搾取されがち…「いい人」でいるのはもう限界|川崎貴子の「働く女性相談室」
「働く女性の成功、成長、幸せのサポート」という理念のもと、キャリア支援やコンサルティング、結婚コンサルタントなど、幅広い領域で活躍されている川崎貴子さん。その経験と女性経営者ならではの視点から、のべ1万人以上の女性にアドバイスをしてきた川崎さんが「“働く女性”に立ちはだかるさまざまなお悩み」に厳しくも温かくお答えするこのコーナー(→)。
今回は、「頼まれたら断れず、気づけばどんどん仕事が増えてもう疲れてしまった」というお悩みについてです。
<今回の相談内容>
頼まれると断れない性格なこともあり、上司や同僚から言われるがまま辛くても笑顔で仕事を引き受けていたら、業務外の仕事がどんどん増えてしまい、気づけば誰よりも早く出社し、遅く帰宅…。ほとほと疲れてしまいました。もう「いい人」をやめてしまいたいです。
(36歳 事務職)
開催している婚活勉強会でも、個人カウンセリングでも、同じような悩みを持っている女性に私はこれまでたくさん出会ってきました。どの女性も、優秀で気が利く、性格の良い人ばかり。そして、どの女性たちも相談者さんと同じように、自分の仕事じゃないものも引き受け、行きたくもない会合に付き合い、体はもちろんの事気持ちまで疲弊していたのでした。
「いい人」を大量生産している日本
なぜこんなにも「いい人」が社会に存在し、みんな疲弊しているのか?
それも特に女性で多く見られるのかは、やはり我が国特有の「和を以て貴しとなす」とする本来なら誇らしい文化、精神が強固に根付きすぎ、「NO!と言える日本人」を作れなかったのでないかと。さらには戦後、国全体が「争いごとアレルギー」になった(させられた)事なども挙げられます。
私たちは、学校でも家庭でも「交渉のやり方」「ディベート」「持論をプレゼンテーションする方法」など、自我をアピールするスキルは教えられてきませんでした。逆に「空気を読んで、協力し合って、自我を謹んで」は9年の義務教育&それ以降の教育でも叩き込まれた気が致します。家庭内においても、家長の動向に家族が注目&気を使っていた名残りは昭和に育った世代には色濃く残っていました。
それでも男子たちは、スポーツや戦いごっこなどの「争いごと」で遊び、例え喧嘩をしてきても「泣いて帰ってくるな!やりかえせ!」と親に言われて育ちます。時代がたとえ昭和でも、競い合う事の楽しさや「いい人」でいる事のデメリットを多少は学べたように思うのです。
ところが、昭和育ちの女子は多くの家庭で「やりかえせ!」とは教わりませんでした。どうやって仲直りするか?どうやって揉めないようにするか?を諭されるだけに終わらず、日常的にも「お手伝いができる」「習い事や勉強をちゃんとやる」「行儀が良い」など、「女子としてのいい子、親にとってのいい子」が絶対評価基準。
真面目な女子ほど、親に褒められるようにそれを心がけて成長したであろうと容易に想像がつきます。
逆に、勉強やスポーツがダメでも「気立てがいい子だから」「一生懸命やっていたから良し」という、結果よりも過程に着目されてほめられた「いい子の成功体験」も大量にあるかもしれません。
ただ「今月は傘をなくさなかった」というだけで男兄弟が褒められるのを見て、解せない思いをした姉や妹はたくさん存在した事でしょう。そして、男兄弟との差別化で、もっともっと「いい子」になる必要性も感じたはずです。
かくして、真面目で素直な女性たちは完全なる「いい人」になって社会に出てゆきます。
社会はただの「いい人」を評価しない
ところが、社会に出ると絶対的基準であった「いい人」の価値が暴落するのを感じます。
世の中に出た途端、「いい人」でいる事や「頑張ったその過程」よりも「結果」や「自分の意見」を求められるからです。
「女性社員はわが社男性社員のお嫁さん候補」だった時代が完全に過去のものとなり、多くの企業が裁量労働制へ舵を取ろうとしている現代、この傾向は今後さらに加速してゆくでしょう。
また世の中には、人を利用して手柄を立てる人や、厄介ごとを誰かにパスして逃げる人がうじゃうじゃ存在します。真面目にやっている人より声の大きい人が出世したり、地味な仕事をやらないで目立つ仕事だけしている人が評価されたり。
社会はある意味「理不尽の宝庫」です。
恋愛市場でも同じです。「いい人」ではなく、他のライバルを抜け駆けられるような「ちゃっかりした女性」が恋人をバンバン作って早々に結婚したりします。
