仕事を楽しめる人は「何を」工夫しているのか?|ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん
さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、ファミコンにまつわる思い出から今につながる仕事の哲学や人生観についてうかがっていく本連載「思い出のファミコン – The Human Side -」。
今回ご登場いただくのは、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。漫画・アニメ・ゲームからアイドルに至るまで、アナウンサー界きってのポップカルチャーへの造詣の深さで知られ、関連イベントの司会やインターネット番組への出演など、ラジオにとどまらない活躍を見せる。メディアの枠にとらわれない自由な活動スタイルの原点はどこにあるのか?お話を伺った――
プロフィール
吉田尚記(よっぴー)さん
1975年生、東京・銀座で育つ。慶応義塾大学卒業後、1999年にニッポン放送入社。ラジオ番組のパーソナリティとして、現在は『ミュ~コミ+プラス』(毎週月~木曜 深夜24時)を担当、同番組で2012年には第49回ギャラクシー賞DJ・パーソナリティ賞を受賞。著書に累計10万部発行された『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)。
https://twitter.com/yoshidahisanori
「コナミコマンド」は銀座で覚えた
――よっぴーさんが最初に触れたゲーム機とは?
初めて我が家にやってきたゲーム機は、アメリカ・コモドール社のマックスマシーン(MAX MACHINE)というキーボード一体型のマイコンです。ファミコンと同じようにテレビにつないでカセットを挿して遊ぶのですが、海外とやりとりをする貿易事業を営んでいた父親が、「これからの時代はコンピュータだ! ファミコンはコンピュータじゃない!」と言って、なかなかファミコンを買ってくれなかったんです。
その次がMSXだったんですけど、MSXを持っていたのは約30人のクラスでたったの2人……。一番ハマったゲームは『三國志』なんですが、当時はデータセーブを外付けのテープレコーダーでやっていたんですね。ちょっと進めては5分かけてセーブするみたいな(笑)。ファミコンを買ってもらったのは結局小学校高学年になってからでした。
―― 当時の思い出についてきかせていただけますか?
僕は東京の銀座で育ったんですが、学校の通学路に「キンタロウ」っていう有名なおもちゃ屋さんがありました。銀座四丁目の一等地にあったのですが、建て替えのときに人通りの少ない場所に移転していたことがあるんです。そこの店頭でファミコンが遊べたので、自宅にファミコンがなかったぶん、めちゃめちゃ遊びました。本当は禁止されていたんですけど、ランドセルを背負ったまま学校帰りに遊んで、そこは子どもたちのコミュニティになっていましたね。『グラディウス』のコナミコマンドを覚えたのも「キンタロウ」店頭での口コミでした。
自宅にファミコンがやってきてからは『ファミスタ(ファミリースタジアム)』にハマっていました。僕が使っていたのはスパローズ。当時、ヤクルトスワローズのファンクラブの子ども会員は神宮球場の内野自由席にタダで入れたんです。ファミスタの設定では最弱チームでしたけど……。
小学校高学年からは中学受験塾に通っていたのですが、自宅学習を最後までちゃんとやったら1時間だけ遊んでいいよ、という家庭内ルールがあったので、ファミコンやるために勉強を頑張る!というかんじでした。
「情報を伝える」仕事に憧れがあった
――メディアのお仕事を目指したきっかけは?
子どもの頃から漫画や雑誌など、メディアから大いに影響を受けていました。僕が育った当時の銀座には、オムロンのパソコンショップがあったんです。そこには『ソフトベンダーTAKERU』っていう、ファミコンのディスクシステムと同じように、店頭でフロッピーを渡すとゲームデータを書き換えてくれるサービスがありました。そのショップによく入り浸っていて、銀座の先の京橋にあったスイミングスクールからの帰りに立ち寄り、髪の毛もまだ濡れたまま、『ログイン』や『テクノポリス』というパソコン誌や、創刊まもない『ファミコン通信』を夢中になって立ち読みしてました。
そんなこともあって、将来はパソコン誌を作る人になりたいな、と考えていた時期がありました。実際、就活もパソコン誌を出している出版社を中心に活動していたほどです。「情報を伝える」という仕事への憧れの原点ですね。
―― 現在のお仕事に、ファミコンはどのような影響がありますか?
