”茶碗ひとつをとっても飽くなき探求心と洗練さが求められます。しかし、その大元は非常に質素なもの。そういった点に私は非常に惹きつけられたのです”Tom Sachs: Tea Ceremony

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東京オペラシティ アートギャラリーにて2019年4月20日[土]から6月23日[日]まで開催中の、「トム・サックス ティーセレモニー」。本展は、独自のまなざしで日本の文化に深いリスペクトを向けるトム・サックスが、ティーセレモニー(茶会、茶道)に本格的に取り組む展覧会だ。

2016年ニューヨークのノグチ美術館での展覧会のために制作された「トム・サックスティーセレモニー」は、2016年から2017年にかけて「Space Program: Europa」 (2016-17)の一環としてサンフランシスコのイエルバ・ブエナ芸術センター、その後ナッシャー彫刻センター(2017-18)に巡回した。日本の伝統的な茶の湯の世界 とそれを取り巻く様々な儀礼や形式を独自の解釈で再構築した作品を制作するために、 2012年から本格的に茶道を学び始めて以来、日本国内での発表を念頭に置いてきたサックス。東京オペラシティアートギャラリーでの展覧会は、サックス自身が切望していた、作品の起源である日本での初個展となる。本展の作品は体感型の空間として、庭(「内露地」「外露地」)、手作りの合板の茶室、ボーイング747機の設備をより機 能的にしたトイレユニット(「雪隠」)、鯉が泳ぐ美しい佇まいの池、そして様々な門によって構成される。

「古い伝統の真の発展を目指す」というイサム・ノグチの姿勢に着想を得て、それを実践すべく、サックスは茶碗や釜、柄杓、掛軸、花入れをはじめ、電動で動く茶筅(ちゃせん) や本来スポーツで使用されるショットクロック (*1カウントダウンするストップウォッチ)、電子式の火鉢などの、工業用素材や日用品といった身近な物で茶道具を自作し、独自の世界を創り出した。会場に展示されるスペアパーツやスクラップ素材から制作した、明治工芸の「自在(*2 自由自在に部位を動かすことができる置物。複数の金属パーツや蝶番などを駆使して複雑な動きが再現できる)」を連想させるザリガニの形をした銅製の置物や、500個を超える「不完全な美」を体現した手製の茶碗からも、サックスの茶道へのこだわりと深い興味がうかがえる。作品そのものに命を吹き込み、茶の文化の発展のための貢献を有意義なものとさせるのは、その根底にある遊び心だけでなく、作家自身の茶道という伝統的な文化に対する絶え間ないリサーチと制作への献身的な姿勢といえる。
展覧会では上記のインスタレーションに加え、今までにサックスが制作してきた様々な茶道具を紹介するとともに、茶の湯に取り組むきっかけとなった「Space Program2.0: MARS」展(2012年)からの発展や歩みを振り返る。また、今回上映される映像作品《ティーセレモニー》は、日々の暮らしや営みから派生した複雑なサブカルチャーに対するサックスの20年にわたる模索を反映したもので、本展のために特別に制作されたジオデシック・ドーム状のシアターで上映される。
また、2016年の展覧会に合わせて、ニューヨークのノグチ美術館、ならびにイエルバ・ブエナ芸術センターとナッシャー彫刻センターの協力のもと、アーティストブック 『ティーセレモニー・マニュアル』が制作されている。サックスの茶の湯に対する様々なリサーチや実践を280ページにわたって紹介している。
本展のために来日を果たしたサックスが作品を解説。その貴重な言葉たちをここに紹介。

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Tom Sachs「今回の展覧会は2012年から始まっており、進化を経て現在に至ります。まずこちらで茶室に入る前に靴を履き替えてもらいます。こちらのシュー・ケースに入っている靴のプロトタイプのうちいくつかは、某スポーツメーカーの商品を使用しています。なぜスポーツメーカーか。私が運営するスタジオは12人のスタッフからなっているのですが、全員がスポーツのプロフェッショナルなのです。その主任が私というわけですね(笑)。私たちの専門分野は彫刻です。今回はティーセレモニーと題された展覧会ですが、あくまで茶の湯ではなく”彫刻”をコンセプトとしたものとなっています」

