全編PC画面サスペンス『search/サーチ』が目指したモノとは? “元ネタ”映画やGoogle広告から考える

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実はオーソドックスな作品のテーマ

『search/サーチ』の物語は、実はそれほど斬新なものではなく、大枠の構造はむしろ古典的と言えるほどオーソドックスなものだ。長編映画の経験が浅いチャガンティー監督は様々な作品を参考にしたというが、その中でも『search/サーチ』との共通点がわかりやすいのが、デビッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』(12年)だろう。ベン・アフレック演じる夫が過去を振り返っていくうちに、失踪した妻(ロザムンド・パイク)の恐るべき素顔にたどり着く……という作品である。

『ゴーン・ガール』予告(YouTube)
https://youtu.be/ZmCWW58Ony4

ただし、『search/サーチ』は、娘マーゴットの素顔がSNSを通して明らかになっていくのが特徴的だ。『ゴーン・ガール』で日記や回想シーンで行われていたことを、現代風に置き換えた演出である。ストーキングやアカウント偽装による犯罪、動画拡散でこじれる人間関係など、負の面が強調されがちなSNSだが、『search/サーチ』では陽の面も描かれている。マーゴットは匿名のコミュニティで心情を明かし、共通の趣味を持つ人々と交流し、居場所を見出していたのである。SNSが利用するもの次第で毒にも薬にもなる、ということを描いているのは、なかなか珍しい。

ジョン・チョー演じるデビッドお父さんの感情が、SNSに接することで発露していく点も新しい。デビッドは、シリコンバレーで働くソフトウェアエンジニアであるため、ITリテラシーも高め。娘のアカウントに侵入する程度はお手の物だ。そんな彼でさえ、目まぐるしい速さで発展する動画SNSに翻弄され、思いもよらないしっぺ返しを食らう場面も。娘の新たな一面を知るたびに動揺し、時に暴走してしまうお父さんの純情な姿に、萌えを感じる方も多いのではないだろうか。ちなみに、主人公デビッドのキャラクターは、実際にシリコンバレーでエンジニアとして働いていたチャガンティー監督の父親にオマージュを捧げたものとのこと。

注意深く『search/サーチ』を観てみると、実は「全編PC上」だけでは進行していないこともわかってくる。監視カメラの視点や、ニュース映像、屋外の群衆シーンや空撮など、スクリーン・ライフのコンセプトから逸脱してしまう場面が徐々に登場するのである。チャガンティー監督はこういったシーンを「インディーズ作品ではなく、より洗練された映画として完成させるために」採用したという。「全編PC上で展開」に拘り過ぎず、映画として成立させることを優先しているのである。『search/サーチ』が画期的たるゆえんは、オーソドックスな物語を、感情表現を失うことなく、現代的なギミックを使って成立させた27歳の若き監督チャガンティーの手腕にほかならない。もし、彼がGoogleで働いていなかったら? もし、ベクマンベトフと出会っていなかったら? 一つの要素が欠けただけでも、『search/サーチ』は凡庸な作品になっていただろう。

なお、チャガンティ監督は『search/サーチ』の続編や、必然性のないスクリーン・ライフ作品に興味がないことも明かしている。ベクマンベトフが、今後チャガンティ監督のような才能を見出し、スクリーン・ライフを成功させることができるのか。気になるところだ。

『search/サーチ』予告(YouTube)
https://youtu.be/75D75RG6csA

『search/サーチ』は公開中。

『search/サーチ』
(2018年/アメリカ)
原題:Searching
監督:アニーシュ・チャガンティ
製作:ティムール・ベクマンベトフ (『ウォンテッド』監督・『アンフレンデッド』製作)
脚本:アニーシュ・チャガンティ&&セブ・オハニアン
出演:ジョン・チョー(『スター・トレック』シリーズ)/デブラ・メッシング(「SMASH」「ウィル&グレイス」)/ジョセフ・リー/ミシェル・ラー
公式サイト:http://www.search-movie.jp/

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(執筆者: 藤本 洋輔) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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