「お客さんの笑顔のために」…なんて正直気持ち悪い。――『肉山』オーナー・光山英明の仕事論(3)

「お客さんの笑顔のために」…なんて正直気持ち悪い。――『肉山』オーナー・光山英明の仕事論(3)

『肉山』など自身が経営する店に加えて、60店舗もの飲食店をプロデュースしそのすべてを繁盛させている光山さんに、これまでの半生と仕事論を聞く連載。今回は、『肉山』の開店秘話、そして予約1年待ちの超人気店に育て上げた秘訣について語っていただいた。

プロフィール

光山英明(みつやま・ひであき)

1970年、大阪市生まれ。個人商店代表取締役社長。小学4年生から硬式野球を始め、上宮高校野球部では主将を務め、甲子園に出場。ベスト8に。卒業後も中央大学野球部に入部、吉祥寺周辺で寮生活。卒業後は大阪に戻り、卸酒屋に就職。9年半勤務後、上京し、2002年11月にホルモンと焼酎の店『わ』を開店。2012年11月には『肉山』を開店。予約1年待ちの人気店に育て上げる。飲食店を開業したり知り合いの相談にも乗り、これまで60店舗以上をプロデュース、そのすべてが繁盛店となっている。

予約1年待ちの『肉山』は遊びで始めた?

──『わ』の次に光山さんが開店した直営の店が『肉山』ですよね。『肉山』オープンの経緯は?

ほとんど遊びで始めたんですよ。『わ』も10年目には、スタッフも全部任せられるくらいに成長したので、僕は週1か2回くらいしか店に入らなかったんです。当時41、2歳だったんですが、何か得るもんでもあるかなと1年間、いろんな店で飲み歩いたり遊んだりしてました。でも特に得られるものもなく、こないして毎日遊んでたらお金だけ減るし、そんなにべらぼうに使えるお金もない。まだリタイアして遊ぶ歳でもないからもう1軒くらい自分が現場に入る店を作ろうと思ったのが最初のきっかけです。そうすれば店が僕を縛ってくれるから余計な金も使わなくて済むしね。

そう思ってたある日、『わ』の近くのビルの2階の小物屋さんが入ってた物件が空いたんですよ。今の『肉山』に来てくれるお客さんからは「隠れ家みたいでええ感じですね」って言われるけど、普通はこんなとこ誰も来ないですよ。『わ』と同じく吉祥寺駅からだいぶ離れてるし。でも家賃が安かったから取りあえず借りたんです。

▲『肉山』が入っているビルの表札。『わ』時代からの常連、人気漫画家・西原理恵子さんのイラストが。光山さん自身も西原さんの漫画に度々登場している

──確かに立地的にいいとは言えないですよね。どんな店を作ろうと考えたのですか?

コンセプトとしては、まず1番は僕が現場に入る。2つ目は店側が肉を焼いて提供する。3つ目は月曜から木曜までの4日間しか営業しない。4つ目はお客さんは6人しか入れない。これが最初の基本コンセプトでした。

──今と全然違いますね。なぜ営業日は月曜から木曜で、お客さんは6人しか入れなかったんですか?

金土日は『わ』や「たるたるホルモン」が満席で入れなかったお客さんのために、元々『わ』のバイトで、今「白金のたつこ」という店の店長をしてるたっちゃんがホルモン屋をやってたからです。だから最初の頃は、『肉山』のテーブル席はダクトがついてたんです。

あと、お客さんが6人くらいやったら僕1人で対応できますから。月から木は僕が1人で肉焼いて、カウンターの6人のお客さん、『わ』の常連さんや、ホルモンに飽きたり引っ越ししてどっか遠く行った『わ』を卒業したお客さんに「また光山が現場戻ってきたよ、遊びにきてね」くらいの感じで始めようと。僕が現場に出てたら誰か1人でも来るやろ。その人と喋りながら1日過ごしたら、暇でも飲みに行くことを考えたら黒字やなと。だから遊びで始めたというのはそういうことで、最初から儲ける気はなかったわけです。

──なるほど。提供する肉はどのようにして決めたのですか?