Tom Sachs “This exhibition starts from 2012 to now through the evolution,that’s the concept.Some of the prototype of these shoes in the shoe case,these are products of a sport company.And at my studio,there are 12 members working at there,they’re all expert of sports and I’m a leader…haha.I call this exhibition tea ceremony but it’s not about cha-no-yu,but about sculpture”

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Tom Sachs「この部屋で今ご覧いただいているのは、『Narrow Gate』と呼ばれるイサム・ノグチによって1981年に作られた彫刻作品を段ボールで再現したもので、本展覧会の中でも非常に重要なもの。本来ならオリジナルを展示したかったのですが、様々な事情により不可能になってしまったので今回このように自分の手で作りました」

Tom Sachs “Now you looking at is the work which reproduce with cardboard of Narrow Gate the sculpture by Isamu Noguchi 1981,one of the main work of this exhibition.I wanted to have the original one in here but I couldn’t for some reasons,so I made by myself”

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Tom Sachs「この部屋にあるものは、出来る限り近くに寄ってじっくりと見て下さい。2012年に火星にいた我々は、スペースプログラムによってここティー・セレモニーへ来ました。そして、NYのパークアベニューへ。奥の茶碗が並んでいるところをご覧ください。私が初めて作った茶碗から並べていて、今ちょうど100個あります。何故なら我々は失敗しなければ学べないからです。そしてそれらと対になって飾られている茶碗は私にとって完璧な出来のものです。以前e-bayで茶碗を買ったところ、君は全てを自分で手作りするはずなのに既製品を使うのかと言われ、それもそうだと茶碗を作り始めました。最初の茶碗はひどい出来ですが、しかし過去の失敗を展示することは恐れていません」

Tom Sachs “Please go clocer and see carefully.We were ar Mars in 2012,now at tea ceremony by space program.And park avenue in NY.There are chawan ver there,these are what I made for the first time to number 100.The first chawan looks terible but I’m not afraid of showing failure.Because we can’t learn anything without failure.And,the chawan that I made infront of the 100works is perfect one for me!”

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Tom Sachs「こちらの鳥居をくぐることで、我々は元居た世界から別の場所へ移動しました。ここは自然保護区です。こちらの鯉の池は今までにも作ってきたものですが、今回は日本で展示されるということで気持ちを新たにしてきました。ぜひ、それぞれの鯉ごとに見てみてください。少し赤みがかっているものや、太っているもの、様々な鯉がいます。さて、これから『INNER GARDEN』へと参ります。ここからは携帯電話やジュエリー、香水といったものから解き放たれた感覚へ皆さんを誘います。ここでは皆さんに、心身ともに清く洗いながしていただきます。いかなる宗教においても水は穢れを洗い流す道具として作用しています」

Tom Sachs “Go trough the torii,now we’re at another world from where we were at before.You being free from cellphone,jewelry and perfume here.I’d like you to expel impurities.Any religion see water as a tool of expel impurities”

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Tom Sachs「ひとつ申し上げておきたいのは、我々はティーセレモニーを行うにあたって、茶の湯をくまなく勉強しました。そして、敬意を払っています。これからも学びを続けていこうと思っています。静かさ、調和、冷静さ、敬意を表することを。私はせっかちな性格ですから、こういったじっくりと何かに取り組むという姿勢を取り込んでいきたいと思っています。茶の湯を通して、物体から何かを彫り出すといった彫刻的な経験を得ていると感じています。しかし、今回のティーセレモニーも含め私の作品は過去三十年間全く同じ方法で作られています。今回の前は、スペースプログラム、その前は消費対象となる日用品をテーマに作っていました。そして、未だに私は日用品と言ったものに対して興味を持っています。なぜなら、ティーセレモニーで使う茶器も日用品と言えるものだからです。灯篭をご覧ください。地面つまり土、水、火、そして空気、我々を取り囲む要素がここにはあります。盆栽は、綿棒、歯ブラシなどを段ボールで出来たトイレットペーパーの芯に差し込むようにして作ったものです。この作品を作るのに一年盆栽について学びました」

