料理家のキッチンと朝ごはん[2]前編 旅する気分で料理する。口尾麻美さんのトルコ風朝ごはん
トルコやリトアニア、ウズベキスタンなど、旅先でヒントを得たレシピを、書籍や雑誌、料理教室で提案する料理家、口尾麻美さん。訪れた国で少しずつ買い集めた色とりどりの雑貨が楽しげに並ぶキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。
旅する料理家、口尾さんに教わるトルコの朝の定番メニュー
東京都内のヴィンテージマンションにお住まいの口尾さん。17年前にフルリノベーションしたキッチンスタジオ兼ご自宅は、全面的に扉のないオープン収納が採用されています。
「料理しているときに扉を開け閉めするのって手間がかかりますよね。扉を汚さないよう、その都度、手を洗うのも大変。中に収納したものを覚えておくのも難しいですから、あえて扉を付けないことにしたんです」という口尾さん。 異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)フルリノベーションする前とした後の間取り
今回、口尾さんに教えていただくのは、赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」と、卵料理の「メネメン」です。「メルジメッキ・チョルバスはトルコの伝統的なスープのひとつ、メネメンはトルコ風のスクランブルエッグ。どちらもトルコの朝ごはんの定番メニューで、日本でいう味噌汁と卵焼きのようなイメージです」
ほんのり甘い赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」
用意するもの(3~4人分)
・赤レンズ豆 150g
・玉ねぎ 1/2個分
・サルチャ(トマトペースト。トルコの調味料) 大さじ1
・水 900ml~1L
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 小さじ1~2
【仕上げ用】
・バター 大さじ1
・プルビベル(赤唐辛子フレーク。トルコの調味料) 小さじ1
・ドライミント 小さじ1
・レモン くし形切り2~3かけ「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)
サルチャやプルビベルは、輸入食品を扱うスーパーやカルディなどで見つけられるそうです。「サルチャはトマトケチャップ、プルビベルはカイエンペッパーで代用できます。でも、できたら一度は本物を使ってみてほしい。異国の味が楽しめますから」
そう話しながら口尾さんは、壁面に取り付けたマグネット式ナイフラックから包丁をぱっと取り出しました。キッチンカウンターに置いている小さなまな板を引き寄せ、玉ねぎをみじん切りに。口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)
L型キッチンの左手にぱっと移動してガスコンロに鍋をのせ、口尾さんはオリーブオイルの瓶を手にとりました。鍋にオリーブオイルを熱し、サルチャと玉ねぎを加えて炒めます。赤レンズ豆をさっと水で洗って鍋に入れ、全体を混ぜたら水を加え、蓋をして弱火で15分。その間に、メネメンをつくります!
トマトの酸味とチーズの塩気がクセになる卵料理「メネメン」
用意するもの(2~3人分)
・卵 3個
・トマト 1個
・玉ねぎ 1/3個
・ししとう 2本
・フェタチーズ 50g
・塩 お好みで
・オリーブオイル 大さじ2「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)
メネメンをつくりはじめる際、L型キッチンからダイニングテーブルに作業スペースを移した口尾さん。「カセットコンロがあれば、家中どこででも料理できます。料理する場所をあちこち変えてみると、気分が変わって楽しいですよ」と話しながら、トマトは角切りに、玉ねぎはみじん切りに、ししとうは輪切りにカット。最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)
トルコのメネメンは、小さなアルミ鍋でつくるのが一般的だそうです。「ガスコンロにかけたときに不安定なら、五徳に網を乗せるといいですよ」と話しながら、口尾さんは四角い焼き網を取り出しました。決してものが少なくない口尾家ですが、必要なときに必要なものがひょいっ!と出てくるのはさすがです。「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)
鍋にオリーブオイルを熱し、カットした玉ねぎを入れて炒めます。玉ねぎがしんなりしたら、ししとうとトマトも入れて炒めます。トマトに火が通ったら、溶いた卵、ほぐしたフェタチーズの順にアルミ鍋へ。口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)
軽くかき混ぜたら蓋をして火を止め、あとは余熱で火を通します。その間にメルジメッキ・チョルバスの仕上げです!耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)
スープの仕上げは、香りバターとレモン汁をお好みで
煮込んでいた鍋の蓋を開けると、赤レンズ豆がホロリと煮くずれておいしそう。「豆や野菜の形が少し残ったままでもいいけれど、今回はハンディブレンダーでなめらかにします」「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)
最後に、仕上げ用の香りバターをつくります。フライパンを熱してバターを溶かし、プルビベルとドライミントを加え、香りが立ったら火を止めます。溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)
煮込んだ赤レンズ豆の鍋に香りバターを入れたら、メルジメッキ・チョルバスの完成です!香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)
「メルジメッキ・チョルバスもメネメンも、どんな食材や調味料を使うかで、味がかなり変わります。料理の途中でも何度か味見をしながら、好みの味に仕上げてくださいね」「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)
日本にいながら旅する気分が味わえるのが、異国料理の醍醐味
食卓には、ふっくらと火の通ったメネメンと、レモンを添えたメルジメッキ・チョルバス、トルコのごまパン「シミット」も並べて、「いただきまーす」1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)
「海外への旅行となると、なかなか気軽に行けません。けれども、異国のレシピを学んで料理するのは、それよりずっと手軽ですよね。本場の食材でつくった料理を食べれば、日本にいながら旅する気分が味わえます。新しい食材をいろいろ試してみると、楽しみが広がりますよ」「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)
口尾さんのお話のなかで、繰り返し登場した「楽しい」という言葉。ヨーロッパや北アフリカ、中東、アジアなど、世界各地を旅しながら集めた色とりどりの雑貨が楽しげにあふれるキッチンで、楽しげに料理をする口尾さんにぴったりの言葉なのが印象的でした。
次回は、口尾さん流の住まいのしつらえ方についてお聞きします!
料理家のキッチンと朝ごはん[2]後編 オープン収納をセンスよく見せるポイント5つ
■料理研究家 口尾麻美さんのキッチン
●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。
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