日本に「オープンカフェ」が少ない理由って?“住みたい街”の条件が見えてきた

日本に「オープンカフェ」が少ない理由って?“住みたい街”の条件が見えてきた

「エリアマネジメントの実践」や「パブリックスペースの重要性」なんて言葉にはピンとこない人も「オープンカフェのある街っていいな」「ご近所にいい感じのカフェや公園があったら」なんて考えたことはあるのでは。

これこそ、「パブリックスペース」であり、それを実現する仕組みが「エリアマネジメント」なんです。でも、ヨーロッパではよく見かけるオープンカフェは、日本には少ないもの。その理由を深堀りしていくと、その価値や今後の課題がおのずと見えてくるはず。

今回は、エリアマネジメントやパブリックスペースの社会実験の専門家であり、こうした活動の情報発信をするWEBメディア『ソトノバ』編集長の泉山さんにインタビューしました。

お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

日本は路上を使うのはハードルが高いもの

――海外に旅すると、街のあちこちにオープンカフェがありますが、日本は、こうしたオープンカフェって少ないですよね。どうしてなんでしょう。

まず、日本のオープンカフェは民間の敷地内にあることがほとんどですが、海外では加えて公道に展開されていることをよく見かけます。

日本の場合、道路を使うには行政や警察への申請が必要で、これが、けっこう大変。まず、申請者は、個人やお店は基本的にはダメで、商店会やNPOなど地域団体に限られるのが実情です。一方、先日、研究のためにオーストラリアの都市のメルボルンとアデレードに行きましたが、実にオープンカフェが多いんですよ。というのも、オーストラリアはカフェやバーなどのお店からの申請がOKで、使用料は必要ですが、あまりNGにされることはないようです。

――その違いって何なんでしょうか。

まず、日本では、路上が「公共の場」(=行政の場所)という意識が強いからでしょうか。何かしら問題があったときに、行政や警察に連絡がきて対応を求められてしまうので、避けたい意識が働くのでしょう。だから規制することになる。

また、海外では、路上でアルコール販売は禁止なので、公共の場では、お店で提供するしかない点も関係あるでしょう。

――それは残念。オープンカフェ、あったらいいですよね。公共のものだから制限を設けるのか、公共のものだからみんなのために活用すべきなのか、その考え方の違いが根本にあるのですね。

ただ、小泉政権(2001-2006年)以降の規制緩和によって、少しずつではありますが、行政が民間の力を借りて、バブリックスペースを魅力的にしようという動きはあります。

パブリックスペースの充実が街の魅力を上げていく

――私たちは「パブリックスペース」というと公園や駅前広場などをイメージしますが、路上もバブリックスペース。海外で見かけるようなオープンカフェもそうですね。

はい。やはり「ソトで過ごす」時間を考えると飲食できる場は重要なファクターです。

住んでいる街のあちこちに、まるでリビングのようにくつろげる場所があるでしょう。私たちはそんな場所やライフスタイルを「PUBLIC LIFE(パブリック・ライフ)」と呼んでいます。泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

例えば、このニューヨークのマンハッタンにあるブライアントパーク。公園と図書館があるだけでは、単に「空間」ですが、可動式のベンチやテーブルを置き、「場」を提供することで、ここで食事したり、本を読んだり、子どもと遊んだり、昼寝したり、「人」が主役となります。街で、それぞれが思い思いに過ごすことができ。多様な目的とアクティビティが存在することが日常の風景になる。気づけば長い滞在時間、そこで過ごすようになる。そんな形が理想的。

例えば、ビアガーデンに行く人の目的は飲食で、それが達成すれば帰ってしまうでしょう。一方で、パブリックライフのある場所は、食事をした後に、運動をしたり、昼寝をしたり、はたまた読書をしたりと、いろんな目的がある。多様な行動ができるということは多様な人が使える。こうしたパブリックスペースが自分の街にあれば、暮らしが豊かになるはずです。

――確かに。そういうパブリックスペースがあることが、街の魅力につながり、住み替えるときに街選びの基準にもなりますよね。

泉山さんが手掛けられた既存の街のパブリックスペースを魅力的に変えた事例を教えていただけないでしょうか。

2014・2015年に行った、池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験ですね。ここはオフィス街で、とても広い歩道沿いにチェーンの飲食店が並んでいました。こうしたチェーン店の協力のもと、期間限定でテイクアウトスペースをつくり、オープンカフェやマルシェを開きました。「何をしているんだろう」と、道行く人が足を止め、食事をしたり、お店の人とおしゃべりしたり、日常的なアクティビティが一時的に行われました。池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

