オリーブオイルの化学

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有機化学美術館・分館

今回は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。

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オリーブオイルの化学

さて近ごろ、朝の某番組のおかげでオリーブオイルが(ある意味で)人気を集めているようです。

オリーブオイルは健康によいとよく言われます。これは、その分子構造に理由があります。オリーブオイルを含めた油脂類は、長くにょろにょろと伸びた脂肪酸が3つ、グリセリンに結合した構造です。

オリーブオイルの化学

油脂の構造の一例
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脂肪酸は、炭素鎖の長さ、含まれる二重結合の位置と数など多くのバリエーションがあります。上の図でいえば、上のピンク色は炭素16個で二重結合なしのパルミチン酸、真ん中の黄色は18炭素で二重結合2つのリノール酸、下の紫色は18炭素で二重結合3つのリノレン酸です。

さてオリーブオイルの成分はどうかというと、約8割が18炭素に二重結合一つのオレイン酸です。オレイン酸(Oleic acid)の名前自体、オリーブの学名(Olea europaea)から取られているようです。

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オレイン酸
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脂質の摂りすぎが体によくないというのは、よくいわれるとおりです。中でも飽和脂肪酸(二重結合をひとつも含まない脂肪酸)は、コレステロール値を上昇させ、心疾患につながると言われます。各国で飽和脂肪酸は抑え不飽和脂肪酸を含む食品に切り替えるよう勧告がだされていますし、デンマークでは税金までかけて摂取を抑制する努力がなされています。

では二重結合がたくさんある脂肪酸はよいかといわれると、そう簡単でもありません。これらの場合、脂肪酸が空気中の酸素によって酸化してできる「過酸化脂質」ができやすいという問題があります。この酸化反応はラジカル的に進むので二重結合の隣(アリル位)に起きやすく、特にリノール酸などでは2つの二重結合にはさまれた位置の炭素は、大変酸化されやすい環境になっています。

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過酸化されたリノレン酸。黄色で示した炭素は酸化反応を受けやすい。
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過酸化脂質はDNAを損傷してガンの原因になるほか、動脈硬化などにもかかわるといわれます。オリーブオイルのオレイン酸は二重結合がひとつだけですから、比較的酸化を受けにくく、体によくない過酸化脂質を生じにくいという利点があるのです。

もうひとつ、オリーブオイルは炎症に効果があることが知られています。筆者も手に皮膚炎ができたとき、医者の勧めでオリーブオイルを塗っていたことがあります。この抗炎症作用の理由は、2005年に解明されました。オリーブオイルに含まれるオレオカンタールという化合物が、イブプロフェンなどと似た作用を持っていることが明らかにされたのです(論文こちら * )。

* :「Phytochemistry: Ibuprofen-like activity in extra-virgin olive oil」 『nature』
http://www.nature.com/nature/journal/v437/n7055/full/437045a.html

オリーブオイルの化学

オレオカンタール
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イブプロフェンやアスピリンなどの抗炎症薬は、少量ずつ摂っていると心臓病などの予防になるとして様々な研究が進められています。このため、オリーブオイルもまたこうした作用が期待できるのではないかということで、盛んに宣伝などにも使われているようです。

ただし、オレオカンタールの構造はアルデヒドを2つとエステル結合1つを含み、体内での安定性はよくなさそうです。経口摂取でそんなに効果がありそうかといえば、少々疑問です。

オリーブオイルも結局は油ですから、摂りすぎれば体によくないのは当然です。何かしら健康作用がありそうだからといって、やたらに追いオリーブなどしてドバドバ使っては逆効果ということにもなりかねないでしょう。風味がよいから、また気分的によいから使うのはよいでしょうが、やはりどんな食材であれ適当な量を適切に使う、というのが結局は大事、ということですね。

ということで、今日はこれで決まりっ!
失礼いたしました。

参考:「脳学 アッ! いま、科学の進む音がした」 石浦章一著 講談社

執筆: この記事は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。

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