ラジオの仕事というのは、現在はインターネットとメディアミックスすることで色んな表現が可能になっていますが、基本的には電波に乗せる「音」だけでいかにリスナーに楽しんでもらうか工夫することに醍醐味があります。その「限られた表現での工夫」という意味で、ファミコンから受けた影響はあったと思います。
一例として、私が子どもの頃の『ファミ通』は、ゲームの「楽しみ方」をいかにおもしろく読者に伝えるか、という点ですごくクリエイティブなメディアだったと思うんです。たとえば、推理アドベンチャーゲームである『ポートピア連続殺人事件』をクリアするまでのスピードを競う、とか……(笑)。本来は事件を解決することが目的なのに、違う「軸」というか視点・次元の遊び方を提案するクリエイティビティに毎回衝撃を受けていたことをよく覚えています。
また、ゲームの基本的な仕組みってファミコン時代にほぼ完成されていると思うんです。それこそ『ファミスタ』がいい例です。現在はグラフィックも進化して選手のデータもどんどん新しく入れ替わっていますが、野球ゲームとしての基本的な遊びの仕組みは一緒。テンポの速さ、UIのシンプルさは初代『ファミスタ』の時点で完成されていたんじゃないかと思うんです。こうしてインタビューにお答えしながらでも、サクっと1試合終了できてしまう遊びやすさが素晴らしいですよね(笑)。
プロとして仕事を楽しむ
―― お仕事で、ターニングポイントになったことは何ですか?
新卒でアナウンサーとしてニッポン放送に入社して、初めの1~2年はぜんぜん仕事がうまくできなくて、自分はアナウンサーに向いてないんじゃないかと思っていたことがあります。アナウンサーの仕事って、「決められた放送時間に合わせて、より面白い内容にする」ということが最大のミッションなのだと言えます。つまり、その「面白くするスタイル」をいくつ持っているか、ということが大切なわけです。しかし私が新入社員のときはそのルールがまったくわかっていませんでした。
そんなある時、映画『機動警察パトレイバー the Movie』を特集する『オールナイトニッポン』のパーソナリティをまかされたんです。私にとって『パトレイバー』はファンクラブに入るほど大好きな作品だったので、ありとあらゆる豆知識を詰め込んで、作品愛を語りたおしたところ、リスナーから「本物のパトレイバーオタクが喋っている!」と大きな反響があったんです。そのとき初めて、「自分のスタイルは、これでいいんだ!」という手ごたえを感じ、自信を持つことができましたし、「アニメやポップカルチャー関連の仕事は吉田にまかせろ」というパーソナルブランディングのきっかけにもなりました。
――eスポーツについてはどのようにみていますか?
ゲームショウでたくさんイベントの司会の仕事をさせてもらっていますが、今やゲームの映像表現はアニメや映画よりもリッチになってきています。これほど成熟した業界に、プロのプレイヤーがいないことはおかしいな、と思っていました。プロプレイヤーが誕生し、スター選手が登場することでeスポーツも他のスポーツと同様に人気を獲得していく可能性があると思います。
プロが生まれたことはとてもいいことだと思いますが、一方で、スポーツとしてのルールやレギュレーションの作り方はまだまだなのかな、と感じることもあります。今のeスポーツは基本的に最新の対戦ゲームによるガチ勝負しかないですよね。私が面白いと思うゲームの楽しみ方っていうのは、「ポートピア連続殺人事件の最速クリア」だったり、「バイオハザードのナイフ一本クリア挑戦」とかだったりするので、色んな遊び方の工夫して競い合うのも良いんじゃないかと思いますね。初代『ファミスタ』の対戦プレイに実況をつけるだけでも盛り上がるでしょうし、きっとコンテンツとして成立すると思いますよ。
取材・文:深田洋介
1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。
http://famicom.memorial/
撮影:向山裕太 編集:鈴木健介
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