「社内に面白い人がいるはずなのに、出会えない…」NEC社員が立ち上がり企業カルチャーの変革に挑む――「越境」で新たな価値を生み出すNECの今 (前編)

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「社内に面白い人がいるはずなのに、出会えない…」NEC社員が立ち上がり企業カルチャーの変革に挑む――「越境」で新たな価値を生み出すNECの今 (前編)

変化のスピードが激しい昨今、多くの企業が「組織変革」に取り組んでいる。

今回フォーカスするのは日本電気株式会社(NEC)。現場の社員が主導する「ボトムアップ」型の活動と、2018年度より新設されたカルチャー変革本部の稼働という「トップダウン」型の活動、両面から組織に新しい風を吹き込んでいる。その取り組みを、前編・後編に分けて紹介。前編となる今回は、有志社員による活動『CONNECT』について、その内容や成果、メンバーたちの想いを聴いた。

▲有志による活動『CONNECT』のメンバー。左から池田朝泰さん、松葉明日華さん、諸藤洋明さん、楢﨑洋子さん

「新しい人との出会いで刺激を受けたい、視野を広げたい」が始まりだった

「最近、閉塞感を持っている」

「もっといろいろな人と出会う機会をつくりたいな」

今から約3年前。新卒入社から約10年を経たメンバー――諸藤洋明さん(SE)、青木祟行さん(営業職)らのそんな会話から、『CONNECT』の活動はスタートした。今回、インタビューに答えてくれたのは発起人の一人、諸藤さんだ。

▲諸藤洋明さん

諸藤「社会人になって10年、ふと気付くと毎日同じようなことの繰り返し。自分の部署の人としか付き合いがない。でも、社内には面白い人がたくさんいるはずで、その人たちと出会ったり、新たな技術の話を聴いたりすることで視野を広げれば、自分のモチベーションが上がるだろうと考えたんです。そして、同じような気持ちの人は他にもいるはずだ、と」

行動に移したのは2017年1月。身近な社員に声をかけ、『CONNECT×PASSION』と銘打ったイベントを開催した。集まったのは発起人と同世代、および当時3年目くらいの社員たち、約24人。発起人3人から、自分がどんなテーマに対して情熱を注いでいるかを話すというシンプルな内容だ。

参加者からは「刺激を受けたかった」「元気な人に会いたかった」という声が聞かれた。

それ以降、この取り組みに賛同する仲間が集まってきた。松葉明日華さん(事業開発職・7年目)、池田朝泰さん(営業職・5年目)、楢﨑洋子さん(デザイナー・3年目)は、参加の動機をこう語る。

松葉「私は研究職として、もともと社内でイノベーション起こすことに興味を持っていました。社内を活性化する有志団体を立ち上げると聞いて参加したんです」

池田「当時は入社3年目で、自分が会社の中でできること・できないことがわかってきた、いわばちょっとスレてきた時期でした。そんなとき、この活動を知り、『面白いことができる』と直感しました」

楢﨑「私は、最初のイベントが開かれた3ヵ月後・4月に新卒で入社しました。新入社員と先輩社員が対話する機会を設けてくれたのが『CONNECT』。社内のつながりを大切にするというコンセプトに共感し、運営に参加しました」

「やりたいことを加速する」をコンセプトに、多様なテーマのイベントを開催

主な活動は『CONNECT×○○』と称するイベント。

これまで、「×PASSION」「×SDGs(社会課題)」「×TECH」「×GLOBAL」「×新入社員」「×グラレコ」などさまざまなテーマで、30回以上開催されてきた。

諸藤「テーマは異なりますが、軸は『やりたいことを加速する』。運営メンバーがテーマを設定するほか、社員から『こんなことをやりたい』という声が上がれば、実現をサポートします」

松葉「私が企画した×TECHでは、各事業部の技術者や研究者に集まってもらい、『技術と技術をつなげてイノベーションを起こす』というテーマで議論を行いました。普段、自分の技術の話を他部署の人にする機会はないのですが、場を設けてみると『話したい』願望を持っている人は多いと実感しました。また、『自分の技術はどうすればもっと役に立てるだろう。一緒に考えてほしい』という相談も持ち上がりました」

