グラフィックデザイナー葉田いづみさんの余白を活かした美しい空間 その道のプロ、こだわりの住まい[5]
葉田さんがデザインを手掛けた『アトリエナルセの服』(成瀬文子著/文化出版局刊)(画像提供/葉田さん)【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。
色も物も氾濫させず、きりっとシャープに
ダイニングでは、壁付けの棚だけを収納スペースに。夫婦それぞれが大切に長く持ち続けたい本を厳選している。右側の壁は何も飾らずにスッキリしていて広さを感じさせる(写真撮影/嶋崎征弘)
空間に足を踏み入れると、自然と背筋がしゃんとのびる感じがする。凛と美しく整えられたこの部屋は、グラフィックデザイナーの葉田いづみさん、木工作家である夫ともうすぐ小学生になる長男との3人の住まいだ。
3年前にリフォームしたマンションは、構造上間取りを変えることはせず、壁や床などの内装に手を加え、モノトーンを基調にした空間に仕上げている。壁や床は白とグレーを中心に、キッチンは業務用をイメージしてステンレスを多く使うように。テレビ台や椅子、棚などには夫が手がけたものもある。
「たくさんの色があると、どうまとめたらいいのか分からなくなってしまうので、色数は増やさないようにしています」
家具も雑貨も白や黒、グレー、ステンレスを選ぶようにすれば目にうるさくない。色が氾濫せず、すっきりとまとまって見えるというわけだ。テレビ台は木工作家である夫の西本良太さんが手がけたもの。床置きにせず配線もきれいに隠しているさまはさすが。「広い壁に何か飾るのって難しい。あえてこのままにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)
「面」をキープして、広く見せる
リビング・ダイニングでは棚もテレビも壁付けのため、床はすっきりしている。大きな壁も特別に飾ったりはしていない。広い「面」があるおかげで、すっきりと清潔感のある雰囲気になっている。
「広い壁にものを飾るのが苦手なんです。バランスが難しくて悩んでしまう。だったら何もなくていいかな、と。ヌケ感というか余白があったほうが好きということもあります」
棚は一定の高さにそろえ、その上は開けるように。収納する本は棚に入るだけと決めているし、子どものおもちゃはケースに入るだけの分量をリビングに持ち込んでよし、としている。
「子どもはおもちゃを広げるし、夫は仕事柄いろいろな材料を収集しているし、散らかることもあります。でも、元に戻す場所が決まっているので、この片付いた状態にするのは苦にならないのかもしれません」
ケースに入りきらないおもちゃは寝室の収納スペースに。夫は自身の部屋にあれこれ入れていて、葉田さんはほとんどノータッチだという。持ち込む物量を意識し、余白を活かすことで、家族共有のスペースであるリビング・ダイニングのすっきり感が保たれている。ソファ脇に積んでいるボックスが長男のおもちゃ入れ。放り込めばいいだけなので、自分できちんと片付けができる。ここからはみ出るものは、隣の寝室にあるベッド下のおもちゃスペースに(写真撮影/嶋崎征弘)
よく使うものは素材と色を厳選して出しっぱなしに
キッチンも床の面が広い。見渡すと、一般的な家のほとんどにある食器棚が存在していないことに気が付く。
「調理台の下の引き出しに全部入っているので必要ないかな、と。奥行きも幅もあるので収納力たっぷりで、調理道具やキッチン用品などはほとんどしまっておける。よく使う道具だけ出しっぱなしにしています」「業務用のキッチンが好きなのですが、オープンすぎると掃除が大変だから引き出しタイプにしました」という調理台。収納力たっぷりなので必要なものはすべて収まってしまう。色を抑えた空間だからこそ、窓辺のチューリップが映える(写真撮影/嶋崎征弘)
調理台上や壁付けの棚に置いている道具も、ステンレスや白、黒と色数を抑えて。リビング・ダイニングでのルールと同じだ。
食器棚しかり、一般的にはそろえてしまいがちな収納家具や雑貨でも、葉田さんは取り入れる際に必要かどうかじっくり吟味しているという。
「引き出しの中にケースがあったら便利だろうな、と思ってもすぐには買いません。紙袋でサイズを確かめて、やっぱり必要だと実感したら探すようにしています」よく手にする道具は、使い勝手はもちろん、厳選しているため出しっぱなしのままでもすっきり。正面の壁はリフォーム時に薄いグレーのタイルを貼ってクールな印象に(写真撮影/嶋崎征弘)