Tom Sachs “I’d like to say that we’ve learned about cha-no-yu for this tea ceremony.And we respect it,really.I will continue learning,serenity,harmony,calm and respect from cha-no-yu.I’m kind og impatient type person, so I want to learn the atitude of working on something in the long run.Trough the cha-no-yu,I feel that I’m having the sculputurical experience,something like digging out.But I’ve been doing my work in same way for past 30 years in my career.Previous exhibition was about space program,and before that,daily products was the theme of works.And still,I’m really interested in the daily products,see,the tea utensils like chawan are also one of them.Here is what is called to-ro,ground,it means soil,water,fire and air,every elements that surround us are in this space. This bon-sai made of cotton swabs and tooth brush put into core of the toilet paper made of cardboard.I learnd about bon-sai for making this”

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Tom Sachs「では、これからこの場所でどういった流れでティーセレモニーが行われているか説明していきたいと思います。まずは、瞑想からです。(しばし瞑想)私のティーセレモニーではこうしてピーナッツバターやオレオクッキーなどのお菓子が出されます。こちらは飛行機の機内食で出されるトレーが収納されるカートで、NASAと表記されています。そして、“SMUT”と呼んでいる緑の煙を炊きます。作り方としてはお茶の粉が入った筒を振って開けるだけです。ほら、できた(笑)。私が以前、ある茶の道の先生から伺った言葉に“まず、ホスト側が楽しまないとゲストも楽しむことができない”というものがあります。なので、自分がいかに楽しめるかということを大事にしています。ティーセレモニー自体は僕は嫌いなのですが(笑)、それは私があまり上手くできないからです。私の専門は、ものを作ることです。ものを作ることによって、これらのシステムを構築することとパフォーマンスをすることはこの上なく楽しく、幸福を感じさせてくれます。我々のスタジオではこの一連の流れをパフォーマンスと呼ばず、道具のデモンストレーションと呼びます。なぜなら、我々が作ったものをどのように使うのかデモンストレーションすることが目的だからです。(茶をたてながら)茶道具を使って完璧な一杯の茶をたてるのに5千杯が必要だと言われています。これは素晴らしい禅の発想に基づいたメソッドですが、私はアメリカ人なので最初のトライで80%上手くいけば成功だったと感じるのでこうして道具を作って立ててしまいます(笑)。また私たちは、ゲストに30秒で私からの問いに答えるようにタイマーを設定しています。これは一見ホスピタリティがないもてなし方に見えるかもしれませんが、限られた時間で何かを成さなければならないという状況はより素晴らしい結果をもたらすのです。またフランク・ゲーリーの言葉で“真のアーティストならば理解しなければならないことは、予算と締め切りである”というものがあります。30秒で作品を完成させるというのはなかなか悪くないでしょう、ね?」

Tom Sachs “From now,I’d like to show you how we do in tea ceremony.First,we start with meditation.In my tea ceremony,we serve peanut butter snacks or oreo cookies.This cart is for container for in-flight meal tray,which is written NASA.Now I give out green smoke what is called SMUT.Once a master of cha-no-yu said to me,guest can’t enjoy unless host don’t.So most important thing for me to do tea ceremony is enjoying,Altough I don’t like tea ceremony itself because I’m not good at doing this,haha.But I feel happy more than anything from building up this system and doing this.In my studio,we don’t call this as performance but we call it demonstration of tools,because our purpose of this is demonstration of what we made.They say it needs 5000 chawan for making one perfect one.I think it’s great cha-no-yu spirit,but I’m American so I think if I can make 80% okay chawan for firt try,I can say it was success for me.And, in here,guests must leave in 30 seconds,it may seems to be impolite but people make better thing under the pressure.Frank Gehry said,great artist must understand what the budget and deadline are.Making a work piece in 30 seconds is not so bad,right?”

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――ティーセレモニーという題材にした理由は?

