ビジネスモデル転換期に「スキル重視の採用」に振り切り失敗。理念共感の重要性に気づく~オーマイグラス 清川忠康さん【20代の不格好経験】

ビジネスモデル転換期に「スキル重視の採用」に振り切り失敗。理念共感の重要性に気づく~オーマイグラス 清川忠康さん【20代の不格好経験】

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第29回:オーマイグラス株式会社代表取締役 清川忠康さん

Crevo株式会社代表取締役 柴田憲佑さんよりご紹介)

1982年大阪生まれ。慶応義塾大学、インディアナ大学大学院卒業後、UBS証券に入社。その後、経営共創基盤を経て、2009年スタンフォード大学ビジネススクールに入学。在学中、米中のスタートアップ企業の経営にも関わる。2年次在学中にオーマイグラスの前身となるミスタータディを創業し、代表取締役に就任。

▲日本最大級のメガネ・サングラスのオンラインストア「オーマイグラス」。現在取り扱いブランドは300ブランド、取扱商品数は10,000種類と国内最大級。世界有数のメガネ生産地である福井・鯖江市のメガネ製造会社と提携し、オリジナルブランド「Oh My Glasses TOKYO」「TYPE」「PAGE」の製造販売も行う。2014年からは店舗展開もスタート。現在、銀座、渋谷、大阪など全国に11店舗を展開する。写真は「Oh My Glasses TOKYO 梅田 蔦屋書店」。

ネットが軌道に乗り、満を持してオムニチャネル戦略に転換。しかし…

日本の高性能・品質のメガネを、ネットを通して多くの人に提供したいという思いで、2011年7月にオンラインストア「オーマイグラス」を立ち上げました。最大5本まで自宅で試着可能、直営店もしくは全国の提携店舗で視力を図れば、度つきのメガネも買うことができるという利便性の高さも支持され、多くのユーザーにご利用いただいています。

初めはネットのみで展開していましたが、2014年より直営店の展開をスタート。ネットと実店舗という複数チャネルを融合させ、顧客満足度を上げるという「オムニチャネル」に、ビジネスモデルを大きく切り替えました。

しかし、ビジネスモデル転換後はさまざまな問題が勃発。軌道に乗るまでに、2~3年もかかってしまいました。

急成長中のビジネスモデル転換だったので、組織マネジメントがうまく行かなかったりバックオフィスシステムの統合に手間取ったり、ユーザートラフィックの把握、管理、分析に苦労したりもしましたが、一番苦労したのは「人」です。

ネットのみで事業展開していたときは、まだ立ち上げ期だったこともあり、優秀なエンジニアがいればビジネスはある程度回せました。しかし、リアルな店舗も運営するとなると、店舗開発、店舗運営、在庫管理、マーケティングなどさまざまな役割のスタッフが必要になります。当然、既存社員では賄えず、外部から即戦力となる経験者をスキル重視で採用しましたが、なかなか定着しませんでした。

まず大手流通・小売業出身のマネジメント経験者を何人か採用したのですが、「文化の違い」を痛感しました。大手での成功体験を、そのまま成長過程にあるベンチャーに当てはめようとする人が多いうえ、スピード感も圧倒的に異なり、道半ばにして辞めていく人が続出したのです。

また、ビジネスモデル転換を前に大規模な資金調達を行ったことで、「この会社は成長性がある」と期待して転職してきたハイスキルの人も多かったのですが、入社後に「イメージと違った」と不満を持たれるケースもありました。

一方で、ビジネス自体は順調。ユーザーは増えているし出店計画も進んでいる。しかし、人手は圧倒的に足りない。この状況をどう打開すればいいのだろうか…と頭を抱えました。

「理念共感型」社員のパフォーマンスの高さに気づき、採用方針を改める

そんなある日、激務でもイキイキと働き、成果を上げてくれている社員に、ある共通項があることに気づきました。当社のビジネスモデルや経営理念に共感し、いちユーザーとして「オーマイグラス」の商品を愛用してくれている人ばかりだったのです。

考えてみれば、毎日忙しく、組織も未完成の中、「理念への共感」がなければそもそもモチベーション維持は難しいもの。会社の成長、新しいビジネスモデルの成功を優先するあまり、そんな当たり前のことに気づけず、「スキルの高い人を採用すれば初日からパフォーマンスを上げてくれるだろう」と安易に捉えていたことを反省しました。

それ以来、「スキル重視」の採用から「理念への共感重視」の採用に方向転換。すると少しずつ、「オーマイグラス」のファンが応募してくれるようになりました。彼らは「思い」が強いから、接客も丁寧でブレがありません。常にモチベーション高く、仕事に臨んでくれました。

現在では、理念に共感して入社→現場でユーザーの声に触れることで「オーマイグラス」の存在意義を日々実感→顧客第一の姿勢が磨かれ、成功体験も増える→店長や、マネージャーなど幹部への抜擢――といういい流れができつつあります。

この流れを確かなものにするためには、当社で取り扱っている商品と同様、組織も「高品質で洗練された組織」にしていく必要があると感じています。そうすれば、必ず人もついてきて、さらにいい循環が生まれるはず。まだ緒に就いたばかりではありますが、これからも社員全員がイキイキ働ける環境づくりに注力し、組織力を向上させていきたいと考えています。

現状に甘んじることなく、将来に目を向けて“稼ぐ力”をつけてほしい

最近、「人生に多くを望まない若手」が増えていると感じています。例えば、新しいプロジェクトに携われるチャンス、昇進できるチャンスが目の前にあるのに、つかもうとしない、など。もちろん、チャンスをつかむか否かは個人の自由ですが、「それで本当にあなたの将来は大丈夫?」と、他人事ながら不安に思ってしまいます。

日本経済は今、成熟期にあります。成熟期においては、ガツガツ稼がなくても、既存顧客のリピート需要だけで前年並みに稼げるビジネスが増える傾向にあります。特に大手企業においては、「安定ビジネス」が売り上げの大半を占めているところが多いようです。そのような環境の中にいると、現状維持を覚え、「敢えて難しいことに挑戦し、スキルアップしたい」という意欲がなくなってしまうのかもしれません。

ただ、今の状況が未来永劫続くわけはありません。10年後、20年後の日本経済は、果たしてどうなっているか…そう考えると、私だったら危機感を覚えます。

“稼ぐ能力”は、がむしゃらに頑張れる素地のある20代のうちに身につけておく必要があると、私は思います。30代、40代で頑張ろうと思っても、体力、気力ともに無理が効かなくなるからです。

私は新卒で外資に入社し、厳しい環境で鍛えられましたが、その経験が財産になっています。当時学んだファイナンス知識などはもう陳腐化していますが、体に染みついた「スピード感覚」や「目標達成意欲」などが、現在の業務においてフルに活かされています。だからこそ当社では、意欲ある社員にはスキルや経験を積めるような場を積極的に提供し、将来の糧にしてほしいと考えています。

終身雇用が崩れ、働き方が多様化する中で、これからはますます「個」が重視されるようになるでしょう。そんな中で現状に甘んじていたら、40、50になって無理が効かなくなったときに果たして稼ぎ続けられるのか。心配で仕方ありません。

私個人の価値観を押し付ける気はありませんが、もし少しでも不安に感じたのであれば、ほんのちょっとでいいから視野を先に向けて「将来のこと」を意識してみてほしい。それだけで、仕事への臨み方が変わり、挑戦する意欲が少しずつ湧いてくるのではないでしょうか。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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