部下を残業させる上司と、残業させない上司の違いとは?──カフカの「変身」に学ぶ部下成長術

部下を残業させる上司と、残業させない上司の違いとは?──カフカの「変身」に学ぶ部下成長術

『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』(明日香出版社)の著者である石川和男さん。石川さんは、建設会社総務部長・大学講師・専門学校講師・セミナー講師・税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパービジネスパーソンです。そんな石川さんに「部下を残業させる上司と残業させない上司の違い」についてお聞きしました。

部下を成長させないダメ上司

一般的にリーダーは部下より、知識も経験も豊富です。

そのため部下の仕事が未熟に見える場合があります。

部下に任せるのは大切だと思っていても、部下が間違えずにできるかどうか不安。

部下に任せると時間がかかってしまう。そのため自分でやってしまう。

私がコンサルタントをしている顧問先に、仕事を抱え込んでしまうリーダーがいました。部下に仕事を任せるなら、自分でやったほうが早いという考え方の持ち主でした。

例えばY君の担当している顧客E社との交渉に、リーダーも同行します。しかも面談中は自分ばかり話しているので、Y君は頷(うなず)くだけ。これでは部下は成長しません。このようなことが続くと、Y君はリーダーに依存するようになります。

自分で考えなくても「リーダーが考えてくれる」と思うようになり、「どうせ意見を出したって否定されるのなら、何も言わない方が楽」と、思考までストップしてしまうのです。

上司も部下も残業してしまう不幸

提案書や企画書などのデスクワークでも、リーダーが部下の仕事に口を挟みます。過剰に手伝い、ときには仕事を横取りします。仕事が増えたリーダーは遅くまで残業します。仕事を奪われた部下は、やることがないのに帰れません。自分の顧客の仕事をリーダーがしているのに、帰れる状況にはならないのです。 忙しいリーダーは残業。暇な部下も残業。

任されない部下は仕事をしないので、成長しない。

いつまでもリーダーが部下の仕事も抱え込む。

こんな悪循環のスパイラルに陥ります。

カフカが「変身」で伝えたかったこととは?

一方、部下に仕事を任せるリーダーは、任せた当初はミスや手戻りなど時間がかかることもありましたが、部下が成長するにつれ、リーダーが行う仕事も減っていきました。理由は明白です。任された部下たちが機能しだし、仕事を終わらせていくからです。加えて、部下の成長も加速していきます。

この原稿を書いていてカフカの「変身」を思い出しました。 ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドの中で自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた

衝撃的な書き出しから始まる小説です。

4人家族で父は事業に失敗して無職、母と妹も働いていない。ザムザ家はグレゴールの収入だけで生活していました。家は貸すほど大きく、女中を雇うほど裕福です。しかしグレゴールが虫に変わったため、収入源を失った一家は、両親と妹が働く羽目になります。

やがて家族は今までの恩も忘れ、大きな奇妙な虫に変身したグレゴールを世話するのが面倒になりました。食料も与えず、ついに主人公は息絶えます。死体を片付けた3人は、新しい出発を祝うかのように笑顔でピクニックに出かけるのです。

はじめてあらすじを知った方は、一体何を伝えたいのか分からないかもしれません。私も中学3年生のときに読書感想文で出題されたときは、人間が巨大な虫に変わっていく様を描いたこの作品をどう理解し、どのように感想を書けばいいのか分からず苦労しました。

あれから30年以上経ち、改めて読み返してみると、「グレゴールの働きに依存していた家族が、自立することで働く喜びを取り戻し、充実した生活を楽しみ、それぞれが輝き出したことを表現している」と新たな見解に行きつきました。

文中では、今まで役に立たず兄に依存していた妹が、店員の仕事を見つけます。出世するために速記とフランス語の勉強も始めます。

ベッドに伏せていた父は金ボタンのついた制服を着こんで往年の威厳を取り戻します。主人公の死後、ピクニックに出かけた3人は、自分たちの仕事がますます有望だと将来の夢を語り合います。

つまり主人公が家族を楽にするため1人で一生懸命に働いていたことが、逆に家族の自立を阻害し、生きる力を失わせていた害虫のようだと、カフカは表現したかったのではないでしょうか?(私の個人的な見解です)

部下に仕事を任せることでチームは変わる

部下に仕事を任せないリーダーも、この家族と一緒です。リーダー(主人公)はチーム(家族)の分まで一生懸命に働きます。リーダー(主人公)に依存している部下(3人)は、成長することも、成長する喜びを味わうこともできません。

部下一人ひとりが仕事を覚え、自ら成長していくことが、チームにとっても、個人にとっても必要なことなのです。

著者プロフィール

石川和男(いしかわ・かずお)

f:id:asukodaiary:20170309141602j:plain建設会社総務部長、大学、専門学校講師、セミナー講師、税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパーサラリーマン。大学卒業後、建設会社に入社。管理職就任時には、部下に仕事を任せられない、優先順位がつけられない、スケジュール管理ができない、ダメ上司。一念発起し、ビジネス書を年100冊読み、月1回セミナーを受講。良いコンテンツを取り入れ実践することで、リーダー論を確立し、同時に残業ゼロも実現。建設会社ではプレイングマネージャー、専門学校では年下の上司の下で働き、税理士業務では多くの経営者と仕事をし、セミナーでは「時間管理」や「リーダーシップ力」の講師をすることで、仕事が速いリーダーの研究を日々続けている。

最新刊の『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』(明日香出版社)ほか、『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(明日香出版社)など、勉強法、時間術などのビジネス書を8冊出版している。

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