全編PC画面サスペンス『search/サーチ』が目指したモノとは? “元ネタ”映画やGoogle広告から考える

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元Google社員が選んだ感情表現

ベクマンベトフがスクリーン・ライフシステムを上手く映像化できるクリエイターを探すしていくなか、白羽の矢がたったのが当時Googleの社員だったアニーズ・チャガンティ(監督)と彼の大学時代の同級生セブ・オハニアン(脚本)である。二人は、『アンフレンデッド』の続編として短編製作の依頼を受け、『search/サーチ』のもとなった6分程度の短編用プロットを執筆。スタジオはその出来のよさから、長尺での製作を再提案したが、チャガンティーは長編化によって“90分間のギミックを観るため”の作品になり、感情表現が失われてしまうことを恐れたという。

チャガンティとオハニアンが映像制作において、“感情”を重視していることは、Google社員時代の監督作、あるいは彼が当時影響を受けたコンテンツにもよく現れている。そのひとつが、二人のブレイクのきっかけとなった動画『Seeds [through Google Glass]』である。ある男性(チャガンティ)がアメリカから故郷インドの母親を訪ねるまでを追ったこの2分間の動画は、ギミックとしてはベクマンベトフが製作した『ハードコア』と全く同じ。ただし、男性がインドに到着するまでの感情を、視線の変化や小道具・景色・人物の見せ方で表現しているのが特徴。最後には男性が母親に“あるもの”を渡し、感動的なラストを迎える。わずか2日間で200万回再生されるのも納得の作品だ。

『Seeds [through Google Glass]』(YouTube)
https://youtu.be/nvo6ls7edUQ

『Seeds』の手腕を高く評価されたチャガンティ監督は、Google内の優秀な若手クリエイターを選抜したチーム“Google Five”に招集され、様々な映像表現を学んだという。中でも影響を公言しているのが、2010年にスーパーボウルで流れた広告動画『Parisian Love』である。同じGoogle Fiveのメンバーが制作したこの動画では、ある男性がフランス・パリへの留学を計画する冒頭から、フランス人の女性に出会い、愛を告白し、そして二人の将来に至るまでの物語を、テキストだけで描いていく。ただし、ト書のように状況を書き記すのではなく、Googleの検索窓に入力する単語やその結果、ドラッグ&コピー、予測変換などの細かな機能だけを用いて、見事に心情を表現しているのである。

『Parisian Love』(YouTube)
https://youtu.be/nnsSUqgkDwU

『search/サーチ』には、この『Parisian Love』から派生したと思しき表現が多数見受けられる。通常の映画のセリフに代わり、ベースとなるのはデビッドの表情を捉えたFacetimeでの会話と、SMSやメールによるテキストでのやりとり。カーソルのスピードやこまかな動きで心の迷い、ショートメールでテキストを打つ際には、一度入力したものを送信せずに削除してみたり、怒りのあまり長文を入力したり……と細部にわたるギミックで、あらゆる心情を描いている。『アンフレンデッド』でも一部使用されたこの手法は、『search/サーチ』では分量も増え、バリエーションも広がった。

『search/サーチ』における感情の表現方法は、冒頭のエピローグに凝縮されている。ここでは、父親のデビッドと、娘のマーゴット、母親パムの15年間の喜怒哀楽を、家族写真、携帯動画、カレンダー機能などを使って構成。デビッド一家の誕生から成長、そして死までの歴史を、観客がファイルを開いて振り返っているかのように感じさせてくれる。『カールじいさんの空飛ぶ家』でも使われた手法だが、同じことをデスクトップ上のアイテムだけでやりきってしまうのだから恐れ入る。

『カールじいさんの空飛ぶ家』(YouTube)
https://youtu.be/AyYG0GGvErE

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