こうしたイベント活動は、当初は「水面下でこっそりやっていた」という。同期など近しい人にクチコミで広げ、休日に新橋の公民館を借りて開催していた。

しかし、イベントを3~4回ほど行った頃、経営企画や新規事業などに携わる部長クラスの人たちが「いい活動だね」と支援してくれるようになった。

諸藤「これまで、部署ごとに小さな有志団体はあったものの、社内を横断するような活動はなかった。『前例がない』ということで会社がどんな反応をするか予想がつかず、最初はびくびくしながらやっていたところがありました。実際、他社では『勝手なことをするな』と活動を潰された例も聞いていましたから。しかし、当時は『共創』ブームが起き、横のつながりを強化する動きが出てきていたのが追い風となりました。遠慮する必要がなくなり、会社を積極的に巻き込めるようになったんです」

活動開始した年の7月には、会社から「バリュー実践賞」(NECグループの文化を育み高めることに貢献した社員やチームを表彰)の表彰を受けた。公に認められたことで、社内のスペースを利用できるようになり、全社員に活動を告知できるようになった。

イベントへの参加人数は、発足してから1年でのべ339名、現在までではのべ1045名に達した。

▲松葉明日華さん

松葉「バリュー実践賞を受賞できたときに、『会社は変えられる』と思いました。NECにはCONNECTの活動に参加して学びを得たい/刺激を受けたいと思っている人がたくさんいる。そして、会社もそれを“会社のバリューを体現している”とポジティブにとらえている。私は、CONNECTがより多くの社員の“やりたい”を見つけて加速することで、NECがどんどん元気になっていくと信じています。」

オンラインコミュニティに、さまざまな立場からの知見・アイデアが結集

イベント開催以外では、オンラインコミュニティも運営しており、現在686人が参加している。

投稿される内容は大きく分けて3つ。「ジョイナス系(活動への参加メンバー募集)」「ヘルプミー系(課題解決法の相談)」「シェア系(情報・ノウハウ共有)」だ。

諸藤「中でも『ヘルプミー系』のやりとりが一番価値を生んでいると感じます。私くらいの世代だと、課題を持ったとき、自分で勉強してスキルを身に付けた上で実行に移すという習慣が身に付いていますが、今の時代はスピードが重要。他にできる人の力を活用するほうが速い。NECには10万人の社員がいるから、10万種類の『CAN(できる)』と『WILL(やりたい)』がある。それをつなげるだけで、簡単に新しいものを生み出せると思うし、それができるのがこのコミュニティだと思っています」

池田「僕自身、ちょっとした相談をオンラインコミュニティに投げかけています。『このルールはどうなってる?』『この情報を得るには、どこに聞いたらいい?』など。最初は運営メンバーの投稿が中心だったけれど、最近はいろいろな人が積極的に投稿したり回答したりして、コミュニティが活性化してきました」

楢﨑「オンラインコミュニティ上で何か提案が上がったとき、『いいね』と賛同する人もいれば、『こういう点が難しい』と課題を教えてくれる人もいる。『だったら、こういうアプローチがいいのでは』『この部署(人)に相談するといい。つなぎましょうか』という提案も出て来る。知見を結集して実現へ導けるのがいいですね」

諸藤「制度を変えていく後押しにもなるだろうと思います。『これ、おかしいんじゃないか。そう思うのは自分だけかな』と一人で悩んでいた人が、この場で疑問を投げかけることで『自分もそう思う』という反応を得られ、賛同者の存在に気付ける。一個人の思いが可視化され、増幅されることで、制度や仕組みの改善につながっていくと思います」

運営チームのマネジメント方針は、「管理しない」

現在、CONNECTの運営メンバーは約10名。有志組織を運営するにあたっては、業務での組織運営とは異なる難しさがあると、諸藤さんは言う。

諸藤「メンバーのモチベーションキープが課題の一つです。組織として影響力を発揮するためには、成果を出さなければならない。そのために、代表の立場である自分としては、役割を与えて指示をしたい場面もあります。けれど、それをすると『仕事』のようになってしまい、モチベーションを維持しづらい。それに、『管理される』ことが嫌いな人もいて、有志活動をするような人は特にその傾向が強い。だから、行動を管理したり役割を押し付けたりすることはせず、本人の『やりたい』という火が点いたときにそれを応援する形をとっています」

松葉「私は管理が厳しい組織の中では、萎縮してしまうタイプ。でもCONNECTではやりたいことをどんどん応援してもらえるので、積極的にチャレンジできたし、生産性が高い活動ができていると思います」