そして、そんな搾取型の社会人たちがターゲットに定めるのは、頼りがいのある人でも能力の高い人でもなく、「NOと言わない人」になり、結果「いい人」に負担が集中する仕組みになっているのです。
「いい人」の手放し方
現代のリアル社会では、夢中で頑張るキミにエール、もしくは、陰ながら応援してバラを送ってくれるイケメン(「ガラスの仮面」の紫のバラの人)もいませんし、目立たず頑張る貴女に勝手に注目し、潜在能力を見出し、「おまえならできる!」と引き上げてくれるような上司(「エースを狙え!」の宗方コーチ)もなかなかおりません。
相談者さんが他人のケアで疲弊しながらも、「今日も善行を行えた!」と修行僧的満足を覚えているならまだしも、「損をしている気がする」「だんだん違和感を覚えている」と、気づいたのならそれが契機です。今されている事はご自身の徳を積んでいるのではなく、ご自身の時間が搾取されていると「デメリット」に気づかれた今が、長い事熟成してきた「いい人」を手放すベストタイミングです。
とはいえ、長年やってきた「いい子」であり「いい人」ですから、変身するのはなかなかこわい事ですよね。「断って嫌われたらどうしよう」「冷たい人だと悪評が立ったらどうしよう」と心配する気持ちはよくわかります。
でもね、
人ってそんなに他人の事よーく見ていないんですよ。
(だから、紫のバラの人も宗方コーチもいないってことになるんですが)
そして、万人に好かれる人も万人に嫌われる人もいません。要は、どうしたって自分の事を嫌いになる他人は世の中に存在するのです。
だとしたら、自分の好きな人には好かれる努力をして、「嫌われる人には嫌われて構わない」と覚悟を決めちゃったほうがいいのではないでしょうか。
また、行きたいと思う会にだけ参加し、やりがいがあって結果が出せる仕事に注力したほうが、きっと良い人間関係が生まれ、パフォーマンスも上がるはずです。
人生は、思うより短い
先日、私の古い友人が癌の手術を受けました。ステージは4。ところが、医者から癌の告知を受けた友人が最初に思ったのは、
「ああよかった。今まで好き勝手に生きてきて」
だったそう。
確かに友人は今まで、精力的に好きな仕事をして、興味のある趣味に次から次へとチャレンジしていていつも楽しそうで、「いつ死んでも我が人生に悔いは無し」を体現しているような人でした。
私自身も2年前、乳癌の手術を受けるまで(私の場合、手術しないとステージがわからなかった)、もし余命が3カ月だったら、5年生きられなかったら、と猛烈に考えました。すると今まで、驚くほど「私がやらなくてもいい事」「私があまりやりたくない事」に人生を費やしてきたと気づいてしまいました。
慌てて自分の仕事やプライベートの「やりたいこと、やりたくないこと」「私がやるべきこと、やらなくてもいいこと」を仕分けし、一人構造改革を行ったものです。
大人になると、「いい子ね」と頭を撫でてくれる親はいません。
しかしその分、自分自身の人生を、好きに、自由に、自己の責任において生きる事ができるのです。
「自分の生きたいように生きる」という覚悟を持つこと、その為にご自身の時間や仕事をマネジメントする事が、この長いようで短い人生において「ああ、よかった!よくやった!」と、親の代わりに自分で自分を認めてあげられる事になるのではないでしょうか。
そして「幸せな人生」とは、損得や持ち物の量じゃなく、「自分の人生を自分らしく生きることができるかどうか」だと私は思います。
回答者:川崎貴子リントス(株)代表。「働く女性に成功と幸せを」を理念に、女性のキャリアに特化したコンサルティング事業を展開。
1972年生まれ、埼玉県出身。1997年、人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を手掛け、2017年3月に同社代表を退任。女性誌での執筆活動や講演多数。(株)ninoya取締役を兼任し、2016年11月、働く女性の結婚サイト「キャリ婚」を立ち上げる。婚活結社「魔女のサバト」主宰。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は1万人以上。「女性マネージメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。2人の娘を持つワーキングマザーでもある。
→川崎 貴子氏の記事一覧 イラスト:yoko
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