仕事部屋でも子どもの絵やアート作品を飾ってほっと一息
一方、仕事部屋は葉田さんにとっていちばん悩ましい場所なのかもしれない。自身が手がけた本はもちろん、好きな小説や仕事の資料などは、どうしても増えてしまうから。
「ダイニングと同じように、本棚に入るぶんだけと気を付けて、増えたら誰かに譲ったり処分したりして減らしています」
ボックスを積み重ねて本棚にし、一定の高さを保つようにしている。窓からのやわらかい光が差し込む葉田さんの仕事部屋。グラフィックデザイナーという仕事柄、書籍や雑誌が多い(写真撮影/嶋崎征弘)
また、デスクの背面の壁にはほとんど物がなく、アート作品を床置きしているだけで一面が広く空いている。夫の商品や仕事道具も置いているが、白いボックスにまとめて重ね置きすることで、色数を増やさないように。見事に、自身が仕事に集中できる空気を生み出している。壁に貼っているのは長男の絵。スタイリッシュな空間のなかで、ほっと心を緩ませてくれるかわいらしい作品(写真撮影/嶋崎征弘)
アート作品を飾るためのスペースを設ける
必要なものしかないのかと思うと、決してそうではない。棚には子どもの絵が飾られていたり、夫の作品を収納小物として使っていたり、本棚の隙間にデザインが好きで捨てられない紙箱が積んであったりする。その塩梅が絶妙で、好きなもの、必要なものを厳選しているということが伝わってくる。さまざまなアーティストの作品が並んでいる玄関。夫婦で好きなものを集めていて、ちょっとしたギャラリーのよう(写真撮影/嶋崎征弘)
「玄関の靴箱の上は、飾るためだけのスペースです。結構幅が広いので、いろいろ置いてしまうし、気が付くと夫が拾ってきた小石とかが無造作に並んでいることもあります。でもそれもおもしろい。ちょっと増えすぎだなと思ったときだけ整理しながら、ここは家族で好きに飾って楽しんでいます」
ドアを開けるとすぐ目に入る場所に、好きなアーティストや夫の作品、花などが並んでいる。ガラスや木の素材、さらに色も白と黒が多い。好きなものを並べても色が増えないということは、好みの基準をブラさずにもっているということなのだろう。
「私も夫も、雑貨やアートが好きなので、つい増えてしまいます。飾るスペースはここだけとしながらも、欲しいという気持ちもあって、いつもせめぎ合いなんです。悩ましい」と笑う。
収納と装飾、余白のバランスを大切に
(写真撮影/嶋崎征弘)
ふとテーブルの上を見ると、天板は薄いグレーで木の椅子、入れてくれたお茶セットもトレーはグレーで器は白と、この家のルールが凝縮した世界になっていた。色であふれるのも、物が増えるのも、苦手だからやっていないだけと話すが、その確固たる基準があってこの空間が保たれている。気が付くと、しゃんと伸びた背筋がふんわり緩み、すっかりくつろいでいた。余白を活かしたキリッとした空間でありながら、子どもの絵やアート作品を要所に飾って楽しむ。モノトーンの内装でありながら、木製の家具や雑貨を少し取り入れて温かみを感じさせる。このメリハリは、デザイナーである葉田さんのバランス感覚が成せる技だ。ダイニングの天井にさりげなく飾られている蛍光灯を模したオブジェは夫である西本さんの作品(写真撮影/嶋崎征弘)
「仕事部屋の本が増えてきちゃったので、また整理しないとなと思っています。あと、夫の部屋もカオスだったので年末に整理したのですが、きっとまたいろいろ持ち込んでいるだろうから、今どうなっているかは分からないです」と、悩みながらも楽しそうに笑う。この家での生活がとても居心地のいいものなのだとしっかり伝わってくる、そんな笑顔だった。リビング・ダイニングでは、本のほかに、CDもこの棚に収まるだけにしているそう。上部には絵を一枚かけているが、そのほかの壁に何も飾っていない。収納と装飾、そして余白のバランスを取っていることがよく分かる。「これくらい限られたスペースの壁なら、何か飾ってもバランスが取りやすい気がします」(写真撮影/嶋崎征弘)●取材協力
葉田いづみ
静岡県出身、東京都在住。木工作家である夫の西本良太さんと息子の3人暮らし。デザイン事務所勤務を経て、2005年に独立。書籍を中心に活躍し、すっきりとシャープでありつつ、柔らかも感じさせるデザインに定評がある。
>HP
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