また、2018年には、さいたま新都心周辺で「パブリックライフフェスさいたま新都心2018」を行いました。もともと歩車分離の高質な歩行者デッキがあり、地域の企業と一緒に、ゾーンごとに、ガーデンのような場所や、60mのロングテーブルとイス200脚程度、インスタ映えするチャンネル文字を置くなどして、通り過ぎるだけの場所から、くつろげるスペースに変えました。特に日陰のリラックスチェアは大人気。普段使えない場所も出店者を集めたり、ビル風を風力発電のスマホ充電に利用したり、いろいろ仕掛けを実験し、課題や可能性を抽出するためのデータ分析も行っています。さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん) さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

――どちらもとても楽しそうですし、こうしたイベントは、自分たちが働く、もしくは暮らす街に愛着がもてるきっかけになりますね。

実験に終わらせない。継続させるために必要なこと

――どちらも期間限定ですが、継続的に行うことは難しいのでしょうか?

元々、どちらも社会実験のひとつとしてスタートしたことが大きいです。また、期間限定だからこそ協力を得られた部分もあり、同じことをそのまま継続するには、マンパワー的に難しいのが実情です。今かかわっているさいたま新都心では、実験のコンテンツ自体は好評のものは多く、常設化や継続できるものはないか、今後の方向性を検討中です。

現在、都心のバブリックスペースで日常的に使われている例として思い浮かぶのは、東京の丸の内や六本木界隈、中野セントラルパーク。新しいところでは、虎ノ門ヒルズ周辺の新虎通り、渋谷ストリームですが、どれも企業のパワーか、企業と地域が連携して実施しています。

東京は再開発ビルのオープンスペース(公開空地)を活用できる場所が多く、デベロッパーや企業が主導的にかかわっていくことは、資産価値やテナントへの訴求力につながりやすい。一方で、道路や公園になると、地域や行政との連携を密に行っていかなければならない。いずれにしても、世界の各都市と競争する東京ならではのやり方です。東京以外では、違う状況や方法で考えていかなければなりません。

――継続的に行うためには何が必要でしょうか。

ひとつのヒントになりそうな海外事例があります。

メルボルンから電車で30分の街、ポイントクックという街で、期間限定の公園「ポップアップパーク」が行われていました。去年と今年2月~4月の3カ月間、街の中心地であるショッピングモールのメインストリートに人口芝生を敷いて、みんながくつろげるスペースがありました。オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

この街は急激に郊外開発が進み、住宅がどんどん増えて人が移り住んできたベッドタウンで、コミュニティが希薄だったんです。そこで、「自分の街に住んでいる人を誰も知らないなんて嫌」と思った主婦2人が始めたのがきっかけ。元々は彼女たちが、仲間を募って始めたものなんです。今年はスポンサーもつき、法人化し、プロジェクトが発展しています。

この事例がすごいのは、主催する側のホストと、参加する側のゲストの境目があいまいなこと。「ヨガを教えたい」「ライブをやりたい」など、遊びに来た人が、今度は仕掛ける側にまわっていく。

FacebookなどSNSのツールを駆使して、共感や仲間を集めています。企画をやりたい人が集まってきたり、あるいは人同士をつなげることで、勝手に企画が始まる。ゲストの立場だけなら、数回足を運んで「楽しかったね」で終わりますが、ホストの立場も兼ねるなら、そのつながりは強くなります。人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

――確かに、イベントでは遠方からくるゲストと地元に暮らすホストは明確な境目がありますが、みんな同じ街に暮らすコミュニティが前提なら継続的になっていく可能性は高まりますね。

「パブリックスペース」が使えるという事例が増えてきているなかで、人が歩いている街で、人が休んだり、出会ったりする場所が大事だと思っています。そのためには、イベントのように、人を呼んで楽しませて終わり、ではなく、日常的にくつろげたり、楽しめたり、継続的に取り組む必要性があります。

前出の、オーストラリアのポイントクックの主婦の方もスキルのある「当事者市民」です。今後は行政も、民間企業だけでなく、当事者意識の高い市民を巻き込みながら、街を盛り上げてほしいですね。ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)●取材協力

『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん

東京大学先端科学技術研究センター 助教/ソトノバ編集長/博士(工学)/認定准都市プランナー/タクティカル・アーバニスト/アーバンデザインセンター大宮|UDCO ディレクターほか/1984年札幌市生まれ/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。エリアマネジメントやパブリックスペース利活用及び規制緩和制度、社会実験やアクティビティ調査、タクティカル・アーバニズムの研究及び実践にかかわる

ソトノバ
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