実は牛の肉って決めてなくて、最初は魚でも鰻でも貝でも何でもよかったんです。どんな肉がいいか、『わ』で6人くらい常連さんを集めて魚介類や牛や豚のいろんな肉を焼いて食べもらう試食会をやったんです。その時、ある人がごっついマグロカツや平貝を食べて「うわ、お肉みたい」って言うたら「はい、これも肉!」いうて認定してたんですよ。当然牛肉も使おうということで、赤身肉を仕入れました。なぜかというと、店側で焼いて提供するなら、リブロースを1枚さらっと焼いて出しても焼肉屋と変わらないじゃないですか。だから塊で焼こうと。この赤身肉が一番評判よかったんですよ。「しつこくなくてさっぱりしててええですね」って。それで牛の赤身肉メインになったわけです。元々そんな真剣に考えてないんで。最初から適当なんですよ(笑)。

牛肉の場合は特定の部位の塊を一個だけ仕入れるってなかなかできないので、外モモ仕入れたら内モモもひっついてくる、ランプはイチボとセット、みたいになるので、ほな全部使い切ろう、それらの端っこ肉はカレーにしよう、みたいな感じでメニューを決めていきました。

オープンと同時に大繁盛

──試食会の反応は?

一通り食べた6人が「光山さん、ほんまにこんな感じでやるんですか?」って聞くから「利益とかわからんけどこんな感じでやろうと思ってる」と答えたんです。そしたら「絶対流行る。ましてや光山さんが現場に戻ってくるんだから」って言うから、じゃあこんな感じでやってみようと、ちょうど『わ』の10周年の日、2012年11月15日に『肉山』をオープンしたんです。メニューは赤身肉を中心とした5000円のコースのみ。お酒は単品オーダーか、飲み放題ならプラス5000円で1万円としました。

──『肉山』オープン後の反響は?

めちゃくちゃ反響がありました。『わ』を卒業した人がまた戻ってきたのと、その頃徐々に流行ってきてたFacebookの影響も大きかったと思います。当時は来たお客さん、1グループに1つ、いろんな部位の肉を木箱に入れて、「今日はこの肉を食べてもらいます」って見せてたんです(※現在は1木箱に1部位)。そしたら木箱なんて使ってる飲食店って世の中に鮨屋だけだったので、「これ自分ら用の木箱なの? うわー!」とテンションが上がってね。特に5人グループだったら肉の量もちょうど木箱一杯になってより見栄えもよくなるので、みんな「何これ!」って言いながら写真を撮ってFacebookとかにバンバンアップしたんです。それでぶわーっと拡散して、予約がどんどん増えていったわけです。

▲木箱入りの肉はインパクト十分

でもお客さんは6人しか入れないし、月曜から木曜しか営業してないので、最初からかなり断ってたんです。ちなみにいまだにその頃来てたお客さんからは、「あの当時、光山さんに“金土日は何やってるんですか?”って聞いたら、遊びに行ってますって答えたからおもろいやついてるなと思った。普通逆やろって」って言われます(笑)。

あまりにも来たいという人が多すぎたのでもうちょっと何とかせなあかんなと。なんせ席は全然余ってて、カウンターだけでもあと3席余ってて、テーブル席も2つもあるので。当時、テーブル席は荷物置きにしてたんです(笑)。そんだけ来たい来たい言うならまずはカウンターはいっぱいにしようかって9人に増やしました。それでも予約の問い合わせはまだまだ来る。「あの荷物置きになってるテーブルに座らせてよ」って言うお客さんも増えたから、テーブル1個を空けた。それでも全然足りなかったので、もう全部いってまうか、金土日もやるかと今のスタイルになったわけです(笑)。でもFacebookに加えて『dancyu』とかいろんなメディアに載ったからどんどん来たいというお客さんが増えて、数ヵ月後には予約が半年待ちになって、じきに1年待ちになりました。

当時は量も今よりもっと出してたので終盤、お客さんに木箱に入った肉を見せて、「あとまだ肉こんだけありますけど食べれます?」って聞いてたんです。「もうお腹いっぱいだからいいです」って答えると「ほんならもうやめときますわ。今度多めに食べて」とか、全部出したお客さんに「足りますか?」って聞いて「もっとほしいです」って答えると「ほんならもっと焼きますわ」って追加で焼いて出したり、そんな適当な感じやったんですよ(笑)。

肉の焼き方にこだわる

──では『肉山』で苦労したことは特になく?

