宇宙、トランプ、国際法(前編)(梟録)

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宇宙、トランプ、国際法(前編)

今回は松田芳和さんのブログ『梟録』からご寄稿いただきました。

宇宙、トランプ、国際法(前編)(梟録)

トランプ大統領

@CNBC

 2018年6月18日、米国のトランプ大統領は、宇宙政策指令第3号(Space Policy Directive 3: SPD-3)*1 という大統領令に署名した。

*1:Space Policy Directive-3, National Space Traffic Management Policy, PRESIDENTIAL MEMORANDA(6 18 2018), https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/space-policy-directive-3-national-space-traffic-management-policy/

 各国の宇宙活動が活発になるにつれて、宇宙空間に存在する物体はますます増加する傾向にある。そのため、宇宙活動の際に発生するゴミ、いわゆる「スペースデブリ」(デブリ)の数が増加し、これが宇宙活動の障害となっている。また、宇宙開発のトップを走り続けてきた米国に続き、徐々にその地位を上昇させてきた新興国(特にロシアや中国)による、米国の安全保障や宇宙資産への脅威も日に日に増してきている。さらに、宇宙開発競争の活動主体(新興国や民間企業等)が、今後急速に増加することが予想される。米国にとっては、自国が宇宙開発分野でリードし続けるためには、さらに商業宇宙活動を推進し、その活動の安全確保の体制を強化しなければならなくなってきているのである。

 このような状況に対応するため、今回の大統領令は、省庁間の管轄領域を整理し、宇宙交通管理(STM)に関する体制を改善し、デブリ低減(デブリの発生防止)に関する既存の国内規制の改革を行うことを主な目的としている。また、これに伴って、米国の安全保障のために、宇宙軍の創設が指示されている。米国の宇宙活動の活性化と安全保障のために、米国の国内規制に関する基準が国際的な基準として普及し、再び米国が宇宙分野でリードする国になることを目指すとしている。本稿の考察でもふれるが、トランプ政権は基本的に国際的な連携や多国間主義に消極的あるいは拒否的であるが、宇宙政策に関しては商業宇宙活動を推進するために国際的な連携が必要であるとの認識を持っているようである。

 さて、本稿の目的は、このような問題状況への対応策として、SPD-3はどのような方針を打ち立てているのか、また、トランプ政権はどのような宇宙活動の未来を想定しているのかを検討することである。

 本稿は、まず第1に、SPD-3のなかで明らかにされている、宇宙利用における現在の問題点と、その対応策の概要について述べる。第2に、SPD-3で重要な課題となる点をいくつか挙げ、それらについて検討を行い、適宜若干の考察を述べる。本稿による評価は、あくまでも現在の状況に対するものであり、その根拠もニュース記事という限られた情報源に依っているので暫定的である。今後、米国の宇宙政策やそれについての研究が進めば、再度検討を要することになるだろう。

 なお、宇宙軍の創設といった安全保障や軍事的な側面の問題や、メガコンステレーション(メガコン)への対応(メガコンについては本稿で若干触れている)については、改めて別稿で詳しく検討する予定である。

Ⅰ.現状の問題点

 米国にとっては、国家の安全保障、経済的繁栄、科学的知識の向上のために、宇宙空間への自由なアクセスと活動が継続されることが重要である。宇宙空間は、国家の生存には欠かせない領域であり、宇宙空間が混雑しつつある状況は、宇宙活動の安全を確保する必要性が高まってきているということになる。

 宇宙空間の利用がこのような状況になってきたことに伴って、米国は次のような問題を抱えている。

 まず第1の問題は、国防総省によるデブリ管理の限界である。国防総省は、宇宙空間に存在する物体のカタログを公開し、物体同士の潜在的な接触(conjunction)を対象者に通知することができる。しかし、宇宙空間に存在する物体が増加し、衝突確率が高くなると、このようなスポット対応では限界が生じてきている。デブリ低減措置および衝突回避の意思決定を支援するために、宇宙状況認識(SSA)の改善を図らなければならない。

 第2の問題は、デブリ低減に関する国内規制の適切性である。SPD-3には、宇宙活動の急速な国際的拡大と任務の多様化で、デブリ低減に関する国内規制は、デブリ増加の抑制には不十分であるとの認識が示されている。より効果的な規制の遵守を可能にし、国際的に採用されうる基準を確立するために、現行基準の改善が求められている。

 一方、デブリの低減措置に関する規制プロセスを合理化し、商業宇宙活動にとっては不要な規制負担を軽減する必要もある。そうしなければ、商業部門の成長と技術革新、国際市場での米国商品の流通に関して、米国のリードが阻害されることが懸念されている。デブリ低減措置の規制改革は、米国の国家利益のため、米国の商業宇宙活動が他国との競争で追い抜かされるのを防ぐためにも必要とされる。

 第3に、微小デブリへの対処である。デブリとの衝突回避が可能になるためには、主に10cm以下の微小なデブリの状況をも把握できるようにしておくことが必要となる。しかし、現在のSSAシステムではこれを十分には把握することができていない。

 第4に、メガコンへの対応である。米国のSpaceX社は、米国の連邦通信委員会(FCC)が今年3月に承認した4,425台以上のコンステレーションになる衛星のうち、最初の衛星をテストしている*2 。民間企業が、既に多数の可動部品を備えた数百または数千の衛星を含むメガコンを構築し始めようとしている*3 。今後8年間で、推定3,000台の衛星が打ち上げられる予定である*4 。これまで以上に宇宙空間が混雑する状況が迫りつつあり、従来のデブリ管理や許認可制度とは異なる新たなアプローチが必要とされる。

*2:FCC authorizes Elon Musk’s SpaceX to provide broadband satellite services, CNBC(3 29 2018),
https://www.cnbc.com/2018/03/29/fcc-authorizes-elon-musks-spacex-to-provide-broadband-satellite-services.html

*3:The White House is calling for Space Traffic Control, Popular Science(6 18 2018),
https://www.popsci.com/national-space-council-directive-space-debris

*4:Global Trends in Space Situational Awareness (SSA) and Space Traffic Management (STM) , IDA SCIENCE & TECHNOLOGY POLICY INSTITUTE(4 2018)
awareness-ssa-and-space-traffic-management-stm/d-9074.ashx

(中編につづく)
http://wanntuer54.hatenablog.com/entry/2019/02/11/161419

 
執筆: この記事は松田芳和さんのブログ『梟録』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年6月25日時点のものです。

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