また、継続するためには「チームへの愛着」=「エンゲージメント」が重要だと諸藤さんは考える。

そこで、チームメンバーを『トクネコ』と命名し、一体感を高めた。「コネクト」の「裏方」を意図し、裏(逆)から読んだネーミングだ。

運営メンバーは20代から40代と年代が幅広い。上下関係を意識せずフラットな協力体制が築けるように、ニックネームで呼び合うことも習慣付けた。諸藤さんは「もろ」、松葉さんは「まつえってぃ」、池田さんは「うるふ」、楢﨑さんは「なーちゃん」と呼ばれている。

CONNECTの活動を通じ、会社全体を見渡せるように

CONNECTの活動にけん引され、組織の文化は着実に変わりつつある。では、運営メンバーは「自分自身」に対してどんな変化を感じているのだろうか。

▲楢﨑洋子さん

楢﨑「私は入社前から、社内外の人と一緒に活動を行い、より良いものを作っていきたい!と思っていました。でも、業務やCONNECTの活動を通して、会社の常識やルールなど難しい部分がたくさんあると気付いたので、会社をより良い方向に変えていきたい意志を強くしました。活動を続けるうちに、難しいだけでない色々な部分が見えてきたので、自分のやりたい!を加速していきたいと思います」

松葉「私にはもともと『インドネシアのゴミ問題を解決したい』という強い想いがあって、イベントの度に語っているんです。それに共感や賛同してくれる人がいることで、モチベーションを維持し、責任を持ってこの課題解決をやり遂げる覚悟と自信がつきました。あと、私は初対面の人に自分から話しかけるのが苦手なんですが、イベントを運営していると向こうから話しかけてもらえる。こうして新しい人とつながれば、視座がどんどん高まるかな、と思っています」

池田「CONNECTの活動を宣伝したり、自分の理想を訴え続けたりしていたら、部署の本部長から自分含めた若手が、『こういう業務改善を考えているが、どうすればいいと思う』と相談を受けるようになりました。行動し続けていれば、人の記憶に残り、少しずつでも文化や環境を変えるような影響力を誰でも持つことが出来る。それを学べたと思います」

▲池田朝泰さん

諸藤「活動を通じ、多くの人とつながれた。一般的に、社内でポジションが上がるほど『会社全体の目線で考えろ』と言われますが、そもそも社内の人たちを知っていないと、自分事として捉えられないと思います。私は今、さまざまな部署の人とつながり、社内でどんなことが起きているかを把握できたおかげで視野が広がり、組織の課題を自分ごと化できた。世の中の会社も、『会社目線で考えろ』と言葉で言うだけでなく、社員同士をつなげる取り組みをしたほうがよっぽど効果的なのでは、と思います。そしてもう一つの変化として、思考のリミッターが外れました。課題に直面したとき、自分でできる範囲で解決するのではなく、他の人のスキルや強みを活用することでお客様に提供できる価値を広げたり、会社への貢献度を高めたりできる――そんな発想に変わりましたね」

やりたいことが見つからない人の「越境」を促進していく

CONNECTの次の課題は、より多くの人を巻き込み、「越境」を促進することだ。

諸藤「越境を促進することは簡単ではないと感じています。越境するには覚悟がいる。『何をしたいか、どんな自分でありたいか』をイメージできていないと越境する気はなかなか起きません。しかし、やりたいことを言葉にできる人はそう多くはありませんし、越境して多様な人や出来事に触れる中で見えてくるものです。私はこの矛盾した状態を『越境のDEAD LOCK』と呼んでいます。これを脱するには、個人が越境するのを待つのではなく、誰かが会社や組織の中に外の文化を持ち込む必要があります。ただし、こういった活動は健康に良い食事のようなもので、大切だがすぐに結果が見えない。だからこそ、組織のオフィシャルな活動ではなく、CONNECTがボトムアップで取り組むべき意味があると思っています。社内風土について社員に聞くと、以前は『やさしい人が多い』という回答が多くありました。CONNECTの活動を2年続けてきて『自分の思いを持って行動している人が多い』という声も聞くようになったと思います。『やりたいを加速する』がNEC全体の文化になるまで、楽しみながら活動していきます」

こうしたCONNECTの活動を後押ししたのが、2018年4月にNEC内で新設された「カルチャー変革本部」であり、新たに定められた「行動基準」だった。その「トップダウン」の面での取り組みについて、後編でご紹介する。 WRITING 青木典子 PHOTO 刑部友康

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