経営的な苦労はしたことないですが、最初の頃は肉の焼き方で苦労しました。やっぱり赤身の塊肉をおいしく焼くのって、すごく難しいんですよ。単純に炭火で焼くだけでは、肉の旨味は引き出せません。塊肉をおいしく焼くいうのは今、全国にできている新しい『肉山』もそうですが、永遠のテーマなんです。

僕も最初の頃は焼くのがヘタクソで、ミスの確率が高かった。もちろんお客さんに出せるレベルではあるんですがもっとうまく焼きたかった。そこで新宿の『オステリア・ヴィンチェロ』のシェフに店に何度も来てもらって、おいしい肉の焼き方を細かく教わったんです。シェフは忙しいのに基本的なことから丁寧に教えてくれました。そのおかげでだんだんうまく焼けるようになっていったんです。

▲シェフに教えを請い、うまく焼けるようになった

──よく店まで来て、教えてくれましたよね。

『わ』をやってたころからの友達やったから来てくれたわけです。今でも感謝してます。

お客さんを満足させ、利益も出せる秘訣

──それも光山さんの人柄がなせるわざなんでしょうね。『肉山』は遊びで始めたとおっしゃってましたが、原価計算などもしなかったんですか?

あんまり細かく計算してませんね。

──原価率はどのくらいなんですか?

たぶん40~50%くらいじゃないですかね。

──一般的な飲食店って30%くらいって言われている中、すごく高いですね。

原価率そのものはあまり重要ではないんですよ。なぜなら仮に売り上げが月1000万あるとして、原価率が50%なら食材費で500万がなくなるので、残りの500万で店の家賃や人件費、光熱費などの経費を引いて残るのが利益なわけですが、これがちゃんと残っていればいいんですよ。だからトータルが重要で、最終的に利益さえ残ってれば別に原価率が60%でもいいんです。これは飲食店に限らずどの商売でも同じです。ただし、原価に60%をかける店で、家賃が30%だったら話になりませんよね。10%で全部やりくりせなあかん。それは不可能なので。

ポイントは、それほど高価ではないけれど十分うまいパフォーマンスの高い食材を使うこと。多くの人は高く仕入れた食材を高く売ると儲かると思っていますが、僕はそれはしません。例えば鮨屋で握りを出す時、1枚100円の原価のネタを1枚使うのと、ネタを2枚重ねて出すのとでは当然原価が倍になるわけじゃないですか。僕がしているのはそういうことで、質も価格も超高水準の食材は仕入れないけど、原価率を高くして、そこそこおいしくてしっかりした量を出すと、お客さんは満足してくれるわけです。その質と価格と量のバランスは考えますね。

僕の基本的な商売のやり方は、安い家賃の店で、できるだけ人手を少なくして人件費を押さえ、パフォーマンスの高い食材を使ってお客さんに料理を提供するということ。さらに、常連さんがアルバイトしたいって言ってくるので求人費もかからない、SNSや口コミでお客さんが押し寄せるので広告費もかからない、ぐるなびや食べログに払う固定費もいらない。こんな感じで、普通の飲食店なら必要経費として見込んでおかなければならない経費が一切かからない。あと営業時間もべらぼうに長くないから光熱費も大してかからない。こんな感じで出ていくお金が少ないのが僕の強みですね。だから最終的な利益が出るし、お客さんにもコースなんだけど「もっと食べます? どうぞ」みたいなざっくりした出し方ができるんですよ。

──でも原価率を下げたらもっと利益が出せるじゃないですか。なぜそうしないんですか?

それをやり始めるときりがなくなりますよね。

──やっぱりあんまり儲けようという気がないんですか?

いや、十分儲かってますよ。

「お客さんの笑顔のために」なんて気持ち悪い

──でもやろうと思ったらもっと儲けられるわけじゃないですか。あまり儲けることに興味がないんですか?

