積水ハウスなど不動産のプロが騙された”地面師詐欺”の手口に迫る迫真ドキュメント
2018年8月に公表された、積水ハウスが地面師グループから詐欺被害に遭った事件。不動産のプロである大手住宅メーカーが55億円以上もの大金をだまし取られたという衝撃のニュースは、まだ記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。
”地面師”とは「他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師」(大辞林より)のこと。終戦後の混乱期、そして1980年代後半のバブル経済期に出現したこの「地面師」という詐欺集団が、実は今ふたたび日本中で跋扈しているといいます。彼らは不動産の持ち主になりすまし、勝手に他人の不動産を転売して大儲けしているのだとか。
本書『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』では、積水ハウス事件をはじめ、新橋「白骨死体」事件、アパホテルが騙された「溜池駐車場」事件、台湾華僑になりすました「富ヶ谷事件」など昨今の地面師詐欺事件を紹介しながら、その複雑かつ巧妙な手口や実態を暴いています。
中でもやはりスケール、被害金額ともに群を抜いているのが冒頭でもふれた積水ハウス事件。ある地面師グループが東京・五反田にある老舗旅館「海喜館(うみきかん)」を70億円で売買する契約を積水ハウスと結び、実質的には55億円以上をだまし取ったわけですが、この犯行計画の中心にいた人物が内田マイク、北田文明、カミンスカス(小山)操です。まず内田はなりすまし役の手配師である秋葉を通じて、海老澤佐妃子(旅館の持ち主)のニセ者である羽毛田、その内縁の夫・前野役の常世田を用意。免許証、パスポート、印鑑証明なども偽造したうえで契約を交わしたといいます。本書では内情がさらに詳しく書かれていますが、用意周到で手が込んだやり口には脱帽するばかりです……。
とはいえ、積水ハウスとて日本屈指のディベロッパーであり不動産のプロ。なぜこうもコロッとだまされてしまったのか……。実は今回の地面師グループはほかにも複数の会社に取引を持ちかけていたことがわかっていますが、他社は不審に感じたため契約にいたることはありませんでした。しかし、積水ハウスは「積水は騙されている」という内容の警告文書が送られてきていたり、売買の決済直前になりすまし工作がばれそうになったりがあったにもかかわらず、詐欺を見抜くことができず仕舞い。もちろん積水側は詐欺に遭った被害者ではありますが、本書を読むと、いくつもの落とし穴や杜撰な対応が重なり今回の事件は起きたのだと感じられます。
その後、積水ハウスは会長が責任をとって辞任することとなり、件の地面師グループは現在のところ17人が逮捕されています。しかし、警察の捜査により犯行グループを摘発した事件もある反面、捜査が難航し立件にいたっていないケースや不起訴に終わるケースも多いと作者の森氏は記しています。「地面師事件では、何億、何十億という現金を手にしてきた犯人が間違いなく存在する。しかし、仮に何人かの犯人が捕まっても、肝心の金の行方は杳として知れない。黒幕や頭目が罪に問われることもめったにない」と。事実、積水ハウスがだまし取られた55億円超の金は闇の住人たちの手で分配され、すでに溶けてなくなったとみたほうがいい、としています。
まるで犯罪小説でも読んでいるかのような気分にさせられますが、これらは実際に日本で起きていること。全国の不動産関係者や銀行員、司法書士などはもちろんですが、それ以外の人にとっても必読の一冊といえるかもしれません。なぜなら地面師たちはいつ、私たちや私たち家族の土地を狙っているともわからないのですから。
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