Tom Sachs「私にとって抹茶は土の味に近いような印象です。その味は、人生をかけて探求できるもののような気がしています。茶の湯においては、茶碗ひとつをとっても飽くなき探求心と洗練さが求められます。しかし、その大元は非常に質素なもの。そういった点に私は非常に惹きつけられたのです。私はもともと物質の変化について興味を持ってきました。例えば茶碗ですと、元は土だったものが焼くことで石のように固くなる、それによって半永久的に形が定まります」

――一般的な茶道と言われるものと違った方法で行われる“ティーセレモニー”ですが、その発想はどこから?

Tom Sachs「以前NYで買った非常に高級な抹茶の粉があったのですが、開けたとたん飛び散ってしまったことがありました。上質な抹茶の粉が舞う光景を見たとき、驚いたと同時に何か特別な瞬間に立ち会っているといった感覚にもなりました。このティーセレモニーで私は、その時に私が感じた魅力を最大限再現したのです。先ほど行った緑の煙SMUTは飛び散った抹茶の粉に捧げるものです(笑)。文化の盗用という言葉がありますね。これは、ある一つの文化圏のものを個人の利益の為に流用することを表します。私は日本人ではありませんし、科学者でもありません。しかし、私なりに全身全霊でこの仕事を遂行しています」

――茶器などを作る上でユニークな素材を用いられていますが、畳は本来の素材で作られていますね。

Tom Sachs「畳も他の素材から作ろうと、様々な試作品を作りました。ゴムやシリコンなども試してみましたが、あまりに醜いものでした。ですのでおっしゃる通り、畳はそのままの素材で作ってしまいました(笑)。また、抹茶も市販のものを使っています。先ほど申し上げたように、一番大切なことは自分自身が楽しむことです。私は畳を愛していますから、なんとか違う素材で作ろうとストレスを感じるよりもそのままを楽しむことを選びました」

――Why did you choose tea ceremony as a theme of this exhibition?

Tom Sachs “For me,the taste of matcha is like soil.And I feel the taste is something I want to quest for.We need the spirit of quest and sophistication to do cha-no-yu,just for making a chawan.But the root of it is very simple thing.And it is really attractive for me.Also,I’ve been interested is what the transformation of objects.The chawan for example,it was soil at the beginning but once we burn it,it get to be hard like stone for semi-permanently.It’s interesting”

――Your tea ceremony is deffirent from nomal Japanese style one,where is the idea from?

Tom Sachs “I remember that once I bought high-class matcha powder but it scattered all over when I opened it.When I saw the grest matcha powder flying in the air,I was shocked but felt this was special moment at the same time.I re-created the feeling I had at that time in this tea ceremony.SMUT that I showed you before is dedicated for the matcha powder,haha. There is a word cultural appropriation which means using other’s culture for own profits.I’m not Japanese and also scientist,but I making my art with all my heart and soul”

――You using unique material for making all equipments of teaceremony but for tatami,you used original material.

Tom Sachs “Indeed,actually I tried to make tatami with other materials like rubber or silicon but these were too ugly.So I ended up to use original material as you said,haha.Also,I use matcha that I bought at the store.But as I said, the most important thing for me is enjoying.I love tatami so I thought it’s better to use just nomal tatami instead of feeling stress from trying to find other material,it’s more enjoyable”

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トム・サックス ティーセレモニー
Tom Sachs: Tea Ceremony

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期間:2019年4月20日[土]-6月23日[日]
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag
開館時間:11:00-19:00 (金・土は11:00-20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日、ただし4月30日(火)は開館)
入場料:一般 1,400円(1,200円)、大学・高校生 1,000円(800円)、中学生以下無料
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団/「トム・サックス ティーセレモニー東京展」実行委員会
特別協賛:日本生命保険相互会社
協賛:株式会社 ビームス
協力:相互物産株式会社/Galerie Thaddaeus Ropac/Vito Schnabel Projects/株式会社東京スタデオ
企画協力:小山登美夫ギャラリー

東京オペラシティ アートギャラリーの他にも、小山登美夫ギャラリー(六本木)、東京スタデオ(駒込)、ビームス 原宿(原宿)の3か所でもトム・サックスの展覧会およびポップアップストアが展開。東京中でトム・サックスの世界観を楽しむことができる。

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