いや、それはありますよ。ただ、物事には適正ってあると思うんですよね。それを大事にしてるんです。別に原価に50%かけようが、そこを誇りにはしてませんから。たまに「原価をこんなかけてます」もしくは「こんなかかってるんですよ」ということを声高に叫ぶオーナーがいますが、「それ、あんたが勝手にやってるだけであって、お客さんには関係ないやん」って思いますね。例えば鮨屋の大将が「今、時化の状態が続いて原価が高いんですよ」って言うのを聞いても、それ客に言ってもしゃあないよなと。時価以外は値段決まってるので。じゃあものすごく大量に獲れて原価が安い時に、何かサービスしてくれるんかというと何もしてくれないわけじゃないですか。あと、たまに「今年の売り上げは前年比120%でした」と自慢してる人もいますが、そんなこと食べに来てる人にとっては関係ない。だから『肉山』も原価50%くらいにしているのは僕が勝手にやってるだけなので別に自慢でもなんでもないし、お客さんに関係ないことは自分からは絶対言わないようにしてるんですよ。

──自分の利益をより多く取るより適正な価格でおいしいものをたくさん出して、お客さんにお腹いっぱいになって喜んでもらいたいという思いからそうしてるってことなんですね。

もちろんそういう思いでやってますけど、自分からは絶対言わないです。だってそれは飲食店のオーナーとしては当たり前じゃないですか。当然お金と時間を使ってわざわざうちの店に来てくれたお客さんには、喜んでほしいし、嫌な思いもさせたくないし、また来てほしい。うちの店にいる間の限られた時間を楽しんでいただきたいとは思いますよ。でもわざわざ「お客さんの笑顔のために」とかは言いません。そんなん、気持ち悪くないですか? わざわざ「お客さんから、“また来るよ”と言われてうれしかった」ってブログやSNSで書いてるオーナーもいますが、「そりゃそうやわ、誰だってうれしいわ、そんなもん」って。飲食店やっててその気持ちがないやつなんていないはずなので。だからわざわざ言いません。

全国に広がる『肉山』

──『肉山』系列店はものすごい勢いで全国に増えてますね。

『肉山』のフランチャイズ1号店は2015年8月にオープンした名古屋店です。オーナーは最初相談に来た時には別の事業をやっていたんですが、それを辞めてでも『肉山』をやりたいって言ってくれた。その熱意にほだされて任せたんです。彼が名古屋で成功したので、いろんな人が興味を持ち始めて、フランチャイズの相談が一気に増えました。仲間同士で食い合ってほしくないので、1都道府県に1オーナーというルールでFC化し、現在は、名古屋の他に、大宮、福岡(2店舗)、高松、仙台、大阪、横浜、千葉、新潟(3店舗)、静岡、札幌、秋田、金沢、富山にできてます。

──フランチャイズ店のオーナーに対しては指導などはしているんですか?

直営店と同じく基本的に細かい指示などはしてません。店にも行きませんし。さすがにオープンする時はお祝いと激励に行ったり、Facebook上でよろしくお願いしますと告知・紹介はしています。主にしているのは情報共有くらいですかね。例えば全国の『肉山』やホルモン屋のオーナーのグループLINEで、クレーマーの実例を送って気をつけましょうねと注意を促したり、お客さんから僕に来たお礼のメッセージを共有したり。あとは僕が各店舗をパトロールしてよかった点を共有したり、肉の焼き方などをアドバイスしたりしてます。例えば僕が2012年に肉山をオープンして3、4ヶ月後に焼いた肉の写真を「この焼き方はヘタクソすぎます。断面もそうだし、焼いてる外側の色が薄すぎる。この頃やったらこれでもよかったけど、今はダメ。皆さんは注意してもっとうまく焼いてね」みたいなコメントをつけて送っています。僕がやることはこの程度で十分なんです。

あと、『肉山』系列店のオーナーに対しては過度な売上増は求めません。例えば開店と同時にお客さんが押し寄せることなんて基本的にないじゃないですか。だから、「開店からの数時間の席を埋めるために何か考えろ」みたいなことは言いません。逆にオーナーから「早く来たお客さんに安くお酒を提供するハッピーアワーをしましょう」と提案されても「そんなんせんでええから」と却下します。「早い時間に来られへんお客さんに不公平やろ」と。

 

全国に広がる『肉山』。その勢いは衰えることはなく、現在進行系で増殖中。しかも光山さんは『肉山』だけではなく、様々な業態の飲食店をプロデュースし、そのすべてを成功させています。次回はその秘訣や、フランチャイズの契約金、ロイヤリティ、投資した場合の金利を激安にしている理由などに迫ります。乞う、ご期待! 取材・文:山下久猛 撮影:守谷美峰

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