全く得体が知れないものでした。その中でBitcoinコミュニティのリーダーたちはその先進性やインパクトについて熱く語っていました。しかし、まだ価値のよく分からない閉じたオンラインコミュニティの通貨ということで、外側から見た時、これは「L$」などと同じ様に見えるはずです。そのため「仮想通貨」カテゴリに含まれてしまったということではないでしょうか。

その後、2016年に成立した改正資金決済法で「仮想通貨」というキーワードが法的に定義され、暗号通貨を表すものとして一般に使われる様になっていました。今回の改正で「暗号通貨」はより適用範囲の広い「暗号資産」というより広い概念に含まれる様になりました。小さな動きですが、この様な細かい名称や定義に関する議論があるというのは、Blockchainの正しい理解や社会浸透が進んできていることの証でもあり、個人的には良い流れだと感じています。

 
執筆: この記事は『ファブリカコミュニケーションズ』テックブログより大西秀典さんの記事からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年6月27日時点のものです。

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